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第227号(2023年6月26日)博士(たち)の異常な愛情

【今週のニュース】ベラルーシからロシアへの弾薬供給量は ほか

ウクライナにクラスター弾頭型HIMARSを供与?

 6月22日、ロイター通信は、米国がHIMARS用のクラスター弾頭搭載型ロケット弾(DPICM)の供与を検討していると報じた。

 DPICMは2008年のクラスター弾禁止条約による禁止対象に入っている。米国はロシアと同様に同条約の批准を拒否しているが、米軍の現役装備から外すという措置をとった。今回の件はそれをウクライナに供与しようということのようだが(なお、ウクライナもクラスター弾禁止条約は未批准)、議会による反対や同盟国との関係を慮ってまだ決定されていないという。

ベラルーシからロシアへの弾薬供給量は13万トン

 ルカシェンコ政権に批判的なベラルーシ鉄道従業員たちの告発によると、開戦以来、ベラルーシは13万トン以上の弾薬をロシアに供給した。おそらくはベラルーシ鉄道の内部資料によると思われるが、開戦直前には数十〜数百トンに過ぎなかった鉄道による弾薬輸送量が開戦後に跳ね上がり、ピーク時で月2万9000トン、平均して月5000-1万トンが移送されているという。

【インサイト】博士(たち)の異常な愛情 ロシアで盛り上がる「ウクライナに核を使え」論を覗いてみる

頭痛がしてくるカラガノフの「核こそ救世主」論

 今月半ば以降、外交・安全保障専門家の間で「ウクライナに核を使うしかない」という議論が盛り上がっています。こういう話は過去にもテレビ番組等で取り上げられてきており、その際にあるキャスターが「核でみんな死んでも我々は天国に行けるんだ」などと口走って話題を呼びましたが、今回は一応インテリゲンチャに分類される人たちが口にしているのだから始末の悪いところです。
 議論の端緒となったのは、今月13日にセルゲイ・カラガノフが週刊誌『プロフィーリ』に寄せた一本の論考です。カラガノフといえばロシアの外交・安保有識者のクラブとし知られる外交防衛評議会(SVOP)の名誉議長を務める人物。そのカラガノフが核について何を言ったのか、その中身を見ていこうと思うのですが、率直に言うと、読みながら頭痛と眩暈が交互に襲ってくるような感覚を覚えました。とりあえず彼の主張を(どうにか)まとめてみましょう。

・ウクライナでの戦争は長く続くだろう。ウクライナの広範な領域を「解放」するだけでも時間がかかるだろうし、ウクライナ側はゲリラ戦で対抗してくるかもしれない。ロシアを憎むウクライナ人を「再教育」するには10年以上かかるだろう。
・ロシアはユーラシアの東へと緊急に重点を移さなければいけないのであって(注:かねてからの持論である中国との戦略的接近を指す)、ウクライナにコストを割いているべきではないのだ。
・ロシアに必要なのはウクライナの東部と南部を「解放」し、残りの部分については降伏させて軍隊を持たない干渉国家化することである。しかし、それを実現には西側がウクライナから完全に手を引くことが条件となる。
・西側は過去5世紀にわたって保持してきた覇権を喪失しつつあり、そうであるが故に余計に攻撃的になっている。西側に逆らう勢力の旗手であるロシアを壊滅させるためにウクライナをけしかけてロシアと戦わせ、最終的には中国の弱体化も目論んでいる。
・西側は70年間の栄華の果てに人間にとっての本質的な価値、すなわち、家族、祖国、歴史、男女の愛、信仰、高次の存在への奉仕などを否定するに至った。これらは西側諸国を「リベラルな全体主義」へと導くものである。
・このような西側との間では、もはや和解は不可能である。停戦は可能だが、わかりあうことはできない。その果てには第三次世界大戦の兆候が見える。
・また、西側のエリートは長年の平和に慣れて自己保存の本能が衰えている。西側エリートの知的レベルは低下しており、戦争も核兵器も恐れなくなっているのだ。
・核兵器は「最上位の存在(神)」が人類に与えたもうたものである。これによって人類は4分の3世紀にわたって戦争を防いできたが、西側は衰退していく自らの運命に絶望し、核大国同士の全面戦争を厭わなくなっている。
・今こそ核エスカレーションの恐怖を再認識させるべきであり、そうでなければ人類が滅ぶ。
・ウクライナをめぐる情勢はロシアと世界の将来を決定する天王山である。ロシアは5世紀に及ぶ西側諸国の支配から世界を解放し、全人類を救おうとしている。西側のエリートを追い落とすことで人類史の新たなページを開こうとしているのだ。
・ロシア自身もこの3世紀はヨーロッパを目指していたのであり、その過程で得たものも少なくはないのだが、今や我々は自らに回帰すべきである。最近公表された新しい『対外政策概念』がロシアを一つの「文明」と位置付けたことは大きな一歩である。今後、ロシアはまずもって東へ、さらに南と北へも進むべきである。
・ウクライナ問題で西に注意を逸らされてはならない。ロシアはウラル、シベリア、大洋へと進むべきなのだ。シベリアには(ペテルブルグとモスクワに次ぐ)第三の首都を建設すべきだ。
・このような野望を実現するに渡り、あと1年も2年も3年もウクライナで戦うことはできない。ウクライナと呼ばれている地域の住民によって引き起こされた悲劇によって何万人もの人が苦しむだろう。このような事態を回避するためには、西側に戦略的撤退ないし降伏を強いなければならない。そしてロシアと世界の進歩を邪魔しないように大人しくさせておかねばならない。
・その手段となるのが、核兵器の使用の敷居を下げ、エスカレーションの梯子を登ってみせることだ。これによって西側は衰えていた自己保存の本能を復活させ、ロシア人の邪魔をすべきではないと理解するだろう。
・エスカレーションの梯子は私(カラガノフ)の計算によると2ダースほどある。最初のステップとしてはすでにベラルーシへの戦術核兵器配備という形で始まっており、今後は攻撃対象となる可能性のある施設付近の住人に警告を発するなどの方法も考えられる。
・正しい抑止戦略があれば敵の報復のリスクを最小限に抑えられる。冷戦期もそうだった。ソ連が本格的な核報復能力を獲得した後、アメリカはソ連領内に核を使うことを一度も真剣に検討しなかった。
・だが、西側のエリートが自己保存の本能を完全に失ってしまい、核の威嚇だけで引き下がろうとしない場合はどうか?この場合は一連の国々における目標群を攻撃し、西側の連中を正気に戻してやる必要が生じる。恐ろしい選択だが、これをやらねばロシアも世界も滅びるのだ。
・こうした行動は友好国からさえ非難されるだろうが、しかし勝ったものは裁かれない。最終的に我々は多くの国々から感謝さえされるだろうし、ここで勝てれば今度は中国と一緒に西側の覇権を完全に終わらせることも可能になるかもしれない。これは西側の人民も含めたすべての人々のためになることなのだ。

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