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第239号(2023年10月16日)プーチンの核実験カード


【今週のニュース】

ショイグ国防相がミサイル工場を訪問

 10月6日、ロシアのショイグ国防相がクラスノヤルスク機械工場(クラスマッシュ)を訪問した。クラスマッシュはロシアで唯一の液体燃料弾道ミサイルの生産拠点であり、現在はサルマート超大型大陸間弾道ミサイルの生産が行われている。訪問中、ショイグは、サルマートの実戦配備が間も無く始まるだろうと述べた。

2024年のロシア国防費は10兆ルーブル超えへ

 来年度のロシア連邦予算案が下院に提出された。第237号で触れたように、来年度の国防費は10兆ルーブルを超えるとの見方があったが、果たして10兆7800億ルーブルという史上空前の規模になったようである。

 報道ではこれを「1.7倍」と表現する場合が多いが、比較対象である今年度予算はすでに戦費でかなり膨れ上がっているため、まだ「平時」であった2021年度以前と比べた方がよいだろう。この基準でいうと、来年度の国防費は「平時」と比較してほぼ3倍であり、対GDP比は6%にも達する見込みである。
 また、来年度は国防費が社会保障費を上回る予定であるが、これもソ連崩壊後、初めてのことである。欧州言語ではよく、軍事支出と民需の関係を「大砲とバター」というフレーズで表現するが、ルジンとプロコペンコによる最近の論考では、現在が「大砲が何より重要」という状態になってしまっているという。
 もっとも、こうした状況は一足早くウクライナ側を見舞っており、双方が戦時経済体制下で戦う総力戦の様相が確認できる。


F-16の実戦投入早まる?

 ウクライナに供与されるF-16戦闘機の一部は来年2月にも実戦投入できる可能性が出てきたと『ウォール・ストリート・ジャーナル』が伝えている。ただし、これは元々ある程度の経験を持っていて尚且つ英語の堪能な10人未満のパイロットに限った話であるというから、そういうエリートパイロットを大急ぎで仕込めば今から5ヶ月くらいでどうにかなるということのようだ。

 ちなみに米国が約束したM1エイブラムス戦車についても、予定よりはかなり早い先月末に第一陣が到着している。

【インサイト】プーチンの核実験カード

カラガノフ×プーチン

 ロシアによる核エスカレーションの脅しが再び注目を集めています。今回のきっかけは恒例の有識者会議「ヴァルダイ」で行われた一連のプーチン発言でした。

 この中で、プーチンはいつものように西側とウクライナへの批判を繰り返すとともに、ロシア経済は多少苦しいが大丈夫なんだ、ということを強調しています。防衛費が増加してGDPの6%にも達していることについても同様に述べており、制裁と軍事負担増という状況においても戦争継続には一定の自信を持っていることが読み取れます。
 以上の発言は司会のフョードル・ルキヤノフの質問に答えるという形でなされていますが、その後、フロアからの質問へと移ったところで、3番目に指名されたのがセルゲイ・カラガノフでした。本メルマガ第227号で取り上げたように、「核エスカレーションの恐怖を再認識させる」ための先制核使用を主張した人物です。

 今回、カラガノフがプーチンに対して行った質問も基本的には同じもので、核使用基準を変えて積極核使用戦略を導入するべきではないか、と主張するものでした。これに対してプーチンは大要、次のような返答を行なっています。

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