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第183号(2022年7月4日)NATO新戦略概念とロシア側の反応

【今週のニュース】ウクライナ東部情勢とウズベキスタン西部の騒乱

セヴェロドネツクに続きリシチャンスクも陥落

 既に広く報じられている通り、ウクライナのセヴェロドネツク市がロシア軍によって完全制圧されたのに続き、その西側にあるリシチャンスク市も激しい攻防の末に陥落した模様である。ただ、リシチャンスクはやや高台にあってセヴェロドネツク側から攻略するのは難しく、攻略したのは南方から伸びてきた別の攻撃軸であったようだ。これを受けてロシアのショイグ国防相は7月3日、ルハンシク州を完全に制圧(ロシア側の言い方では「解放」)したとプーチン大統領に報告している。
(詳しくはISWのレポートを参照されたい)

 ロシア軍は早くもリシチャンスクの地雷除去を始めており、フェーズは同市の「攻略」から「占領」へと移っているのだろう。他方、ウクライナ軍は部隊保全のために都市ごと玉砕することは避けているようだ。そこで次の焦点となるのは、ロシア軍のこれ以上の進撃をウクライナが許すのかどうかである。
 おそらくロシア軍はこの勢いで南西方面へ進み、交通の結節点であるバフムト市を狙うと思われる。地図で見る限りこの辺りはセヴェロドネツク周辺よりも平らな地形で、ロシア軍を迎え撃つとすれば大規模な機甲戦になるかもしれない。
 他方、ここでロシア軍と決戦することは避けて遅滞防御に徹し、ハルキウ周辺とかヘルソン方面で攻勢に出る、という考え方もあり、ウクライナ側の出方が今後注目される。

ウズベキスタン西部で騒乱

『eurasianet』2022年7月4日
 先週以来、ウズベキスタン西部のカラカルパクスタン自治共和国で騒乱が発生しており、少なくとも18人の死者と516人の拘束者が出ているとされる。同自治共和国はソ連時代初期の1930年代半ばまではカザフスタンの一部であり、ソ連崩壊後も住民投票によってウズベキスタンから離脱できるという条件付きでウズベキスタンの一部に留まってきた。
 それが今回、ミルジヨエフ大統領の持ち出してきた憲法改正案ではこの権利が削除されていたため現地住民の猛反発を呼んだとされている(というのが分かりやすく丸めた説明なのだが実態は未だ不明)。リンク先の記事に分かりやすい地図があるが、カラカルパクスタンはウズベキスタンの約3分の1を占める広大な自治共和国であり、ここが不安定化すればウズベキスタンという国家自体の安定性にも大きく関わろう。
 ただ、憲法改正案の本丸は大統領任期を現在の5年から7年に伸ばすことの方にあるようで、ミルジヨエフはカラカルパクスタンの件を従来通りに戻した修正改正法案を提出している。これで事態が収まるのか、今年初頭のカザフスタンのように何らかの権力闘争につながるのかなど、旧ソ連におけるもう一つの注目点が出現したといえる。

【インサイト】NATO新戦略概念とロシア側の反応

NATO新戦略概念公表

 去る6月30日、スペインのマドリードで開催されていたNATO首脳会合が閉幕しました。今回のNATO首脳会合はロシアによるウクライナ侵略の真っ最中に行われたものであり、2014年のNATOウェールズ会合を思わせるものがあります。しかも、今回は12年ぶりにNATOの主要指針である『戦略概念』が改訂されるということになっていたので、余計に注目が集まりました。日本も『国家安全保障戦略』をはじめとする戦略三文書改訂を行っているところですから、NATOの動向は大いに注視する必要があるでしょう(今回は岸田首相も参加していますし)。
 そうしたわけで出てきた新たな『戦略概念』については既に新聞でも多くの論評がなされています。例えば朝日では以下のとおり。

 また、日経には以下のように『フィナンシャル・タイムズ』の論評が掲載されました。

 英語の論評となるともう、無数にあるのですが、目についたもののいくつかはNEW BOOKSのコーナーで紹介しているのでそちらをご覧ください。

ロシアへの言及

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