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Shopifyの成長戦略におけるShop Payの重要性

日本でも急成長を遂げているShopifyだが、実はその売上の半分以上は、独自の決済システムである「Shop Pay」が稼ぎ出している。

2023年6月にはShopifyを利用していないマーチャントでも自社ECにShop Payを導入できるように利用範囲を拡大したり、Shop Payで決済をすると買い物額の1%をポイントバックするリワードプログラム「Shop Cash」を発表したりと、Shop Payの利用拡大に力を入れている。

ECプラットフォームとして成長してきたShopifyがなぜShop Payに力を入れているのか?Shopiffy全体の成長戦略とShop Payの位置付けを紐解きながら解説する。


Shopifyの成長とShop Payの広がり

Shopifyは今や米国のEC市場の10%を占めるmあでに成長した。その成長を牽引しているのが独自の決済システムである「Shop Pay」だ。

IPOした2015年には1億500万ドルの売り上げのうち、ECプラットフォームの利用料が6700万ドルと2/3を占めていたが、2022年にはShop Payを通した決済手数料が約41億ドル、プラットフォーム利用料が約15億ドルと完全に逆転した。

プラットフォーム利用料としてのサブスクリプション売上は2021年頃から横ばいとなっている一方、ペイメントやShopifyアプリの手数料が大きく伸びている(出典:APP ECONOMY INSIGHTS

決済手数料単体で見ても2019年から2020年の間に986%もの成長を遂げており、Shopifyの成長戦略におけるShop Payの重要性が見てとれる。

以前はShopifyを利用しているマーチャントから料金をとるSaaSビジネスがメインだったため、Shopifyにとって売り上げを増やすためのKPIは「利用マーチャント数を増やすこと」だった。

しかしShop Payの決済手数料が売上の大部分を占めるようになったことで、Shopifyにとっても「マーチャントの売上を増やすこと」が企業全体の成長に重要なKPIとなった。

つまり、Shopify利用企業の成功が、Shopifyにとっても成功につながり、両者のインセンティブが同じ方向になったといえる。

そこで重要となるのが、「GMV(流通取引総額)」だ。

Shopifyの利用企業数は順調に増加しているものの、実はGMVで見るとオンラインショッピング全体におけるShopify利用企業の割合はまだまだ低い。2PMの調査によれば、GMV TOP30のリテーラーのうち、Shopify利用企業は8社、TOP20に絞ってみると4社に留まる。

アメリカのGMVは、TOP40の企業が占める割合がそれ以外の50万社よりも大きく、大企業が流通総額の大部分を占めている。Shopify利用企業にもGlossierやWarby ParkerなどGMVが大きい企業はいくつかあるものの、大手リテーラーが占める割合が圧倒的に大きい。

こうした流れを受けてShopifyは今年の6月にShop PayをShopifyマーチャント以外の企業も利用できるように拡大するなど、Shop Payを通した流通総額を増やすことに注力している。

Shop Payならではの強みと拡大戦略

Shopifyマーチャントではない大手リテーラーから長らく「Shop Payの機能だけを使いたい」と声が上がっていたというが、その背景にはShop Payならではの優位性がある。

Shop Payは他の決済システムに比べて決済スピードが7割早く、顧客を待たせる時間が少なくて済む。また配送先や支払いなどの情報を一度Shop Payに登録すれば二回目以降は情報を入力する必要がなく、スムーズに購入まで完了させることができる。

こうした特徴から、ShopifyによればShop Payは通常の決済と比べて1.7倍コンバージョン数が伸びているという。

GMV増加のための施策はマーチャントだけでなく、消費者向けの施策にもつながっている。例えば2023年6月にはShop Pay独自のリワードプログラム「Shop Cash」を開始すると発表し、消費者がShop Payを使うインセンティブをつくった。

さらに昨年にはShopifyで購入した商品の配送トラッキングとして活用していたアプリも「Shop App」というショッピングアプリにリニューアル。これまで課題となっていたShopify上の検索を強化しはじめている。Shop Appに対する消費者の評価は今のところまだ高くはないが、Shop Payを通じて蓄積されてきた購買データをもとにしたレコメンドの精度が高まれば、新たなチャネルとしてワークするのではないかと期待されている。

2022年にはShop App上でShopifyマーチャントの全体の中から商品検索ができる「Universal Search」と呼ばれる機能のテストも開始。Universal Searchによって、「Tシャツ」「リップ」などの製品名を入れるだけで、ブランドを横断して検索できるようになる。

消費者からすると多種多様なブランドのなかから気に入ったものを選びやすくなる一方で、検索結果の並び順がブランドの売上を大きく左右するため、他のオンラインリテーラーと同様に、トップに表示するための苛烈な広告出稿競争につながることになる。これまで、ブランドごとの優劣をつけないことを信条としてきたShopifyにとって、検索結果の表示順によって必然的に序列が生まれてしまう点が懸念となっているのか、Universal Searchはいまだ正式な機能としてローンチはされていない。

しかし、今後discoveryの部分を強化するためにShop Appを通してモール化していく可能性も十分にある。

購入データを持つ優位性を発揮し始めたShopify

また、Shop PayをShopifyマーチャント以外にも広めることで、決済手数料だけでなく購買データを得ることができるのも、Shopifyの成長戦略に大きく寄与している。

たとえばShopifyが力をいれはじめている「Post-Purchase(購入後)体験」がそのひとつだ。Shop Payでの購入後にアップセルを狙って関連商品を表示させるサービスはすでにいくつかShopifyアプリに登場しているが、購買データとの連携強化によってより精度の高いレコメンデーションができるようになる可能性もある。

そのなかでも注目されているのが、Shopifyも投資をしているDisco(旧Co-p Commerce)だ。

DiscoはShopifyの購入完了画面上に他のブランドの関連商品をレコメンド表示させるツールで、ParadeやCarawayといった人気ブランドも導入している。購入した商品との関連性はもちろん、競合製品は表示させないといった細かいロジックの調整がされている点も評価されている。2021年の時点でDiscoを通した取引は10億ドルを超え、利用顧客数は4000万人を突破。Discoを利用したマーチャントは、FacebookやInstagramと比較してコストが30〜50%下がったという。

このようにPost-Purchase体験の向上はShopifyにとってもGMVの増加が見込めるため、今後さらに力をいれてくる可能性が高い。Discoのみならず、他のPost-Purchase関連のサービスにもShopifyが投資や買収を行なっていくことも考えられる。

もうひとつ注目されているのが、Shopify上の購買データをもとにした広告事業の拡大だ。

Shopifyは消費者の検討から購入にいたるまでのさまざまなデータを持っているため、オーディエンスネットワークとしての価値が高い。すでにShopify AdのデータをMetaの類似オーディエンスとして使用できる仕組みを整えており、広告事業にも力をいれはじめている。

大手リテーラーも「リテールメディア」の拡充を進めており、Amazonはすでに広告だけで107億ドルを売り上げ、今年中に300億ドルの規模まで成長すると見られている。Shopifyの広告売上も2022年の3億ドルから今年中には10億ドルまで成長とすると見られ、急拡大しているが、マーチャント数が190万と170万で規模としてはほとんど違いがないことを鑑みると、Shopifyの広告事業が持つポテンシャルの大きさは計り知れない。

GMVを伸ばすための連携戦略

Shopifyの成長戦略を語るうえで欠かせないのが、他社との強固な連携戦略だ。これは、すべてを自社内で完結させようとするAmazonとは真逆の戦略と言える。

たとえば近年ではGoogleとの連携を強化し、以前はGoogle Shoppingのユーザーのみだった検索結果でのショッピングページ表示を、ShopifyマーチャントであればGoogle Shoppingの登録なしで行えるようになった。同様にMetaとの連携も強化し、Shopifyマーチャントの製品はInstagramのショッピング機能からスムーズに購入ができるようになった。

こうした発見性を高め、Shopify経由の売上を増やすための連携に加え、Shopifyは新たな事業展開の視点からも、さまざまな企業との連携を強化している。

代表的なのが決済サービスのStripeとのインテグレーションによる「銀行」機能だ。Shopifyは「Shopify Capital」を通してブランドに貸付を行っており、すでに年間10億ドル以上を貸し付けている。

さらにShopifyでアカウントを作った際のオプションとして銀行口座の作成も行うことができるようになり、法人化まで支援している。従来は銀行の支店に直接出向き、1週間弱かかっていた口座開設がShopifyを通して簡略化されることで、ブランドの立ち上げを支援する狙いがあると見られている。

これまでECのSaaSプラットフォームとして成長してきたShopifyだが、Shop PayでFintech領域にも事業を拡大したことで、GMVを最大化させることが自身の成長のドライバーとなった。発見性の向上もフルフィルメントの拡充も、広告事業や銀行機能も、すべてはShopifyマーチャントの売上を増加させるための施策の一部であると言える。

Amazonの場合はこれらをすべて自社でまかなっているが、Shopifyはすべてを買収によって抱え込むのではなく、投資や連携もあわせながら、ゆるやかな「連合体」をつくっているのが特徴的だ。

この連合体について、Shopify CEOの tobi lutke は「Arm the rebels」と表現している。

成長をすればするほど、独占禁止法のリスクを孕むAmazon。その牙城を崩すために、Shopifyは「連合型」のアプローチで挑む戦略のようだ。

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