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EC特化型自動化ツール「Alloy」の成長から見るテックスタックの重要性

パンデミックを機に、世界中でECの機運が高まっている。そんななかでEC運営を効率化させるツールとして期待されているのが自動化ツール「Alloy」だ。D2Cブームを経てテック思考のEC事業者も増えてきたからこそ生まれつつある新たな潮流と、その需要を支えるAlloyについて解説する。


D2Cの成熟によって注目されはじめた「テックスタック」

日本と同様、アメリカでも2018年をピークにD2C企業の資金調達は減少気味ではあるものの、今もD2Cモデルの新しいブランドが続々と立ち上がっている。同時にNikeやAdidasなどの大手小売もD2C化を本格的に進め、さらにパンデミックによってECへ参入する企業が急激に増えたことで、ECソフトウェア企業の需要は以前に比べてさらに増している。

特にアメリカではShopifyの人気が高く、D2C企業のトップ460社のうち、58.9%がShopifyを利用しているとの調査もある。Shopifyは単体では最低限の機能しか搭載していないため、必然的に外部アプリを導入することになる。提携アプリの数は2020年5月時点で4200を超え、公式の発表によれば80%の加盟店が第三者のアプリと連携している

顧客獲得からメールマーケティング、レビュー活用、配送サービスなどShopifyの提携アプリは多岐にわたる。これらのアプリすることによってD2Cブランドは自分のプロダクトの販売とマーケティングに集中できるほか、複数のアプリを組み合わせて独自の購買体験を作り出すことができる。

一方で、提携アプリ数の増加によって、アプリ同士を連携させて自動化させるニーズも高まっている。このトレンドは、2020年あたりからアメリカで盛り上がりを見せ始めた。多くのブランドは自動化ツール「Zapier」などの既存ツールを活用していたが、最近ではECに特化した自動化ツールも出てきている。

その中でもっとも注目を集めているのがEC自動化プラットフォーム「Alloy(アロイ)」だ。

Alloyはこれまで人力で対応してきたEC周りの業務を効率化させる自動化ツールを提供している。創業者のSara Du(サラ・ドゥ)によれば、コスト面にシビアなD2C起業家はブランドが成長し始めた際に人の採用を増やすのではなくテックスタック(特定のビジネス目標を達成するために協働するソフトウェアツールの組み合わせ)を構築する傾向にあるという。

「人を採用して手作業で業務を行うよりも、月額のSaaSプロダクトを契約し、組み合わせることで少人数で運営したほうがコスト面で優位なので早い段階からソフトウェアの導入を試す事業者も多い。ただ、扱うソフトウェアが増える一方で、各ツールがバラバラで連携されてないため、ツールを効果的に活用するにはハードルが高かった。
それを解決するのが自動化ツール "Alloy"だ」

ECに特化したAlloyならではのつよみ

Alloyはこれまでのツールと比べて何が画期的なのか?その背景には、複雑化するEC関連ツールとECならではのニーズがある。

ECならではのニーズに対応

例えば現在、アメリカでShopifyを使ってECショップを運営するブランドは下記のように複数のツールを導入し、それらを連携させることで顧客体験の向上を目指している。

Alloy営業資料より

しかしそれぞれのツールは独立して存在しているため、ただ導入するだけでは手作業でデータの突き合わせをしなければならず、逆にコストがかかってしまう場合もある。そこで利用されるのが各サービスを連携させ、トリガーを作ることで自動化させるAlloyのようなツールだ。

特にAlloyでは他の自動化ツールにはない深いAPI連携がされているため、細かいロジックを組めるのが特長だ。例えば定期購入販売を簡単に実装できるアプリ「ReCharge」をShopifyと連携させた場合、Alloy上で自動化させれば顧客の定期購入した数に応じたアクションを設定することが可能だ。例えば10回以上定期購入したユーザーが問い合わせした際にロイヤリティの高い顧客であることがわかるマークを付けたり、定期購入の継続数に合わせて特別メッセージを送るといった細やかな顧客体験設計ができる。

しかもこうした設計をノーコードで直感的に作ることができるのもAlloyの強みだ。例えば下記の図は在庫切れとなった際に自動的にSlackへメッセージが飛ぶようにトリガーを作る設定画面イメージである。

Alloyのフロー設定画面イメージ

こうした使い勝手の良さが評価され、Alloyを導入する企業は人気D2Cブランドから大手ラグジュアリーブランドまで幅広い。創業者自身がストリートウェアブランドを立ち上げ、ECショップを自ら運営してきた経験があるからこそ、EC事業者のニーズを理解し、利便性の高いツール作りにつなげている。

自動化フローの事例がわかる「レシピ」の存在

Alloy上の専用ページにもうひとつの特徴が自動化フローのテンプレートである「レシピ」の存在だ。Alloyのページ上に自動化フローのテンプレートが集約されており、アプリやカテゴリー(カート落ち、アナリティクス、カスタマーサポート等)ごとに検索もできる。

一からの設定ではなくテンプレートをそのまま導入するだけで自動化フローが作れるため、テクノロジーに詳しくないEC事業者でも手軽に取り入れることができる。

Alloy上で公開されている「レシピ」の例

さらにAlloyはこの「レシピ」の価値を上げるため、「Social Proof(ソーシャルプルーフ)」」を追加したいと話している。

「EC業界ではSocial Proof、つまり他社の成功事例を重視する。今後は有名ブランドがどのレシピを使っているかを公開していくことで、業界全体が自動化の方向に進んでいくはずだ」

大学生のサイドビジネスから400万ドルを調達したスタートアップへ

Alloyの創業者であるSaraは、20代前半のZ世代起業家だ。ピーター・ティールが行っている超難関の若手起業家育成プログラム「ティール・フェローシップ」に採択された経験もある。ハーバード大進学後は休学してSnapchatでインターンで働きながらサイドプロジェクトを行なってきた。10個以上のプロジェクトを試す中で、自分や友人が求めている自動化ツールが存在しないことに気づく。自分自身もストリートウェアブランドを運営していたため、EC事業者の視点からAlloyの利便性を高めてきた。

当初はサイドプロダクトとして始まったAlloyだったが、新製品を共有するサイト「Product Hunt」に投稿したところ想像以上の反響を得てSaraはフルタイムでAlloyにコミットすることを決心。Product Huntへの投稿をきっかけにベインキャピタルやWebflowのCTOからエンジェル投資も受けた。
2021年2月にはAbstract Ventures、Color Capital、「Shippo」の創業者などから400万ドルを調達。アメリカでもAlloyを導入するD2Cブランドが増え、今注目のリテールテック・スタートアップである。

アメリカでは、D2Cブランドが規模を拡大し始めるとバックエンドのソフトウェアの管理や連携のためにエンジニアを採用しテックスタックを構築するのが当たり前となってきた。Glossierが自社のサイト製作やECプラットフォームの構築を行っていたデジタルエージェンシー「Dynamo」を$52Mで買収し内製化するなど、テクノロジーへの積極的な投資がD2Cの特徴とも言える。

しかし数十名規模のエンジニアを抱えられるブランドばかりではなく、自社でエンジニアチームを抱えたとしても導入ツールが増えることでロジックはどんどん複雑していく。

だからこそ、Alloyのような自動化ツールは今後D2Cブランドにとって必要不可欠なものになっていくだろう。同じ自動化ツールであるZapierも時価総額50億ドルの企業へと成長した今、Alloyもリテールテックを牽引するスタートアップとして期待を集めている。

【disclosure】
AlloyはCEREAL TALKメンバーの投資先です


▼米国の次世代ブランドやリテールテックの情報はCEREAL TALKのニュースレターでも配信中。

(Photo: Alloy official page

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