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「鍵盤」は「鍵」が並んだ板!?

ピアノの「鍵盤」ってなんで「鍵」という文字を使うんだろうと調べた話。

ピアノの鍵盤は金属ではないので,部首がかねへんの「鍵」が登場するのは変だし,ましてや鍵(かぎ)が並んでいるわけでもない。 「鍵盤」は英語だと”keyboard”。"key"が「鍵」,"board"が「板」とか「盤」だから,鍵盤はkeyboardの直訳のようだ。というわけで、今回の謎を解明する鍵はまさにこの”key”の部分にある。

ドイツ語でピアノはKlavier。バッハの時代にはClavierと書いてハープシコードやオルガンなどの鍵盤楽器の総称だったらしい(情報源)。バッハの平均律クラヴィーア曲集の原題は "Das Wohltempierte Clavier"なので、自由に鍵盤楽器を選んで弾いて良いということになる。

Clavier の語源を遡ると、ラテン語で鍵や錠前を意味するclavis。 これが「鍵」「key」の起源になる言葉だ。でも、なぜこのclavisという言葉を鍵盤に対して使うようになったかが問題。

ハンマーを動かすレバーを指す言葉が元という説

紀元前2世紀にギリシアの発明家クテシビウスは,現在のパイプオルガンと似た楽器(hydraulis)を発明した。このオルガン(hydraulis)は水圧を利用することで,ほぼ一定の空気圧で音を鳴らすことができる仕組みになっている。そして,軽く鍵盤を押せば,大きな音が出たそうだ。ちなみにの余談だが,クテシビウスは水圧を利用した時計を発明していて,それは,その後1,800年間に渡って最高の精度を誇ったらしい。

クテシビウスは,発明したオルガンの鍵盤部分の名称に"レバー"を指す言葉を使っていた(情報源)。当時は"clavis"という言葉ではなかったが,その後も長い間,オルガンの鍵盤には"レバー"の意味の言葉が使われる。

さて,1404年に発明されたピアノに近い鍵盤楽器にクラヴィコード(clavichord)と名前がつけられる。"clavis"にはレバーという意味もあり,clavichord = clavis (レバー) + chord (弦) という意味だ。どうやら,これが「鍵盤」を示す言葉に"clavis"が使われるようになった始めらしい。

音を指す言葉が元という説

別の説もある。イタリアの音楽学者Guidoが11世紀はじめに,音階のはじめの音を指す言葉に"clavis"を使い,おそらくはそれが元で15世紀半ばには"clavis"は「音,音符」という意味に,さらには「音階」という意味になっていった。そして,1,500年頃から,"clavis"は楽器の鍵盤を指す言葉としても使われるようになったとの説もある(情報源)。英語の"key"にも「音階」という意味が引き継がれている。

結論

,"clavis"が鍵盤の意味になった由来が,「レバー」と「音」のどちらの意味が元かはわからないが,クラヴィコードが誕生した時期を考えると,どちらの説も正しいのではという気もする。そして,"clavis"には「鍵」という意味があったこと,clavis は英語では key という単語になっていたことから,keyboard を和訳する際に,「棒(レバー?)板」「音盤」とかがあり得る中で,誰かが「鍵盤」を選んだということだね。

おまけ

ちなみに、「鍵盤」はドイツ語でKlaviatur,フランス語でclavier。keyboardのboardに対応するニュアンスは入っていないので、やはり鍵盤はkeyboardに対する訳ということで良さそうだ。

ちなみにの話だが、楽器の「ピアノ」という名称は,強弱が出ないチェンバロが主流だった時代にクリストフォリが開発した鍵盤楽器を、強い音(forte)も弱い音(piano)も自在に出せるという意味でフォルテピアノとかピアノフォルテとか呼ぶようになったのが起源。 clavier (鍵盤楽器)の一つに現在のピアノがあるわけで、フランス語では,今でもこのようにclavierとpianoを使い分けているようだ。

ドイツ語には鍵盤楽器を指す言葉に"Tasteninstrument"がある。"Klavier"がピアノのみを指すのか,鍵盤楽器を幅広く指すのかがイマイチ分からない。ドイツ語に詳しい方,ぜひ教えてください。

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