見出し画像

【掌編】文芸部〜シロクマ文芸部〜

文芸部発、というチケットを持っている。
帰国スタンプが押してある。
もう何十年も前のもの。
親友が記念にとくれた。

文芸部というのは場所の名前だ。
団体の名前ではない。
活動内容があるわけではない。
ただ、ここから各々が目的地へと出発する。

妄想、空想、幻想、ありとあらゆる異世界だ。
大海原へ、無限の宇宙へ、絶え間ない雑踏へ。
それはめくるめく大冒険の始まりで、
そして戻ってくる者はごくわずか。

だって必要ないですよね。
そんな魅力的な世界から
戻りたい奴なんているはずがない。
これ、
もう片道にしちゃっていいんじゃないですか?

真新しいチケットをひらひらと振りながら
頬を紅潮させた少年が首をかしげる。

いいえ、復路はやっぱり必要なんです。
始点に戻るという選択は、
行った先で止まるということ以上に
覚悟が必要ですから。
これは勲章のようなもの。
飛び出せば否応無しに展開する。
でも戻れば自分で、
その舞台から作らなくてはいけない。
体験をもとに、五感を駆使して。
並大抵のことではありません。
そんな強者、他にはいないでしょう。

クエスト制覇の勇者も顔負けですね。
目を見張る少年に微笑んで、
私は出国スタンプを丁寧に押した。

ええ、そうですね。
もちろん称号も用意してあります。
栄えあるその名は「作家」、
お帰り、お待ちしております。


小牧幸助さんの企画”シロクマ文芸部”に
今回もまた参加させていただきました。
お題は「文芸部」から始まる小説・詩歌。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?