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二人で一人の天才

創造すること、クリエイティブであること、に苦しんでいる個人に、この本が届くことを願ってやみません

カリスマ性のある孤高の天才へのあこがれをもつことが多いイノベーションの世界でも、スティーブ・ジョブズにはスティーブ・ウォズニアックがいて、音楽の世界にもジョン・レノンにはポール・マッカトニーがいる

ピカソもゴッホも単なる協力者や支援者を超えた、かけがえのない「クリエィティブ・ペア」の対となる相手の存在がいることを知り、勇気づけられる

出会いから、ペアを組み、適切な距離感を見出し、絶頂を迎え、やがて別れるペアの一生を、著名なペアの物語を紡ぎながら綴る本書の真髄は『第3部 弁証』にあります

スポットライトと影(主演俳優と監督)

液体と容器(ボケとツッコミ)

ひらめきと努力(夢想家と実務家)

ペアの役割を象徴的な対比で明確に切り分け、相反する二人の性格や価値観や働きを、相互に求め合い、創造のきっかけを生み、高めあってきた、多くの人は知らなかったであろうストーリーが多重奏のように凝縮されています

1つ、ピカソとフランソワーズ・ジローの話を紹介します

1946年から53年までともに暮らしたフランソワーズ・ジローによると、毎朝ベッドから出させるだけでも大仕事だった。「彼はいつも厭世的な気分で目を覚まし、お決まりの儀式がはじまった」。まず部屋係のお手伝いがカフェオレと2枚のトーストを運んでくる。ピカソは薪ストーブの隣においた真鍮の大きなベッドに横たわっている。次に、秘書が新聞と手紙をもってくる。続いて私のお気に入りのくだりなのだが、ピカソは「唸り声をあげ、おのれの不遇を嘆き始める・・・病気がつらい・・・自分はこんなにみじめなのに、それを理解してくれる人はほとんどいない。(元妻)オルガがこんな手紙をよこした。人生は無意味だ。なぜ目が覚めるのだろう。なぜ絵を描くのだろう。魂がうずき、人生に耐えられなくなる」。
ジローはそんなピカソをなだめた。病気はたいしたことないから。友達はあなたを愛しているわ。あなたの絵は本当に素晴らしいし、みんなそう思っているのよ。「たぶんお前の言う通りだろう」と、ピカソは1時間近いやり取りの末にいう。「自分で思っているほど悪くはないのだろう。でも、お前は本当にそう思っているのか?」。もちろんです、今日も素晴らしいことをしてください―――そのあたりでピカソはようやく起き上がり、アトリエで待っている友人に挨拶をして、昼食後から夜遅くまで仕事をした。「そして次の朝、また最初から始まるのだった」

大人が子どものように生きることができるのは、だれか周囲の人が大人の役割を引き受けるからである。というのは、なんとも心温まる真理ですよね