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【D-C】炎のストッパーを打ち崩したのは

 野球とは筋書きのないドラマとはよく言ったものだ。七夕の中日広島戦、試合は6回から拮抗して1-1の同点。9回、中日が抑えのエースのマルティネスをマウンドに送ると負けじと広島も栗林良吏という切り札を切った。百戦錬磨の彼にとって、この日の仕事もただ3つのアウトを取るだけだった。しかし…。今回は、そんな息詰まる試合に終止符を打った9回裏にハイライトを当てよう。

「超アウェイ」守護神が呑まれた

 荒れたマウンドに立った栗林は先頭打者の田中幹也にオール直球で四球をだす。その後の福永裕基はなんとか内野ゴロに討ち取るも、続く細川成也には何かに脅えているかのように暴投、四球でピンチを広げる。制球力がピカイチなはずの栗林とは思えないような、見事な自滅である。

 僕は彼がこうまで荒れた理由をナゴヤドームの中日ファンに呑まれてしまったのではないかと考える。この日のナゴヤドームは満員御礼。3万5000人の大観衆の中、8割ほどがドラゴンズブルーで彩られていたのだ。ボールカウントがひとつ増える事に、一塁側、右翼側の中日ファンからどよめきのような歓声がこだましたのだ。

敬遠で満塁、そして代打は

 続くカリステは敬遠で満塁。恐らく、広島の新井貴浩監督は併殺打に討ち取りやすい体制を敷いたのだろう。恐らく中日ファンの誰しもが、続く石川昂弥のサヨナラグランドスラムに期待を込めたはずだ。

 しかしながら、打席に向かったのは板山祐太郎。前日右中間に大本塁打を打った彼だったが、若き主砲に代打が送られるという非常采配にナゴヤドームは悲鳴のようなどよめきに包まれた。1球目はフォークボール、2球目はスライダーを見送って3球目の速い球をファウルに。こうしてピッチャーインザホールのカウントに持ち込んだ板山は4球目のフォークボールに食らいついてこれがサヨナラ打となった。まさに「執念の一打」という言葉が最適である。推定年俸850万円、開幕時は3桁の背番号を背負っていた男が推定年俸1.5億円の絶対的守護神を打ち砕いたのだ。

 中日はこれで最大7まで膨れ上がったペナントレースの借金を3とした。序盤の快進撃を、「ただ春の夜の夢の如し」という言葉では終わらせない、夏の夜の夢を見た気分だ。

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