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Netflix「愛の不時着」①:時代が求める新たな女性像へ賞賛を贈る、韓国社会の変化

こんにちは、カイラです。今日はリクエストを受けて、今なお話題の「愛の不時着(사랑의 불시착)」についてレビューしたいと思います!

「愛の不時着」については巷に様々なレビューが溢れているので、単なる作品レビューではなく、作品が持つ社会的なインパクトや考察を中心に新しい視点をお伝え出来ればと思います。そして内容が素晴らしいだけにとっても伝えたいことが多く(笑)、三部作にしてお届けします!

今回は韓国における女性の社会進出、女性像についてです。

--------このレビューは、主にネタバレ含みません--------

1.  叩き上げCEOによる、反アンチテーゼの女性像

これまでにも女性が主人公だったり、社長やCEOといったいわゆるビジネストップを女性が務めるドラマがなかった訳ではありません。しかしながら今回最も興味深い点は、財閥令嬢である主人公ユン・セリが、父の会社ではなく半ば家出した状態で進んで自分の会社を作り、そして叩き上げとして成功を掴み、今の地位を築きあげた点です。もちろん、背景には家族との確執やセリ自身の紆余曲折があるものの、「財閥令嬢にも関わらず0から自分の会社を作り、成功した女性」というまさにパワフルウーマンとしての描写が特徴的です。

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そして、トップが故にとてもシビアで淡々、冷たい印象のCEO像でもあるのですが、これが「男性社会で戦うための鎧」というよりは、ストーリーの構成上という背景だったという点は個人的にとても評価したいポイントです。つまり、単なる「男性社会へのアンチテーゼ」だけでなく、あくまでセリという一人の女性キャラクターを描く上でこのような性格・描写になったのです。韓国社会における女性の社会進出が、「男性主導で構成されてきた社会における対抗馬として、男性同等にまたはそれ以上に強い女性」という一辺倒な認識から、より多様で広い見方で認識・評価出来るようになってきたとも考えられます。

なぜセリがここまで周囲にも冷たく徹底した態度を取っていたか?その辺りはぜひ本編を見ながら確認してみて下さい^^

2. ファッションに込められた女性たちの心意気

先日レビューした「ザ・キング」では初の女性総理の描き方について批判があったとお伝えしました。例えば、「公務なのに真っ赤なレースのワンピ着るなんて、旧態依然な女性像だ」といったもの。

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ファッションや広義での「外見」は、他者に多くの情報を与えるとてもパワフルなツールでもあると感じます。そして、そのファッションのパワフルさをうまく活用しているのがまさにセリのスタイルです。

セリ自身、「セリズチョイス」というジュエリー企業のCEOという前提もありますが、財閥令嬢ということも相まってか、とってもゴージャスなスタイリングが続きます。特に、後半韓国に戻ってからは圧倒的に洗練されたスタイルで毎回そのスタイリングも話題になりました。それにしてもただただ美しい、ソン・イェジン様。。

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ドラマ放映期間中、セリのファッションは「世界中の高級ブランド、全部着倒した」と話題になったのですが、文字通り世界中のハイブランドで構成されています。写真左からイザベルマラン、中央のバルマンに始まり、オープニング映像のチェックコートはGUCCI、パパラッチに撮られるシーンでの黄色カーデはMAX MARA、パジャマにTORY BURCHのシルクドレス(!)、BOTTEGA VENETAやCELINE…と挙げればきりがありません。そして個人的にも注目し、また世間でも最も話題になったのは写真右上、D&Gのフローラルドレスでした。

一方、セリだけでなく、平壌の令嬢ソ・ダンも同じくファッションでは負けてません。北朝鮮を意識した(?)スタイリングでセリとは少し系統が違うものの、他を圧倒するインパクトのあるファッションが終始特徴的です。例えば下のツーピースは、マイケルコースの2020リゾートコレクションのもの。こんなファッションで平壌の街を闊歩したら、本当に目立つでしょうね(笑)

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二人のファッションに共通するのは、時にかっこよく、時にかわいさも兼ね備えた自分らしいファッションを貫いていることです。CEOだからスーツ、あるいは女性だからワンピース、といった固定概念ではなく、TPOは考慮しつつも自分の気分に合わせたファッションを進んで選んでいるようにも思えます。

往年の映画でのファッションが今でも話題に挙がることがありますが、「ファッションで韓国社会の新たな女性像を描く」という観点では、このドラマも語り継がれるかもしれません。

3. 遅れを取り戻せるか?女性社会進出へのスポットライト

最後に、より社会的な観点で韓国社会における女性社会進出について考察します。

正直、日本はもちろん韓国においても、社会における「女性活躍」は他の先進国と比較するとかなり大きな後れを取っています。すべての指標にはなりえませんが、例えばOECD各国における賃金GAPから見ても、日本・韓国において女性の社会進出が後れを取っていることは明白です。*以下データは2018年時点、フルタイム雇用者における男性の賃金中央値と女性の賃金中央値との比較でその差が少ないのが理想と考えられる。日本は右から2番目24.5%、韓国は最も右側で34.1%。

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(参考: The gender wage gap is defined as the difference between median earnings of men and women relative to median earnings of men. Data refer to full-time employees on the one hand and to self-employed on the other.)

ちょうど先日も、日本にいる知人女性とこんな話をしました。あるイベントの登壇者がすべて男性という点を男性上司に一意見として伝えた所、本質的な疑問が伝わらず「じゃあ君(彼女)が出るのはどうかな?」という議論に一気に帰結したとのこと。彼女からすると、「男性しかいない=女性が一人もいない、という現状をどう思うか?」という疑問が起点だったのに、その上司が本当の意味でその疑問について傾聴し、納得しなかった点がとても残念だと思いました。しかしながら、こういったやり取りは外資系企業はもちろん、多くの日本企業でまだまだ一般的ではないでしょうか?むしろ、議論にすら挙がらない方が一般的かもしれません。

私自身、IT企業や主にアメリカ系の外資系企業を中心に働いてきたため、それでも女性役員の姿やいわゆるVPと呼ばれるマネジメント層に女性が多くいる環境で働いてきました。ただ、よくよく観察するとそれは日本以外の本国アメリカやヨーロッパであることが多く、肝心の所属する日本支社では、やはり旧態依然で男性によるマネジメント層の構成が圧倒的でした。

話を戻し、「愛の不時着」が作られた韓国でも、一部のIT企業や大手企業を除いては、まだまだ圧倒的に男性優位な社会と言えます。これは、日本以上に儒教思想が強かったり、悪く言えば「男尊女卑」の時代の「悪気のない慣習」が日本よりも根深く残っている点も考慮すべきと考えます。

一方、世界を席巻した「#MeToo」運動のような女性進出の兆しは、韓国社会でも少しずつ芽を見せ始めています。上記データではOECD最下位という残念な結果でしたが、「愛の不時着」で主人公を務めた二人の女性がどちらも本質的に自立した強い女性として描かれてたように、今後実際の社会においてもそういった女性像が当たり前になる時代は近づいてきてるかもしれません。

いかがでしたか?

次回はストーリ―のメインテーマにもなっている南北関係について書きたいと思います!

Thank you and addios!


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