見出し画像

Netflix「愛の不時着」②:ストーリーとして昇華した「南北」という永遠のテーマ

こんにちは、カイラです。今日は先日に続き、今なお話題の「愛の不時着(사랑의 불시착)」についてレビューしたいと思います! 

「愛の不時着」については巷に様々なレビューが溢れているので、単なる作品レビューではなく、作品が持つ社会的なインパクトや考察を中心に新しい視点をお伝え出来ればと思います。前回「①:韓国における女性の社会進出」に続き、今回含め三部作でお届けします。

 今回はストーリーの根幹部分でもある、南北関係の描写についてです。

----以下、ストーリーに関係するネタバレを多く含みます、ご注意下さい----

1. デリケートな南北関係の新しい描き方

南北関係を取り上げた作品というと、日本ではあの大ヒット映画「JSA」での共同警備区域での南北兵士の交流や、映画「ブラザーフッド」で描かれた朝鮮戦争に翻弄される兄弟の話が印象的かもしれません。(振り返ると文字通り全員が主役レベルのJSAの俳優陣:ソン・ガンホ、イ・ヨンエ、イ・ビョンホン)

画像1

韓国では、朝鮮戦争(韓国では韓国戦争/한국전쟁と呼ぶ)や日本の植民地時代、また南北問題をテーマにした作品は、びっくりする程多いです。どれくらい多いかというと、年に数本はそういった作品が映画・ドラマとして当たり前のテーマとして公開されるくらいです(あくまで個人的な感覚)。内容的に「大衆受け」を狙うとなると興行が狙えないからか日本未公開作品もとても多いのですが、さらに面白いことにそういった作品の多くが、国内で大ヒットを記録し韓国国民に支持されている映画に含まれることも興味深いです。

これは過去記事の「ザ・キング 歴史観レビュー」でも言及した内容ですが、つまり韓国人にとってこういったテーマはやはり切っても切り離せないテーマである、それが故にある種日常的なテーマであるとも言えます。(もちろん、これらの作品にキャスティングされる俳優陣が通常よりも豪華という点も一理あるかもしれません)

そんな中、多分に漏れず今回の作品も、まさに出会いが北朝鮮側の非武装地帯、通称DMZ(!) というまさにドラマでしかあり得ない場所から話が始まります。(この地にパラグライダーで「不時着」したことがタイトルの所以)

画像3

一方、この作品がこれまでの南北関係を描いた作品と一線を画してると感じる点は、このデリケートな問題さえも作品構成の一要素としてしっかり消化&昇華されている点です。南北関係特有の緊張感やタブーといったものが二人の、そして時に国家レベルの障害としてストーリーに確かに機能しつつも、あくまで「南北関係を描いた作品」ではなく、最終的に広義での「愛を伝える」ストーリーとなっている点は、シナリオや脚本、そして丁寧な演出の賜物だと感じます。また、南北間の交渉場面など、国家安保に関係する緊張感あるシーンは描かれているのですが、韓国側だけでなく北朝鮮側での党内検討プロセス等が分量的にもどちらかに寄った描写ではなく対等に描いている点も、これに大きく寄与していると考えらます。

2. 新たな南北境界線でのハイライトシーン

個人的に驚いたシーンの一つが、映画やテレビでは初めての設定ではないかと思う南北境界線でのシーンでした。後半、韓国で拘束されたジョンヒョク達一行が北朝鮮に帰るシーンなのですが、そこにセリが現れ…と作品を語る上でもハイライトとなるシーンの一つです。(このシーンでのソン・イェジンの涙演技は素晴らしい‼)

画像4

これまで、いわゆるパンムンジョム(板門店/판문점)やあえての架空のシーンでの軍事・政治的な人質交換といった設定が多かったように感じる中で、こちらは恐らくパジュ(坡州/파주)にある「統一路(통일로)」を想定したのではと予想。(かなり検索してみたのですが、この撮影地についての情報は見つけられませんでした)

仮に「統一路」としての想定だとすれば、やはり1での記載同様、軍事色の強いパンムンジョムではなく、文字通り統一といった融和を意識した場所をピックアップしたこと自体にも、企画側の何らかの意図が感じられます。もちろん、シーンとしては北朝鮮側の軍人と韓国側のNIS(国家情報院/국정원)の対峙という一触即発の緊張シーンですが。。

3. 半世紀以上、融和と対立に揺れる韓国社会と南北問題

最後に、少し作品から一歩目線をひいて、韓国社会における南北問題について考察したいと思います。

韓国のニュースは比較的日本で報道されているとは思うものの、やはり現地ほどの量や頻度は少ないと感じます。特に北朝鮮や南北問題に対する国民感情もとても複雑で、ともすると日本よりも北朝鮮に国として好感を持つ人もいるのも実態です。また、韓国国民の本テーマへの関心も、並々ならぬ熱量を感じます。そんな環境の下、南北問題や韓国から北朝鮮(朝鮮民主主義人民共和国、韓国では北韓북한と呼ぶ)への見方は、様々な歴史や政治主権を通じて50年以上絶えず変化を遂げてきました。

一言に融和政策や対立政策といっても、その原因は様々で、外交や安保が絡む問題が故に中国や米国を中心とした他国との関係性、直接的な軍事行動や経済活動・制裁に関連したバーターなど、背景や目的、手段からメディアでの伝わり方、そして最終的な国民感情まで本当に多種多様です。

日本では考えられないかもしれませんが、韓国ではいわゆる「脱北者」と呼ばれる北朝鮮出身の方がTV番組に出て語るプログラムがあったり、

画像8

脱北者の告白系の伝記が書籍として当たり前に出ていたり、はたまた今の時代らしくYouTubeで自らの出自を明かし、北朝鮮や韓国での生活を伝える人までいます。(脱北者のYouTubeキャプションより。以下では「脱北者の語る、韓国にありがたい点 TOP5」と書かれている)

画像7


両国、といっても本来は一つの国であるが故に、度々「一つの民族(한민족)」とも呼称される微妙な両国の関係。2000年の金大中大統領と金正日総書記の南北通常会談から、

画像5

2018年に板門店で境界線を行き来し、まさに歴史的な瞬間を記録した文在寅大統領と金正恩国防委員長との南北会談まで、

画像6

過去多くの平和協議と共に、度重なるイシューによって数えきれない程の交渉と危機を乗り越えてきた両国。

地政学的にも、近代だけでなく数百年・数千年前から中国を中心とした大国に翻弄されてきた朝鮮半島と朝鮮民族の人々。その子孫として生きる一個人としては、国家首長だけでなく一般市民も自由に南北を行き来し、本来の一民族としての団結した姿でより良い国家、歴史、そして明るい未来を築いていく姿を、幸福と愛に溢れる本作品同様、強く祈念したいと思います。

Thank you and addios!



この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?