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D4MAGE DONE(キズモノ)-I SEE STARS【歌詞和訳】

Title / D4MAGE DONE(2023)
Artist / I SEE STARS
Included / Single[D4MAGE DONE(2023)]



 

 ①LYRICS


I SEE STARS -D4MAGE DONE

Take one
 幕は切られた
There's a million people in my head
 無数の人間が脳内をひしめいて
Another million people in my bed
 無数の人間がベッドをきしませる
I think they nearly heard every word I said
 ヤツら俺を傍受してたんだ
Every word I said
 俺の一言一言を


Hiding behind blue lights
 ブルーライトの奥に潜んでる
Blue lights
Blue lights

 ブルーライト、無機質なブルーライトの奥に
Yeah in your eyes are blue lights
 ブルーライトしか見えてないんだね
Blue lights
Blue lights

 ブルーライト、無機質なブルーライトしか


We're just damage done
 俺たちキズモノだね
We're just damage done
 すっかりキズモノになってしまった
Need you to pull me out
 独りじゃ起き上がれないんだ
Pull me out
 たのむから連れ戻してくれ
To the now
To the now

 現実に、生きた現実に
Swear we won't cycle on
 もうやめるって決めたよね
One ends and ones just begun
 やめただけで終わりじゃないんだよ


Take one
 また始まった
There's a million people in my head
 無数の人間が脳内をひしめいて
Another million people in my bed
 無数の人間がベッドをきしませる
I think they nearly heard every word I said
 ヤツら俺を傍受してたんだ
Every word I said
 俺の一言一言を

Dim cerulean
 薄暗いセルリアンブルー
You're like a phantom in the mist
 霧の中の亡霊のようなブルー
Or like a fog
 それか靄みたい
Corrupt my rhythm
 靄みたいに生活を蝕むブルー
When you're lost
 道に迷って
You're like a limb that's disappearing
 消えゆく手足のようなブルー
Dim cerulean
 薄暗いセルリアンブルー


We're just damage done
 俺たちキズモノだね
We're just damage done
 すっかりキズモノになってしまった
Need you to pull me out
 独りじゃ起き上がれないんだ
Pull me out
 たのむから連れ戻してくれ
To the now
To the now

 現実に、生きた現実に
Swear we won't cycle on
 もうやめるって決めたよね
One ends and ones just begun
 やめただけで終わりじゃないんだよ


It's like staring at the sun
 監視されてるみたいだ
I got nowhere left to run
 どこにも逃げられない
It's like staring at the sun
 監視されてるみたいだ
And I got nowhere left to run
 俺はどこにも逃げられないんだよ
It's like staring at the sun
 監視されてるのと一緒だろ
And I got nowhere left to
 どこにも行き場がないんだ


We're just damage done
 俺たちキズモノだね
We're just damage done
 すっかりキズモノになってしまった
Need you to pull me out
 独りじゃ起き上がれないんだ
Pull me out
 たのむから連れ戻してくれ
To the now
To the now

 現実に、生きた現実に
Swear we won't cycle on
 もうやめるって決めたよね
One ends and ones just begun
 やめただけで終わりじゃないんだよ


Take one
 幕は切られた
There's a million people in my head
 無数の人間が脳内をひしめいて
Another million people in my bed
 無数の人間がベッドをきしませる
I think they nearly heard every word I said
 ヤツら俺を傍受してたんだ
Every word I said
 俺の一言一言をね



 ②About this song

 この曲のテーマはもう明らかですね。『D4MAGE DONE』は重度のスマホ依存社会の深刻な問題をダイレクトに表現した曲です。メッセージ性の強い、社会派の曲ですね。

 この曲に関して、ボーカルDevin Oliverは次のように述べています。

 『D4MAGE DONE』は、僕らの現代におけるテクノロジー依存を深く追及しています。つまり、絶えず(オンライン、SNSで他人と)つながっていることには、大きな代償が伴ってしまうという複雑な現実に光を当てました。また僕ら(バンド)は、薄暗いセルリアンのブルーライトと太陽を見つめるという行為を対比的に用いました。そして、僕らの依存が助長されることで、誰かに常に見られているという煩わしい現実を見えなくしていることを象徴的に表現しています。

from DISTORTED SOUND "I See Stars release new music video for ‘D4MAGE DONE’(2023/11/15)"by James Weaver

  I SEE STARSはこれまでも、『Filth Friends Unite』などで、テクノロジーに支配される人類に対して疑問符を投げかけてきました。『D4MAGE DONE』では、スマホという強力なテクノロジーによってもっと深刻化した社会状況に焦点を当てています。


  -A.簡単にMVを見ていきます。

 VFX要素もあるし、リッチな映像体験です。MVでは、薄暗い電車内で歌うDevinドリフトする車に揺られるDevin黄色い集団に揉みくちゃにされるDevin、そして、傷を負って迷路に取り残されたDevinが移り変わっていきます。

 Devinは薄暗い電車内の通路で独り叫んでいます。なのに、吊革にぶら下がっている人、座席に座っている人たちは、それに見向きもせずにスマホを見続け、ブルーライトを顔に浴びています。スマホに目を取られて、目の前にいる人間のことが見えない状態。人々は、スマホというテクノロジーで、自ら他人を閉ざすになってしまっている。電車内迷路は現代社会のアレゴリー(寓意的な象徴)です。

 迷路の高い壁は、スマホを眺める人たちがつくった壁です。Devinがいる通路と座席の間の見えない壁、傷を負ったDevinがふらつきながら歩く迷路の高い壁。迷路の外は高い壁のせいで見えない。見上げると太陽だけが見える。外を見るにも見上げるしかなくって、太陽は自分を見つめ返してくる。自分が太陽から目を離したあとも、太陽は自分から目を離さない。さながら監視するように。ここでは太陽はマイナスのメタファになっています。その中で、自らもテクノロジーによってダメージを受けたDevinは、そのスマホが作り出す壁に囲まれた迷路から抜け出そうとしています。

 Devinが言っていたように、ここでは、ブルーライトと太陽の光が対比されています。青と黄色。Devinを揉みくちゃにする黄色い集団は、太陽の光を模していますね。太陽は見上げなくとも、常に監視のライトを浴びせてくる。そんな存在として黄色い集団は、常にDevinの周りに張り付いていて監視しています。彼らはオンラインに蔓延する攻撃的なアンチのように、対象者(Devin)に常に張り付いて、Devinに襲い掛かり攻撃を繰り返します。Devinは黄色い集団に囚われて、揉みくちゃにされます。黄色い監視の波は彼を捉えて離しません。

 ドリフトしまくる車に虚ろに揺られるDevinのシーンは、『Drift』の記事でも触れた通り、自分の意思と反して暴走するものに身を委ねるしかない、服従するしかないという無力感を表しています。運転席には誰もいないのに、独りでにハンドルが切られ続けています。ドリフトする車を、この曲の文脈でいえば、スマホをやめたいのにやめられない。抗いがたい脳神経の働き、身体の化学的なダイナミズムに自らの精神や行動が左右されドリフトしていってしまう。そのために、またスマホに触れてブルーライトを浴びるしかなくなる、その苦痛。そして、とてつもない速さで流れていく情報社会の奔流に目眩を感じている。

 基本的には、以上のカットインの繰り返しですね。

 ブレイクダウン。迷路で倒れたDevinが顔を上げると、四足歩行の謎のロボットが現れます。ツンと立った二本の長い耳は、優れた集音性を表しているのでしょうか。常に耳をそばだててDevinを探しているぞ、と。このロボットは迷路に放たれた番犬のようなもので、Devinを襲撃する存在。開幕から負っているDevinの傷は、このロボットに付けられた傷でしょうね。そして、このロボットの形象は、攻撃的なテクノロジーを象徴させるものです。やはり、迷路の中にあって、Devinはテクノロジーによってダメージを与えられていたのでした。

 そして、ロボットはDevinを視認し面部が発光、ロックオン。しかしDevinは咆哮を上げて、四足ロボットは戦意喪失する。Devinから発光する面部を逸らして、背を向けゆっくり去っていきます。

 そのあと、Devinが電車の扉をガバッと開けて、高速で飛び退っていく外の世界を目にします。ブルーライトに囚われた人間しかいない電車から抜け出すために見た外の世界すら、自分を巻き込もうとする暴風がとてつもない力で逆巻いている。そこにも、大量に流れて行くデータ世界を見つけてしまいます。おそらくDevinは飛び出そうとして電車を開けたのでしょうが、思いとどまります。

 そしてラストシーン。Devinは薄暗い電車の中、スマホのブルーライトを顔で受ける人たちの中で、独り座席にうつむいて座っています。もうできることはないのか、深く落ち込んでる。そこに、メンバーがやってくる。メンバーがDevinの周りに寄り添います。Devinが彼らを見回すと、彼らはスマホを持っていません。スマホに囚われていない人間には、独りで悶えているDevinが見えている。Devinは仲間がいたことに安心し、見上げて一息つく。

 素晴らしいMVですよね。親密な関係とはいったい何なのか。つながっているとはどういうことなのか。おれたちの人間関係にも大きな影響を及ぼしている、現代のデジタルテクノロジーの在り方について、きわめてクリティカルな表現です。

 かくいうおれも独りでこのテクノロジー依存社会から抜け出そうと悶えている人間の一人です。このMVのラストのように、一緒に抜け出してくれる仲間が欲しいですね! 仲間募集中です! みんなーよろしくー!


  -B.歌詞を見ていきます。

 Take oneから始まる歌詞は、もはやスマホに振り回されるだけの虚構のような現実がまた繰り返されることの皮肉を示しています。スマホに振り回され、常に無数の誰かのことに気を取られる。自分の中に内面化されてしまった無数の誰かは、自分が何かをするとき、何かを考えるとき、はたまた何もしていないときまでも、常につきまとってきます。テクノロジーは利用者の趣味趣向から位置情報まで、あらゆる情報を取得しようとしている。それをもとにしたレコメンド機能やサジェストによって、スマホの中に、自分の思考の似姿が生成されてしまうほどです。自分の言ったほとんどのことを、彼らテクノロジーは覚えている

 曲中で何度も繰り返されるBlue lites-ブルーライトというフレーズ。スマホの発するこのブルーライトの弊害は多数の研究者によって実証されて広く知られています。ですが、人々は今もスマホに縛られ続け、ブルーライトに縛られ続ける。なぜなら、ブルーライトの奥に潜む更なるテクノロジーが、おれたちを依存状態に陥れようとするからです。今スマホを開けば、大量のサービスたちがおれたちの注意(アテンション)を奪おうと、しきりに誘惑を繰り返してきます。今では、脳科学の知見を逆手にとって、ドーパミン系統を支配することにより、人の依存状態を強化するサービスが極端に増えています。
 
 だから歌詞で繰り返されるBlue litesという歌詞には二つの意味が詫されています。
 
 ①ブルーライト自体が身体にダメージを与え蝕んでいること。
 ②ブルーライトの後ろに潜むサービステクノロジーがもたらすドーパミン系統の撹乱。  

 現代を蝕むこの二つの弊害は、相互作用して依存を強化させていきます。ブルーライトにより引き起こされる認知機能の低下や不安、不眠。それに加えて、SNSやショート動画がドーパミン系統を支配して人々をさらにスマホに依存させる。そして人々の脳にはダメージが蓄積されていく。

 ブルーライトによって損傷を与えられた現代人は、もはやDamage done-キズモノになってしまいました。コーラスで繰り返される"We're just damage done"には、二つの意味があります。一つは、自分たちが物理的にも精神的にも損傷を受け、キズモノになってしまったという現実への諦め。「俺たちはどうしようもないキズモノになってしまった」という諦めです。もう一つは、受容、受けいれです。キズモノになって欠陥を抱えた自分たちを受容することです。「俺たちは、ただキズモノになっただけだ。だから、この欠陥を受け容れて生きていこう」。この諦め受容が、ダメージを受けたおれたちが前に進むために重要な前提プロセスなのだと思います。

 「スマホ脳」という本がベストセラーになったほどに、この問題はおれたちの暮らしに、そして人間関係に甚大な悪影響を与えています。そして、誰もが一度はそこから抜け出そうとする。でも、スマホを手放そうとしたら、現代人は孤立してしまいます。孤独な迷路に取り残されてしまう。だからまた、薄暗いブルーライトを発するスマホに逃げてしまう。スマホは現代人の人間関係を希薄にして孤独にしているのに、あまつさえ手放そうとすると個人を孤立させてしまう。「この二重苦に挟まれて俺たちはどうすればいいんだ?」。MVでは、この問いに一つの解を示してくれましたね。

 テクノロジーは賢く使わなきゃならないですね。スマホを捨てることはできません。おれたちに求められるのは、依存することなく賢くスマホを使うこと。人間関係を希薄にして、監視し合うようなスマホの使い方をやめること。人と人とが助け合うツールの一つとして、自分をエンハンスメントしてくれるツールの一つとしてスマホを使うこと。

 人間らしい生活を取り戻していこうとする過程には困難がつきまといますが、乗り越えたその先には、大きな自由の地平が広がっています。


 ③読んでいただきありがとうございました!

 さて、無事『D4MAGE DONE』を訳し終えました! これで、are we 3ven?翻訳記事での予告通り、シングル『D4MAGE DONE(2023)』の4曲すべての翻訳を完了いたしました。約束守れてよかったー! この4曲は新アルバムにも収録されるので、アルバムで聴くときには、また違った音楽体験が期待できますね。

 『Anomaly』の翻訳記事では、歌詞以外の特別項目に力を入れすぎたせいで、なんと4万字を超えてしまうというのをやらかしました。そういうこともあって、『are we 3ven?』記事での約束を果たすまでに、一ヶ月半ほどの時間を要しました。とても長い旅でした。おれは達成感でいっぱいです!

 というわけで、これで念願のI SEE STARS新アルバムを受け止める準備ができましたね。あとは楽しみに待つだけです。ほんと楽しみだなあ!

 ではでは!


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