病院組織全体でビジョンを描く:コミュニティホスピタル化に向けたワークショップ(C&CHワークショップ)
いくつかの病院からコミュニティホスピタル転換の相談をしていただき、その支援が始まっています。コミュニティホスピタルへの転換と言っても、病院自体の方針やときには診療内容の変更に伴う、人員補充や組織改編なども必要になるために、病院のその時のステージによって手掛けることは異なります。
そのなかで最初に浮上する課題として「院内での理解者、協力者を得られない」「院内の一部メンバーだけで動いていて、病院全体の取り組みにならない」といった声を聞くこと多くがあります。つまり、経営陣はもちろん、管理者クラス、リーダークラスに対してもコミュニティホスピタルに転換することを一人一人に腹落ちさせ、当事者側になってもらうというステップが必要です。
この課題の解決策の一つとして、先日、医療法人尚豊会 みたき総合病院(三重県四日市市)で行われた「コミュニティホスピタル化に向けたワークショップ(C&CHワークショップ)」をご紹介します。
病院概要
医療法人尚豊会 みたき総合病院の前身は、財団法人四日市港湾福利厚生協会築港病院(一般病床74床、療養病床88床)となります。その事業や建物、設備を譲り受ける形で、平成10年4月に「医療法人築港病院」を設立し、平成12年8月には診療部門を市内現在地へ移転開設し、みたき総合病院が設立されました。その後、健康管理センターの移転新築、産婦人科病棟の新築、透析センター、スリープセンター、緩和ケア病棟の設立などを経て、現在に至っています。
当法人の理事長に、初代理事長の長女である古橋亜沙子先生が就任されたのは、2023年10月になります。その古橋先生の思いやコンセプトが、コミュニティホスピタルにとても近いということから相談があり、当協会と株式会社シーズ・ワン(コミュニティホスピタルのコンサルティング支援)と合同で今回のワークショップを実施することになりました。
月1回、全5回のワークショップ
ワークショップは、「コミュニティホスピタル化に向けた具体的なビジョンと戦略策定」という目標のもと、全5回、月1回ずつ2024年8月~12月の計5回にわたって行われました。参加したのは中心となるメンバーを軸に概ね4~50名のスタッフ、計5回のワークショップを通じて、毎回議論の土台となる講義やレクチャーが行われ、それに基づいてグループにわかれてディスカッションし、発表するという形式です。
ワークショップをすすめるにあたっては、まず事前に病院(と健診センター)をとりまく環境変化についての情報収集と簡易的な経営環境分析を実施しました。これについては、できるだけワークショップ後も病院が自律的に分析やモニタリングができることが望ましいという観点から、分析のテンプレートや参考データ一覧が渡され、それを元に病院の経営企画室が情報収集と作業を行う手法が取られました。隔週でオンライン会議を実施して、分析の進め方やデータ取得、またそこから得られるメッセージなどを経営企画室主導でまとめて準備していきました。
WS1 経営環境理解とSWOT分析
初回のワークショップは、経営企画室から前述の経営環境分析の説明が行われ、そこからグループに分かれてSWOT分析をおこなっていきました。SWOT分析は、外部環境を機会と脅威、内部環境を強みと弱みに分けて整理した上で、機会×強みといった組み合わせで、何ができるか、何をしなくてはならないかということを整理していく分析手法になります。参加者一人ひとりの意見をもれなく吸い上げる意味で、個人単位で1アイデアをポストイット1枚に書き込んで模造紙に貼り付け、それを元に議論していきました。
ディスカッションの最後の報告や参加メンバーのアンケートからは、
初めて病院の実態を知ることができた」「こうして病院のことを考えるのは興味深い」という話や、「ディスカッションの時間が足りない、消化不良」というような声もありました。
WS2 CH概念と具体例、C&CH評価
第2回目は藤田総診の大杉先生、同善病院/当協会の小笠原先生を招いてのコミュニティホスピタルについての講義とディスカッションが行われました。大杉先生は総合診療を取り巻く環境や今後、藤田総診と豊田地域医療センターでの取り組みについて、小笠原先生からは同善病院での取り組みにあわせて、事前に当院のコミュニティホスピタル度を測ったC&CH評価結果の講評がありました。このC&CH評価は当協会が開発したもので、コミュニティホスピタルとして実践することが望ましい、組織づくりや人づくり、医療ケアの質やコミュニティ活動についての調査となります。事前のアンケートと調査員による主たるメンバーへのヒアリングによって評価しました。
講義とC&CH評価結果を踏まえて、チームでディスカッションをしてもらいました。終了後は「コミュニティホスピタルがなにかについてよくわかった」「なかなか難しいが、当院でも取り組みたい事例が多く見られた」といった声があがってきました。
WS3 ステークホルダーから見た当院
第3回目は「ステークホルダーから見た当院」についてというテーマで行われました。このステークホルダーとは、病院(と健診センター)に関わるすべての方々を指す言葉で、患者や患者家族はもちろんですが、職員や職員家族、また地域連携先となる医療機関・介護施設、行政、業者、地域住民まで含みます。参加者は多職種グループにわかれて、10分ずつ上記のステークホルダーの立場だったら当院がどう見えるかを話し合ってもらい、10分ごとに次のステークホルダーの立場に入れ替わってもらうという進め方をしました。
参加した皆様、なかなか自分や自分の職種・役職以外の視点で病院のことを考えたことがないため、どちらかというと考えさせられる時間が多かったかなと思いますが、結果として「初めて異なる視点で考えてとても勉強になった」「多職種から新しい見方を教えてもらって驚いた」といった声が聞かれました。
WS4 当院がやるべきこと、理念と実践
第4回目は、いよいよ当院がこれからやるべきことや理念と実践について、職種別のグループになってディスカッションを進めてもらいました。基本となる問題意識はある程度共通でしたが、これまでに行った1~3回のワークショップで得た情報や視点が加わることで、それぞれの職種・部署から新たにやってみたいという施策案が次々と出てきて、大いに盛り上がりました。
この回で出た施策案をより具体的で前に進められるように、経営企画室と当協会で持ち帰り、最終回となる第5回目に向けて準備を行いました。
WS5 将来ビジョン、病院理念等
最終、第5回目は第4回目の議論をまとめたものを示し、それに基づいて当院が目指すべき将来ビジョンややるべきことをディスカッションしました。また、第4回のワークショップ内でそもそもの当院の理念や病院方針についても一部アップデートがあっても良いかもしれないという問題提起がなされたこともあり、病院理念や病院方針についても、1文ずつ確認いただいて議論し、グループでコメントをまとめてもらいました。
最後には、参加した全員から一言ずつ、このワークショップを通じての感想や得られたものなどを発表してもらいました。「最初は疑問を感じていたけれど、回を重ねるごとに当院への理解が進んだ」「他の職場や多職種で話し合うことで、当院の良い面や課題を再確認することができた」「当院がとても良いことをしていると認識できた。こうした取り組みを継続してほしい」「一連のワークショップで話した話を、そのままで終わらせずに、病院の実際の施策に取り組むことを進めてほしいし進めたい」という声があがってきました。
AfterWS ワークショップ報告会へ
一連のワークショップで得られた病院としての方向性については、現在、経営企画室とともにまとめに入っており、年明け以降にワークショップの総括の意味での報告会の開催や自年度以降の法人の事業計画への反映も含めて計画が進んでいます。
コミュニティホスピタルといっても、それぞれの病院によって特性は異なりますし、地域からのニーズも異なりますので、その病院のメンバーが自ら経営環境を分析し、実際の現場で感じてきたニーズを折り込みながら、自分たちが目指すべきコミュニティホスピタルの姿を見つけていくというプロセスは極めて重要なステップだと考えています。
そして、同じ病院であっても普段顔をあわせない職場や多職種のメンバーが話し合いをすることで、院内のコミュニケーションが活性化した点がとても大きいと思いました。
また、ワークショップの開始当初から経営企画室主導で経営環境分析や準備を行ってきたことは、今後のコミュニティホスピタル転換の中でも自律的な活動に期待できると思っています。
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今回は、コミュニティホスピタル転換の第一歩目となる「コミュニティホスピタル(C&CH)ワークショップ」の取り組みについてご紹介しました。
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