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狭霧 織花
2022年10月23日 22:53
「百日紅はね、樹皮を切ると中から赤い汁が出るのよ。まるで血みたいに」 そう言って笑っていたあの人は、この世界から、私の前から、姿を消した。 その身に花弁のように紅い花を散らして。最後の吐息とともに、白い衣服が、紅い花まみれになった。 暖かいぬくもりも、優しい微笑みも、その日からなくなって。 まるでなにもかも、はじめからなかったかのような喪失感から、いつしか物事に対して諦めることが多くなっ
2022年10月16日 22:21
深い、深い山の奥。そこには、「鬼」がいると伝えられていました。「いい子にしてないと山から鬼さ来て、ぺろりと一飲みで喰われちまうぞ」 それが麓にある集落に住む親たちの、子供達に対する脅し文句でした。 集落に住む者たちは「鬼」は自然を操る不思議な力を持っていると信じており、毎年作物が充分に採れなかったり悪天候が続くと「鬼神さまのたたり」と言って供物を捧げたりするのでした。 供物はその時々で