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140字のおはなし

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140字の物語をまとめました。
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今日はこの世界の誰よりも遅く起きてやった。12時のチャイムは目覚ましになった。
午前の着信やメッセージなんか放っておく。小腹が空けば布団の中でスナックをつまんで、眠くなったらまたそのまま寝ればいい。
日が落ちる頃、ようやく顔を洗って少しだけ家事をするんだ。それが怠惰で幸せな休日。

自分は、思っていたより人から愛されているかもしれない。そう感じたのはここ数ヶ月のことだ。卒業を間近にして、いろんな人から遊びに誘われ、別れを惜しまれる。別れ際だけ優しくしてくる人なんて大したことないのかもしれない。そう思いながらも、楽しさと忙しさと虚しさの中に身を埋めているのだ。

「SNS全部やめちゃったの!?」「そんなに興味なかったし、フォローだのブロックだの返信が早いだの遅いだのって面倒臭くて」いつもと同じ調子で笑う。
私はSNSに依存していて、良くないとは分かっていてもスマホを手放せない。大人に見える君だけど、心の奥底で抱えている思いはきっと、同じ。

手を繋いで歩く高校生のカップル。それを横目で見ながらため息をつく。青春を謳歌していた頃の自分はこんな生活を望んでいただろうか。
家と職場の往復の日々。楽しみといえば愛想の良いコンビニ店員に毎晩会いに行くこと。
しかし今日は見慣れない青年がそこにいた。
「良ければご飯行きませんか」

「ここが初デートで行った水族館でしょ、こっちがお気に入りだったカフェで…楽しかったよね」上の空な彼に話しかける。2ヶ月前まで私達は恋人だった。その関係を終わらせることなど、私も彼も望んでいなかった。あの日、台風が来ていなければ。私が迎えを頼まなければ。彼が事故にさえ遭わなければ。

「ねえ、またお話書いたの!読んでみて!」
彼女は空想の物語を書くのが好きで、僕はそれを読むのが好きだ。でも彼女の話にはいつもタイトルがない。
「タイトル?ああ、実はあるんだけど、読む人に考えてほしいなって。君ならこの話になんてタイトルつける?」
迷わず答えた。「ぼくのすきなこと」

夜になると寂しくなる。君とおそろいのぬいぐるみをぎゅっと抱きしめて布団に潜った。我慢していたものがこぼれ落ちたそのとき、スマホの画面が光る。
君からの着信。涙声で私に言う。
「ねえ、もしかして僕達、同じこと考えてた?」
彼のぬいぐるみは、私のよりもぺちゃんこに押しつぶされていた。

この木の下で1年後に会おうって約束した。
なのにもうね、10年もたっちゃったんだ。
約束通りに戻って来れなくてごめんね。

木ってすごいんだね。ちょっとやそっとじゃ倒れない。
人間にもそんな力があれば良かったのに。

今帰ってきたよ。ただいま。
君はおかえりって言ってくれるかな。

どうして生きていたら偉いの?どうして生きていたらすごいの?
なんで私は生きているの?なんで私は生まれてきたの?
全てのことに理由を求めたくなるのは私の悪い癖なんだ。この世で生を受けたことに理由なんてないことは分かっているのに。

君は今日も優しい。どうして優しくしてくれるのかな、

僕達のルールは毎朝「おはよう、」を言うこと、ただこれだけ。前日喧嘩してても、朝機嫌が悪くても、起きたら必ず。
たくさんルールを決めなくても、僕達は無意識にお互いを想い合ってる。
「おはよう、」だけだと何か物足りなくて結局いつもこう続けてしまうから。
「おはよう、今日も大好きだよ」

明日ね。また明日。明日で大丈夫。
明日が来ることは当たり前だと思っていた。明日で良いよなんて、優しそうに見えて無責任だ。保証なんてないのになぜ信じた。なぜやらなかった。貴方のせいだ。
違う。全て私のせい。
一生記憶に残る感触を味わうことは
明日が今日になることはとうとうなかった。

面倒なことに巻き込まれたくないから、面倒なことを見たくないから、私はいつも下を向いて歩く。そんな私が下を向いて歩く"しか"なかった日。貧血で意識が飛ぶ直前に声をかけてくれたお兄さん。
私は人助けを面倒なことだと思ってしまっていたらしい。見て見ぬふりどころか最初から見ていなかった。

こたつの中にひとり潜る。
冷えた体には沁みるね。
でも体だけが温められて、心はすかすかで冷たいまま。

お餅、送ってくれてありがとう。
焼いて食べようと思ったけど、表面だけ焦げちゃって中まで火が通らなかったよ。
だって、料理担当は君だったからさ。
外は真っ白。君の足跡をつけてよ。

聴き慣れた歌を、周りの音が聞こえなくなるギリギリの音量でイヤホンから流し、暗い夜道を歩く。
かすかに聞こえる、傘に打ちつける雨の音、遠くで鳴りやまない救急車のサイレン。後ろから近づく人の足音と話し声。
全ての意識を耳に入ってくる音に集中させたとき、
目の前に見えたものは何ですか。