見出し画像

コミュニティホスピタルにおける認知症患者さんとの向き合い方

ここまでコミュニティホスピタルが取り組む「認知症にやさしいデザイン」、認知症を当事者目線で理解する「認知症AR体験DemantiaEyes」の紹介を行ってきました。今回は全4回のまとめとして水海道さくら病院の取り組みを振り返ります。


1 コミュニティホスピタルが認知症患者と向き合うべき理由

高齢化が進展するにつれて、認知症者数が増加することがわかっていますが水海道さくら病院の周辺地域でも同様の傾向があります。地域全体の人口は今後縮小の傾向にありますが、高齢者人口や認知症者数は今後も増加すると推計されています。

地域における在宅医療や介護事業者への調査からも、認知症者への対応は地域課題として広く認識されていることがわかっています。課題が特にないと回答したのは全体の14%にすぎず、課題があるとの回答は全体の45%を占めました。課題があると回答した事業者は普段から認知症者に接する機会が多いグループホームやケアマネ、訪問看護で特に割合が高い傾向にあり、地域の認知症対応の医療機関が不足しているということがコメントの1つとして上がっています。

出所:令和2年度 常総地域 在宅医療・介護における課題アンケート 結果報告書

2 認知症患者の入院における問題点

入院は、認知症当事者や家族に大きな影響を及ぼすことがわかっています。例えば、身体的な影響(ADL低下、体重減少、失禁増加など)、精神的な影響(せん妄、認知症症状進行、BPSD悪化など)、入院中の有害事象による影響(点滴やチューブ類抜去、転倒と骨折など)が報告されています。これに加えて、向精神薬投薬量増加、身体拘束や鎮静剤使用、高い死亡率、長い在院日数も報告されています。

また、認知症入院患者のケアに関わる医療従事者も大きな影響を受けていることがわかっています。川村ら(2018)によると、看護師は認知症高齢者の理解に対しての困難、病院という環境に起因する困難、認知症高齢者に対する尊重した看護に関する困難に直面していると報告されています。これらの困難は、病棟内の事故、インシデントの増加、看護師の業務負担や精神的ストレスの増大にも繋がることであり、看護師の離職率とも関係してくると考えられています。

一方で受け入れ側の病院においては、入院患者に対する対応がまだ不十分であることも報告されています。国立がん研究センターの小川先生の2015年の調査では、認知機能評価や認知症患者向けマニュアルなどの整備、認知症の行動・心理症状(BPSD)に対する対応策、認知症患者に適した環境の整備などがあまり進んでいないことが報告されています。

このような状況に対して、水海道さくら病院では、認知症患者が入院に際しても、「その人らしく」過ごすことができ、QOLが損なわれないこと、スタッフがポジティブに認知症の人と向き合え、達成感を得ることができるようになること、地域で病院が果たすべき役割を充たすことができるようになることを目指しています。そして、これらにより、高齢者および家族、コミュニティが幸せに過ごすことができる「誰も取り残されない」社会の実現への貢献に努めています。

3 認知症にやさしいデザイン

「認知症にやさしいデザイン」という言葉は、日本ではまだあまり馴染みがなく、先進的な取り組みです。認知症への対応を環境デザインの視点からアプローチする新しい取り組みであり、国際的な研究で明らかとなったことを体系的に整理し、環境デザインに反映していくものになります。認知症にやさしいデザインの基本はその空間を分かりやすくすることですので、認知症の方だけでなく、高齢者や視覚障害者、子どもを含めて多くの方に有効なデザインあると考えられており、医療・介護施設のみならず様々な施設で適応可能なものです(詳細は第1回、第2回の記事をご覧下さい)



4  現場スタッフの認知症ケア力の向上


認知症に優しいデザインで環境を整えるだけではなく、ケアそのもののレベルを向上させていく取り組みも欠かせません。認知症ケア力の向上に向けたアプローチとしては当事者の目線で体感する認知症AR体験から始めることで学習の効果を高めていきます。Demantia Eyes(AR体験)は認知症の方がどのように病院の環境(廊下や壁、トイレや床の色など)をみていて、感じているかを体験することが可能ですが、この体験を通じることによって座学研修等を通じた基礎教育研修がより充実したものととなりました。(詳細は第3回の記事をご覧下さい)

Demantia Eyes


5 認知症ケア定着のための組織づくり

デザインを通じて療養環境を整えること、AR体験等を通じて当事者目線をケアに活かす意識を持つことの意味を説明してきましたが、より重要なことは、より良い認知症ケアを現場に定着させることです。

認知症ケア患者さんの対応に十分な自信がなかったスタッフにとって、よりよい認知症ケアを持続的に行うための組織作りは、重要なポイントでした。具体的には認知症プログラムをスムーズに院内で推進するために、認知症WG(ワーキンググループ)を結成し、実践内容を現場に落とし込むことや他職種連携を担う役割として病院をリードしていきました。看護部だけではなく、医師やリハビリスタッフを含む多職種で構成することで病院一体として取り組むことを明確化し、活動にドライブをかけていきます。

これらの取り組みはまだまだ最初の一歩に過ぎません。継続的に取り組むことで、病院として、個人として、私たちなりの最適な対応方法を見つけていきます。


お問い合わせはこちらから

コミュニティホスピタルにご感心のある方、働いてみたい方、協会への参画を希望される方は、下記フォームからご連絡ください。

最新情報はfacebookをフォロー
Webはこちら▶ https://forms.gle/viXm5urtAk99rf9Z9


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?