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読書感想24冊目:八咫烏の花嫁/香月沙耶著(宝島社文庫 キャラブン!)

 注:感想を書き連ねる間に重要なネタバレをしている可能性があります。ネタバレNGな方は読み進めることをおすすめしません。苦情については一切受け付けません。また、感想については個人的なものになります。ご理解ご了承の上、読んでいただくことをお願いいたします。

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金色の髪は、契約の証ーー。

帯より

 待ち合わせの時間が急にできてしまったため、時間つぶしに読書でもしながら待つかとスターバックスに行ったところ、併設された書店で出会った一冊。
 作者さんはB's-LOG文庫からのご縁です。お久しぶりに拝読しますの気持ちで購入。
 手に取ったときにタイトル、あらすじ、本文(少し)の雰囲気が読めるかどうかの判断材料なのですが、今回はそれに知ってる作者さん、も入りまして全体的に大丈夫、私の読書傾向と相性は良いはず!と読み始めました。
 うん、やはり読みやすい。美味しくて飲みやすいお茶を飲み込むように、読了できたのでした。

 さて。お話はといえば。
 時は明治。小夜という少女が主人公。
 紡績会社の社長令嬢として生まれ、何不自由なく成長していくはずの人生を歩む……と思いきや、病弱すぎて明日にも消えてしまいそうな命。そんな体で生まれてきた彼女はまともに起きていることができず、少し動けば調子を崩して寝込み続けることもしばしば。
 そんな病弱で外に出ることは叶わず、部屋の中で過ごすしかない小夜は、窓から見える外の風景の移り変わりや美しさを心から楽しむ純粋で優しい心を持っていました。
 外の世界を知らず、真綿のようにくるまれながら生きていると傲慢になる場合もあれど、小夜はといえばけしてそんなことはなく、むしろ動けない体を少しでも動かしたいと願い、また弱い体のために周りに迷惑をかけることに心を痛めているような少女でした。
 明日にも消え去りそうな命、そんな綱渡りの日々の中、彼女を慰めたのは3本の足を持つ、金色のカラスでした。
 ある日、不意に現れた金色のカラス。小夜の言葉を理解している様子さえ見せるやりとりに、小夜は心身共に元気をもらっていました。実際のところ、カラスが来るようになってから体調が良い日が続くこともあり、まさに小夜にとって「生きるよすが」になっていたのでした。
 そんな小夜の日常は長くは続かず、以前のように体調を崩すことが増えた頃、いつもと同じように、けれどいつもと同じではなく、金色カラスと黒色のカラスが訪れて、こう尋ねた。
「健康な身体が欲しくないか?」
 と。
 生まれてこの方、走るどころか起きて歩いているだけでもつらい小夜にとって、健康な身体、はどれほどの魅力であることか。
 カラスは彼女が持つ、烏の濡れ羽色と言わしめた漆黒の髪を求め、小夜はそれに応えた結果。
 美しい黒髪の少女は、一夜にして金色の髪となっていた。健康な身体と引き換えに。

 健康な肉体。健康という概念は一概にくくれませんが小夜ちゃんのようにただ起きているだけ、階段の上り下りだけで調子を崩すような生活だと、喉から手が欲しくなるだろうなと思います。
 実際、小夜ちゃんは元気になってとてもとても喜んでます。ただし、金色の髪が周りにどう思われるか、どう扱われるかをその後に思い知ってしまうのですが。
 その後に関しては、小夜ちゃんの人生ハードモードに突入。
 でも小夜ちゃん、もともとの心根がとても優しく善良なため、つらくても耐えるし考えているのは家族(面倒を見てくれていた八重さん含む)と幼い頃に出会った金色カラスさんのことばかり。
 まるでそれは、金色カラスに恋しているような。
 しかし、つらいなかでも、頑張って頑張って、頑張りきった彼女に訪れたのは、望まない縁談。
 そんな小夜ちゃんを誰か救って欲しい!!!小夜ちゃんの身内の人、みんないい人なのに不憫すぎる!!!とぐぐっと拳に力が入りながら読み進めます。
 ご安心ください。ちゃんと小夜ちゃんをめろめろにしながら、彼女にらぶらぶなお方は現れますので。
 基本的にマイペースかつ常識知らずなヒーローですが、ちょっと登場が遅いのと、マイペース過ぎるのがたまにキズですが、とってもいいひとです。
 従者さんのような人とのやりとりは微笑ましくて好きですね。
 ちょっとだけ、突拍子もない話展開に小夜ちゃんと世界や生きてきた時間が違うのだなと感じるところもありますが。

 タイトルの「八咫烏の花嫁」になるまでの、恋物語。
 私が読んできた香月先生の作品のとおり、ヒロインとヒーローの安定した、安心しながら読めるらぶらぶ展開はほっこり暖かくて、ヒロインはかわいらしくて満足です。
 明治時代のシンデレラストーリー、っぽいと言うのが近い表現なのかもしれません。そしてもしかしたら、続編もあるかもしれません。
 中盤のエピソードは胸くそ、というかつらい時期の表現に胸が痛かったりしますが、常に暖かく優しい気持ちを忘れないで読み続けられる、そんな一冊でした。
 最後のあたり、ぽわんと暖かくなる春の日差しのような描写で、その印象が大きいのかも。

公式紹介ページはこちら

お読みいただきありがとうございました!
(それにしても、宝島社からこういったライトノベル的なものも出してたのね、と驚いたり。いろんな出版社、レーベルからいろんなお話が出てきてて、楽しいなと思っております)

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