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第226号(2023年6月19日) ウクライナの反転攻勢難航の背景

【インサイト】ウクライナの反転攻勢難航の背景

分厚いロシアの防御体制

 6月初頭に始まったウクライナの反転攻勢は、率直に言って難航していると言えるでしょう。前号でも書いたように、ヴェリカ・ノヴォシルカを発起点とする攻勢が始まったのが今月4日頃。続いてオリヒウを発起点とする攻勢が7日に始まりましたが、これ以降、ウクライナ軍はごく限定的にしか前進できていません。ほぼ2週間かけてロシア側が主抵抗線にするつもりであろう要塞地帯にさえ辿り着けていないというのは、かなりの苦戦であることを意味しています。
 その理由はいくつか考えられます。第一に指摘できるのは、今回の反転攻勢が奇襲ではない、という点でしょう。今年初頭以降、ウクライナの反転攻勢がザポリージャ正面を突破してアゾフ海への到達を目指すだろうというのは散々言われてきたわけですが、同じことをロシア軍も予想していたはずです。したがって、この正面は数ヶ月にわたって築かれた多重の陣地線で要塞化されており、南部部隊集団の3個諸兵科連合軍(南部軍管区第48諸兵科連合軍及び東部軍管区の第35及び第36諸兵科連合軍)が防衛を担当するという分厚い防御体制が取られてきました。

 第二に、カホウカのダム崩壊により、ロシア軍はヘルソン方面から兵力を転用できるようになりました。ヘルソン方面を守るドニプロ部隊集団は南部軍管区第49諸兵科連合軍、第29諸兵科連合軍、第22軍団、東部軍管区第5諸兵科連合軍と4つの連合部隊を擁する有力な部隊であり、その一部がウクライナ軍を迎え撃つために投入可能になったということです。ウクライナ軍の攻勢軸の中で最も西側に位置する(ということは最もヘルソンに近い)オリヒウ軸が攻めあぐねている理由の一つはこれでしょう。ロシアはさらに二つの小規模ダムを破壊したとも言われており、これもウクライナ軍にとっては逆風になりそうです。

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