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第205号(2023年1月16日)攻めるロシア軍と西側製戦車供与の現実味

【インサイト】攻めるロシア軍と西側製戦車供与の現実味

 2023年がやってきました。毎年、新しい年を迎えるたびに「なんだかSFで見たような未来だな」と思うのですが、今年はひどく古臭く残虐な戦争が続いており、なんだかなぁという気分にもなります。そして、この戦争はおそらくそう簡単に終わらないでしょう。その辺のことを、昨年末から今月初めの情勢をなぞりつつ考えてみたいと思います。

ゲラシモフ参謀総長がウクライナ作戦司令官に

 まず取り上げたいのは、ロシア軍制服組トップであるワレリー・ゲラシモフ参謀総長がウクライナ作戦の統括司令官に任命されたというニュースです。

 作戦開始当初、ロシア軍はウクライナに侵攻させた4個軍管区(西部、南部、中央、東部)を統合的に指揮する指揮官を任命していませんでした。おそらくは斬首作戦でウクライナ政府を麻痺状態に陥れ、電撃的に全土を占領できるという見通しがあったためでしょう。各軍管区はひたすら突進して目の前の土地を占領すればいい、という程度の考えであったのだと思われます。
 この辺については拙著『ウクライナ戦争』でも書いたのですが、英国防省の統合軍研究所(RUSI)からは昨年11月末により詳細なレポートが公表されています。これによると、ロシア軍はドンバスへの攻勢でウクライナ軍主力を拘束しつつ、メインの攻勢軸はキーウに定め、10日で占領できるとの計画であったとされます。
 しかし、広く知られているとおり、ロシア軍の目論見は当初から崩壊しました。ウクライナ軍は2個砲兵旅団の全力砲撃でロシア軍の侵攻を阻止するとともに、首都近郊のアントノウ空港を死守。さらにゼレンシキー大統領がキーウ脱出を拒否したことで斬首作戦は失敗し、3月末には首都攻略を一旦諦めざるを得なくなりました。
 こうした中でロシア軍はまず、南部軍管区司令官として南部部隊集団を率いていたドヴォルニコフ上級大将を作戦全体の司令官に任命しますが、5月(8月説もあり)には解任されます。後任には軍事・政治担当国防次官のジトコ大将が任命されたと見られていますが、これも長続きせず、11月には南部軍管区司令官のスロヴィキン上級大将がウクライナ作戦全体の統括司令官となりました。これまでの統括司令官が「そういうポストがあるらしい」という噂レベルの存在であったのに対し、スロヴィキンの任命は初めて公式になされており、おそらくは明確な権限とスタッフを与えられたのでしょう。
 しかし、それから3ヶ月で状況は再び変化しました。前述のように、ゲラシモフが統括司令官に任命され、スロヴィキンはその他3人の将軍とともに副司令官に格下げされています。
 これをどう解釈するかは難しいところでしょう。スロヴィキンだけでは4個軍管区を指揮するには力不足なので、参謀総長自らが前線の指揮を担うようになった(つまり作戦があまりうまくいっていない)という見方が一つには成り立つと思われます。しかし、『モスコフスキー・コムソモーレツ』のミハイル・ロストフスキー記者が皮肉な筆致で指摘するように、実際にプーチンが何を考えてこういう人事を決めているのかは外部からは窺い知ることがそもそも困難であり、あまりもっともらしいことを言うのは今のところ避けたいと思います。

ソレダールの陥落

 この間、激戦地となっていた東部バフムトの周辺では大きな動きがありました。同市北部のソレダールをロシア軍がついに占拠したらしいという観測がそれです。

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