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『デジタルゲームの教科書』の紹介

 今回は,『デジタルゲームの教科書―知っておくべきゲーム業界最新トレンド―』(デジタルゲームの教科書制作委員会,ソフトバンククリエイティブ,2010)についてご紹介します。

 一般に,デジタルゲームビデオゲームコンピュータゲームといった呼称が「ゲーム」を指す用語として使われていますが,この記事では単純に「ビデオゲーム=デジタルゲーム」とみなして,呼称は「ビデオゲーム」または「ゲーム」を用いています。


どのような本か

 ビデオゲームの開発者向けの入門書です。ゲーム業界に詳しい18名が分担で執筆しています。24章で構成されていて,522ページにもわたる分厚い本になっています。ゲーム産業の歴史,国内外のゲーム市場,オンラインゲーム,ソーシャルゲーム,シリアスゲーム,eスポーツ,ビデオゲーム開発技術など,ゲームに関連する多彩なテーマを扱っています。

 各章のページ数はそれほど多くはなく,図表が豊富に用いられているので,読者にとってはわかりやすいと思われます。


本書の特徴

 ビデオゲームは多様な面を有するため,全体像を描くことが難しいメディアのひとつだといえます。本書はビデオゲーム関連のテーマを網羅的に解説しています。そのため,各章に割かれているページ数は比較的少なく,ひとつのテーマの詳細について知りたいような場合には,他の本も合わせて参照する必要があります。各章の文章量が少ないということは,読者にとっては区切りをつけやすく,読む負担も比較的少なく済むということでもあります。このことは,初学者向けの本としてはメリットだといえるでしょう。

 本書が出版されたのは2010年ですが,内容が少し古くなりつつあります。例として,「ソーシャルゲーム」を扱った章が挙げられます。産業が一定の成熟を終えたと考えられる現在において,本書の「ソーシャルゲーム」の章を見て全容を捉えることはできません。現在のことを知るというよりはむしろ,約10年前の状況を知ることができる資料だと考えるべきでしょう。たとえば,すでにサービスが終了した『サンシャイン牧場』が説明の例として挙げられていることから,当時の状況を当時の視点で知ることができる手がかりになっているといえます。

 上で述べたとおり,本書は多様なテーマを扱っているため,入門書では比較的扱われていないようなテーマを手軽に読むことができます。たとえば,第18章の「ノベルゲーム」や,第24章の「ゲーム開発者のキャリア形成」などは,少ないページ数で貴重な視点を与えてくれる記述になっています。

 タイトルが似た本に『ゲームの教科書』(馬場保仁・山本貴光,ちくまプリマー新書,2008)があります(この本については,別の記事で紹介しています)。同じ「教科書」として比較するならば,本書は網羅的であり,各章がコンパクトにまとまっているということがメリットとして挙げられます。

 分厚いですが,興味のある章だけを拾い読みするという使い方もできます。「ゲーム研究」の本というよりは,「ゲーム開発」の本だといえますが,どちらの入門書としても使えると思います。


 以上,『デジタルゲームの教科書』の紹介でした。多少は古くなりつつありますが,比較的短い時間で読めるので,入門書として良いと思います。現況と比較しながら読むことで,ゲーム産業の変化に気づくこともできると思います。

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