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H-IIAロケット49号機、打ち上げ成功 「難しい気象条件、最後の最後まで見極めた」

 内閣衛星情報センターと三菱重工は2024年9月26日、「情報収集衛星レーダー8号機」を搭載したH-IIAロケット49号機の打ち上げに成功した。

 H-IIAは、次の50号機で退役となり、後継機のH3ロケットにその任を引き継ぐ。また、情報収集衛星は、レーダー8号機によって宇宙からの情報収集能力がより強固なものになり、2026年以降にはH3によって新たな衛星を打ち上げ、さらなる強化を目指す。

H-IIAロケット49号機の打ち上げ 提供:三菱重工

H-IIAロケット49号機の打ち上げ

 H-IIAロケット49号機は、9月26日14時24分20秒、鹿児島県にある種子島宇宙センターの第1射点からリフトオフ(離昇)した。

 情報収集衛星の打ち上げであるため、飛行プロファイルなどの詳細は明らかにされなかったが、第2段エンジンの燃焼は1回のみであるとされ、離昇から約20分後には衛星を分離したことがアナウンスされた。

 打ち上げから約2時間後には、三菱重工は「ロケットは計画どおり飛行し、情報収集衛星レーダー8号機を正常に分離したことを確認した」と発表している。

 なお、今回の打ち上げは、内閣衛星情報センターが⾏う打ち上げを、三菱重⼯が執⾏するという形で行われた。

 当初、打ち上げは9月11日に予定されていたが、9日になり、打ち上げ前後に雷や雨が予想されることから、16日に延期となった。16日に向けては、機体を射点に移動させる機体移動を行うなど作業が進んだものの、同日早朝になり、打ち上げ時の高層風の予測が条件を満たさないことが確認されたとして、中止が決定された。

 26日の打ち上げも、新たに発生した台風16号の接近や、それにともなう強風などの影響で、難しいところがあったという。

 三菱重工 H-IIA打上執行責任者を務める徳永建(とくなが・たつる)氏は、打ち上げ後の記者会見で、「16日の延期以降、打ち上げができる日を毎日探してきた。いろいろ条件を検討した結果、26日に打ち上げられるだろうと判断し、打ち上げ日として設定した。ところが、打ち上げが近くに迫ったとき、また気象条件が変わってしまい、非常に苦労した」と振り返った。

「想定外だったのは、秋雨前線の上にあった低気圧が台風化してしまったこと。その結果、今日は非常に風の強い中での打ち上げになった。前回、打ち上げ中止の要因となった高層風もさることながら、地上での風の強さも制約がある。また、打ち上げ直前まで冬のような曇り空で、雲(雲底)の制約もあった。こうした中、最後の最後まで見極めて打ち上げに出て、成功を達成できた」(徳永氏)。

 ただ、当初の予定日から大幅な延期を強いられたことを受け、宇宙航空研究開発機構(JAXA)は9月27日、当初10月20日に予定していたH3ロケット4号機の打ち上げについて、10月26日に再設定したことを発表している。

H-IIAロケット49号機の打ち上げ 提供:三菱重工

「H-IIAの打ち上げ成功率を98.00%にしたい」

 49号機が打ち上げに成功したことで、H-IIAは7号機以来、43機が連続成功し、通算での打ち上げ成功率は97.96%となった。

 そして、H-IIAの打ち上げは最後の50号機を残すのみとなった。

 50号機はすでに、三菱重工飛島工場での製造が完了し、種子島へ向け出荷された。打ち上げは今年度中に予定されており、具体的な日時は調整中となっている。

 49号機の打ち上げについて、徳永氏は「一つひとつの打ち上げを積み重ねていく中で、どれもプレッシャーを感じながら成功させてきた。今回もその中でのひとつと捉えていた。そのうえで、やはり残り2機しかない中で、失敗は絶対に避けなければいけないとも考えていた」と振り返った。

 そして、50号機の打ち上げに向けては、「H-IIAの有終の美を飾りたいという気持ち、そして、今回の成功でH-IIAの打ち上げ成功率は97.96%となったが、これを(50号機の打ち上げ成功で)98.00%にすることを目標として臨んでいきたい」と決意を述べた。

「それにより、H-IIAは終わっても、つちかってきた技術や、技術的なトラブルを起こさずにオンタイムで打ち上げるためのノウハウを、次世代の『H3ロケット』へ確実につないでいきたい」(徳永氏)。

H-IIAロケット49号機

情報収集衛星レーダー8号機

 情報収集衛星は、内閣衛星情報センターが運用する衛星で、日本の安全の確保、大規模災害への対応をはじめとする、内閣の重要政策に関する画像情報の収集を目的としている。

 衛星は大きく、「光学衛星」と「レーダー衛星」の2種類から構成される。光学衛星は、デジタルカメラのような仕組みで地上を撮像する衛星で、地表を細かく見られるものの、夜間や雲があるときには観測ができない。レーダー衛星は、合成開口レーダー(SAR)という装置で、電磁波を地上に照射して、その反射波で地上を撮像するという仕組みをしており、光学衛星のようにあまり細かいものを見ることはできないものの、夜間や雲があっても観測できるという特長がある。

 現在、情報収集衛星は光学衛星2機、レーダー衛星2機の4機体制を基本として運用されている。これにより、地上のある地点を、1日に1回以上撮像することができる。なお、設計寿命を超えて運用されている衛星などを含めると、今回の打ち上げ前の時点で、光学衛星は4機、レーダー衛星は5機が運用中とされる。また、衛星からのデータを地表に中継する「データ中継衛星」も1機打ち上げられている。

 情報収集衛星の意義について、内閣衛星情報センターの納冨中(のうどみ・みつる)所長は、「北朝鮮のミサイルの大きな脅威をはじめ、我が国を取り巻く安全保障環境は年々厳しさを増している。自然災害も近年被害が大きくなっている。こうした状況において、宇宙からの情報収集能力は、今後もさらにニーズが拡大していくだろう。今日打ち上げたレーダー8号機をはじめ、宇宙からの情報収集能力を着実に拡大していくことが重要だ」と説明する。

 今回打ち上げられたレーダー8号機は、2018年打ち上げの「レーダー6号機」の後継機となる。開発費は、予算ベースで353億円で、2023年1月に打ち上げた「レーダー7号機」の同型機として一体開発することで、開発経費を大幅に節減したとされる。打ち上げ費用は、同じく予算ベースで118億円としている。

 また、レーダー6号機と比べ、7、8号機は、地表のものを見分ける分解能(画質)の向上や、衛星を撮像したい方向に素早く向けるアジリティ(俊敏性)の向上を実現したという。さらに、データ中継機能も搭載し、2020年に打ち上げた「データ中継衛星1号機」を経由して撮像データを送ることができるようになったことで、入手性も高くなった。受信アンテナの複数搭載による撮像幅の拡大も図っている。

 くわえて、レーダー7号機、8号機にはAIS(自動船舶識別装置)の受信機が実証搭載されており、AISとSARの情報を組み合わせることで、本来AISを出すべきなのに出していない船舶――不審船や違法操業の漁船など――の位置情報などを知ることができる。これにより、国の防衛、安全、経済、環境に影響を与える可能性のある海洋に関する事象を効果的に把握する「海洋状況把握(MDA)」に資することができると期待されている。

 衛星の設計寿命は5年とされる。そのほか、外観や質量、製造したメーカーなどは、これまでと同様に明らかにされていない。

 軌道についても公表されていないが、レーダー衛星であること、そして打ち上げ時刻から、降交点通過地方太陽時が14時30分ごろの太陽同期軌道に投入されたものとみられる。

 人工衛星は一般的に、打ち上げから数か月程度は、初期機能確認フェーズと呼ばれる、衛星の搭載機器の機能確認などを行う運用が行われる。内閣衛星情報センターの三野元靖(みの・もとやす)氏によると、「レーダー8号機の初期機能確認フェーズには数か月間程度要すると見込んでいる。早期に本格運用に入り、活用して、我が国の情報収集体制を強固なものにしていきたい」と語った。

 情報収集衛星にとって、H-IIAは二人三脚の相棒のような存在であり、これまでの49機中、19機が情報収集衛星の打ち上げであった(打ち上げ失敗も含む)。

 情報収集衛星がH-IIAで打ち上げられるのは、今回で最後となり、今後、2026年度以降に打ち上げる衛星からは、H3を使用する。

 また、政府は宇宙基本計画において、2028年度以降をめどに、基幹衛星による4機体制に加え、基幹衛星とは異なる時間帯で地表を観測できる「時間軸多様化衛星(光学多様化衛星、レーダー多様化衛星)」を計4機、さらにデータ中継衛星も現在の1機から2機に増やした、計10機体制への拡充を計画している。

 現在の4機体制では、地球のある地点を1日に1回以上撮像することができるが、光学多様化、レーダー多様化衛星を導入することによって、同様の条件で、1日に2回以上、複数回の撮像ができるようになる。

 情報収集衛星をめぐっては、基幹衛星に不測の事態が発生した際の代替などを目的とした「短期打上型小型衛星」の開発も進んでいる。今年3月には、民間企業スペースワンの「カイロス」ロケットにより実証衛星が打ち上げられたが、ロケットの打ち上げが失敗したために失われている。

情報収集衛星レーダー8号機のミッション・ロゴ (C) 内閣官房
打ち上げ準備中のH-IIAロケット49号機

トップ画像 提供:三菱重工


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