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情報収集衛星光学8号機についてわかっていることと、推測、あるいは妄想

 2024年1月12日に打ち上げ予定のH-IIAロケット48号機は、日本政府の情報収集衛星光学8号機を搭載し、軌道に投入する。

 光学8号機は、光学6号機(2018年打ち上げ)の後継機として、2015年から開発が始まった。内閣衛星情報センターによると、「光学センサーの高性能化(主鏡の大口径化、高精細検出器の採用)による大幅な画質向上、 大型姿勢駆動装置の搭載による俊敏性の確保を実現(する)」としている。

 また光学7号機からは、データ中継衛星とのデータ中継機能を搭載し、即時性を向上させている。

 一方、これ以外の具体的なこと、たとえば外観を写した写真をはじめ、質量や寸法、性能などは一切非公表となっている。これは光学8号機に限らず、情報収集衛星すべてに言えることで、ときおり大手メディアで分解能などが漏れ伝わることはあるものの、基本的には世界で最も謎の多い衛星のひとつである。

光学8号機のメーカーはNEC?

 情報収集衛星の主製造業者は、基本的には非公表ではあるものの、従来は三菱電機であることが、契約情報などさまざまな点から公然の秘密となっていた。少なくとも、2003年に打ち上げられた光学1号機とレーダー1号機以降、長らく三菱電機がその製造を一手に引き受けていたとみられる。

 一方、2014年度以降は、三菱電機に加え、日本電気(NEC)も内閣衛星情報センターから「情報収集衛星の研究・開発」を受託していることが、契約情報からわかっている。NECはそれまで、情報収集衛星に係る地上システムの開発などには関わっていたが、情報収集衛星そのものには(少なくとも契約情報上は)関わっていなかった。

 また、2014年度というのは、光学8号機の開発が始まった2015年度の約1年前であり、受注のための入札が行われたであろう時期と一致する。

 さらに、政府が定めた「宇宙基本計画」では、情報収集衛星について「競争環境の醸成(中略)等によるコスト縮減等を図る」と記されていることから、三菱電機以外のメーカーが受注してもおかしくはなく、むしろそれを政府が推奨しているとさえ言える。

 くわえて、種子島で宇宙関係の取材や放送をされているマゲシマンさんによると、光学8号機が種子島に運ばれた際、NECの職員とみられる人物が立ち会っていたことがわかっている。

 こうしたことから、光学8号機についてはNECが受注し、開発した可能性がある。

衛星の姿かたちは?

 メーカーが変われば、衛星の姿かたちも大きく変わっている可能性がある。

 実際、内閣衛星情報センターがこれまで「光学衛星」として公開していた想像図は、箱型のバスに、2枚の可動式太陽電池パドルをもった衛星だった。細かい点を除けば、三菱電機が開発した先進光学衛星「だいち3号(ALOS-3)」とよく似ており、つまり情報収集衛星の光学衛星と「だいち3号」は同じメーカーが開発したこと、基本的な機能を似せることでコストダウンを図っていることが示唆されている。

 ところが、今回の光学8号機ミッション・ロゴには、先が細くなった六角柱のバスに、4枚の固定式の太陽電池をもった、これまでにない衛星が描かれている。

 こうした形は、米国などが運用する高分解能の光学衛星でも主流で、高分解能を達成するには大きな望遠鏡が必要であることから、その望遠鏡に直接に太陽電池パドルをくっつけたような、言い換えれば望遠鏡がそのまま衛星全体を形作っているような構造にするのは理にかなっている。

 たとえば、最高で0.31mの分解能をもつ米国マクサー・テクノロジーズの「ワールドヴュー3」をはじめ、ハッブル宇宙望遠鏡のもとになった米国国家偵察局(NRO)の「KH-11」、中国の「高分」、ロシアの「リスールスP」など、望遠鏡そのものが衛星になっているような地球観測衛星、偵察衛星の例は枚挙にいとまがない。

 また、太陽電池パドルを固定式にすることは、発電量では太陽を指向できる可動式より劣るものの、可動しないこと、パネルそのものが短いことで振動を極力抑えられるという大きなメリットがある。カメラで手ぶれを起こすと写真がぼやけてしまうように、光学衛星でも、とくに高分解能を目指そうとすればするほど、衛星本体の振動が問題になるため、それを抑える工夫が必要になる。

 したがって、この想像図に描かれている衛星は、従来の光学衛星よりも高分解能を目指そうとするなら、ありうる姿、あるべき姿と言える。

 また、光学8号機の形は、NECが製造したJAXAのX線天文衛星ASTRO-H「ひとみ」、またその後継機であるX線分光撮像衛星「XRISM」に非常によく似ている。光学衛星とX線天文衛星は、観測する対象や目的はまったく異なるものの、大きな望遠鏡が必要なこと、その結果望遠鏡の鏡筒そのものが機体のような衛星になることでは共通している。

 したがって、仮にNECが光学8号機を開発したのであれば、コストダウンなどの観点から、「ひとみ」やXRISMと構造などの共通化を図りつつ、レンズなど望遠鏡の部品や撮像するセンサー部分などを変えることで開発された可能性があるのではないか。

 また、NECがほかに開発、製造している衛星は「ASNARO」のような小型衛星であったり、「はやぶさ2」のような科学衛星・探査機であったりと、光学8号機に応用できそうな衛星はない。たとえば、2014年に打ち上げられた「ASNARO-1」は光学センサーを積んだ地球観測衛星で、望遠鏡そのものという見た目をしているものの、質量500kg級の小型衛星であることから、光学8号機のような分解能数十cmを達成するための大型望遠鏡の搭載には向いていない。

 地球観測衛星のGCOM-W1「しずく」、GCOM-C1「しきさい」も、サイズこそ数tある中型衛星であるものの、衛星の形状や太陽電池パドルなどが合致しない。

――もっとも、「(とくにお役所が出す)ポンチ絵はポンチ絵」という言葉があるように、こうした想像図だけをもってしてあれこれ推測するのは、まったくの無駄骨である可能性が高いことを強調しておきたい。

内閣衛星情報センターが公開している、光学衛星とレーダー衛星の想像図 (C) 内閣衛星情報センター
光学8号機のミッション・ロゴ。これまでとは異なる形の衛星が描かれている (C) 内閣衛星情報センター

トップ画像クレジット (C) 内閣衛星情報センター

参考


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