第181号(2022年6月20日) 公刊情報と衛星画像で読む「オホーツク海で起きていること」ほか
【NEW CLIPS】米国製対艦ミサイルがロシアの外洋曳船を撃破
6月17日、ウクライナ軍は、ロシアの外洋曳船ワシリー・ペフを対艦ミサイルで撃破したとする映像を公開。米国から供与されたハープーン対艦ミサイルによるものと思われる。ウクライナ国防省はワシリー・ペフが黒海のズメイヌィ島に物資を輸送する最中であったとしているが、攻撃手段には触れていない。
【レビュー】ウクライナ国防当局者が語る戦争の現状
『National Defense』2022年6月15日
パリで開催中の防衛展示会ユーロサトリを訪れたウクライナ国防省のデニス・シャラポフ次官(装備行政担当)とウクライナ陸軍兵站コマンド司令官が、米『National Defense』誌とのロングインタビューに答えた。興味深い点は以下の通り。
(シャラポフ発言)
現在、前線の長さは2500kmであり、うち1000kmで激しい戦闘が行われている
軍と防衛・セキュリティ部門の人員は全部で100万人に及んでいる
火砲がとにかく必要。数は明かせないが数百門の単位で火砲が運用されているので砲弾も膨大に要る
これまでに受け取った兵器では所要量の10-15%にしかならない。火砲の他にも戦車、歩兵戦闘車、装甲兵員輸送車、防空システム、多連装ロケットが求められている
精密誘導兵器も敵に対して優位に立つためには重要
(プレデター無人機を供与する話があるが?との質問に対して)それがあれば敵を精密に攻撃できるようになる
外国から供与された兵器を製造国に送り返してメンテナンスしている時間的余裕はない。従ってスペアパーツの供給について話し合っている
M777榴弾砲は1個中隊で6門だが、敵の砲兵と交戦するたびに2門は損傷する
メンテナンスは外国企業によって訓練を受けたウクライナ人だけでやっている(外国人は入っていない)
(カルペンコ発言)
1個旅団の担当正面幅は40kmであり、現在の戦線だと戦闘が行われているエリアをカバーするには40個旅団が必要になる(シャラポフ発言と計算が合わないがおそらく後方に控置する予備隊を含めている)。1個旅団は歩兵戦闘車100両、戦車30両、火砲システム54門を必要とする(ウクライナ軍の旅団が3個機械化歩兵大隊と1個戦車大隊を基幹としているらしいことがわかる)
装備の50%が失われた。具体的には歩兵戦闘車1300両、戦車400両、火砲システム700門である。しかし外国から受け取った戦車は100両でしかなく、損失を全くカバーできていない
現在のような戦争は1945年以来起こってこなかった。現在、人的損失を避けるような闘い方はできていないので、だからこそ長距離の精密攻撃能力が求められる。特に武装ドローンや自爆ドローンが求められている
多連装ロケットシステムも欲しい。これがあれば交戦距離を60kmまで伸ばすことができるし、自爆ドローンと組み合わせれば砲兵システムの損害を低下させられるだろう(おそらく現在は数的に優勢なロシア軍砲兵とロケットに叩かれまくって損害が止まらないのだろう)
【インサイト】オホーツク海深くで起きていること:公刊情報と衛星画像による分析
北方領土で大規模実弾発射演習
朝日新聞が国後島の現地紙『ナ・ルベジエ』を元に報じたところによると、ロシア軍は今月13日から月末まで国後島での実弾射撃訓練を開始した模様です。
演習実施地域は同島南部で、ロケット弾射撃を行うとされているので、これは従来から行われていた恒例の訓練でしょう。通常、国後最南端から太平洋側へ向けて発射されているようです。
一方、『ナ・ルベジエ』によると、国後島ではS-300V4地対空ミサイルの発射訓練も行われたとのこと。前号で紹介したように、北方領土から千島列島にかけての幅広い海域で先月末から14-15日まで航行警報が出ており、S-300V4の件はこの一部であったと思われます。
ちなみに筆者はS-300V4が択捉島に配備されたことまでは把握していましたが、国後については今ひとつ確信を持てていませんでした。今回の報道は国後にもS-300V4が配備されたことを明確にするものとしても興味深いものと言えます。なお、リンク先の記事には国後島で撮影されたというS-300V4の写真も掲載されていますが、明らかに同島中部のラグンノエ駐屯地のミサイル陣地とは異なる野外陣地に展開していることがわかります。航行警報が出ていたのが国後北東部であることを考えると、おそらく路上機動して野外展開したのでしょう。
ロシア太平洋艦隊の動き
これと並行して、太平洋艦隊の動きも活発になっています。マルシャル・シャポシニコフ(1155M型)を中心とする5隻の艦隊が今月10日に宗谷海峡を抜けて日本の太平洋岸へ出たことは前号で紹介しましたが、その後の統合幕僚監部の発表では房総半島沖180kmを通過して16日には伊豆諸島を抜けたとされています。
また、この5隻の後を追うようにして1914.1型ミサイル追跡艦マルシャル・クルィロフが1155型フリゲート1隻(艦番号からしてアドミラル・パンテレーフ)を伴って同じルートを航行しているようです(一時は一緒に行動していたが途中で分離したらしい)。
これとは別に、宗谷岬をロシア海軍の小型艦艇が西進したことを統合幕僚監部は報告しています。陣容は以下のとおり。
衛星画像でわかる潜水艦の動き
一方、カムチャッカ半島の原潜基地へと視点を転じると、4月半ばから巡航ミサイル原潜(SSGN)と攻撃型原潜(SSN)の大部分が埠頭から姿を消し、6月7日まで帰港していないことがMaxarの衛星画像で確認できます(これ以降は画像の更新がなく不明)。
また、この間には955型弾道ミサイル原潜(SSBN)1隻も1ヶ月ほど姿を消しており(現在は帰港)、おそらくはかなり大規模な潜水艦作戦訓練が実施されたのではないかと思われます。
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