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第271号(2024年7月1日)ロシアの中距離ミサイル開発・配備と新たなデカップリング問題


【今週のニュース】

カリーニングラードの海軍航空隊戦闘機部隊が航空宇宙軍へ移管

 ロシアの軍事シンクタンク、戦略技術分析センター(TsAST)によると、バルト艦隊航空隊第34混成航空師団隷下にあった第689戦闘機連隊が航空宇宙軍(VKS)に移管された模様である。同連隊はカリーニングラードのチカロフスク飛行場を拠点とする戦闘機部隊であり、2011年にも一度VKSに移管されたが、2018年には再び海軍航空隊所属となっていた。今回の措置により、第689戦闘機連隊はVKSの第6航空・防空軍隷下となったとみられている。

 以上の動きは、前号で紹介した軍管区からの海・空軍の離脱とおそらく関係していると思われる。ただ、TsASTも述べるように、これが海軍航空隊全体に波及していくのかどうかはまだ明らかではない。

【インサイト】ロシアの中距離ミサイル開発・配備と新たなデカップリング問題

プーチンが中距離ミサイルの生産・配備に言及

 6月28日、プーチン大統領は、国家安全保障会議のオンライン会合に臨みました。ロシア大統領府の公式サイトによると、プーチンは会議の冒頭、「地上配備型中・短距離ミサイルの一時的な配備停止に関するさらなる措置」について検討すると述べたとされています。つまり、中距離核戦力(INF)全廃条約が2019年に破棄されたのちも該当のミサイル(射程500-5500kmの地上配備型中距離ミサイル)の配備を一方的に自粛するとしてきた措置の見直しを行うということです。プーチンの主な発言内容は以下のとおり。

・米国は数年前、「でっちあげの理由」でINF全廃条約を離脱した
・これに対してロシアは2019年、地上配備型中距離ミサイルを配備しない限りは自国も配備を自粛すると発表した
・今や米国は地上配備型中距離ミサイルを製造しており、演習名目でヨーロッパにも持ち込んでいる。また、当該ミサイルをフィリピンに配備することも発表された
・我々はこの状況に対応する必要がある。我々もこうした攻撃システムを生産し、状況に応じて実際に配備する必要があると思われる

 どういうことなのか、以下で事実関係を整理しながら少し考えてみましょう。

INF全廃条約をめぐるこれまでの経緯

 ここでプーチンが述べている「でっちあげの理由」というのは、INF全廃条約に違反する射程の9M729地上発射型巡航ミサイル(GLCM)をロシアが開発しているのではないかという疑惑を指します。この問題については本メルマガでも何度となく取り上げてきた。

 以上の記事でも触れているように、9M729というのはノヴァトール設計局が開発した艦載型巡航ミサイル3M14カリブルの地上発射バージョンと見られています。とすると、射程は少なくとも1500kmほどあると考えられ、INF全廃条約にぶっちぎりで違反するものと言えるでしょう。第10号でも紹介しましたが、ロシアは2008年ごろからこのミサイルの発射実験を行っていたと見られ、問題化したのは2014年からでした。当時のオバマ米政権としては「核のない世界」を実現するためにこの疑惑に真正面から切り込むことはしなかったものの、2014年にロシアがウクライナに対する最初の侵略に及んで以降、徐々に批判のトーンを強めていったのだと思われます。
 そして2017年にトランプ政権が成立するとロシアのINF全廃条約違反をめぐる対立は決定的なものとなり、2019年には米国側が条約を脱退するという帰結を迎えました。プーチンが述べるように、条約が消滅した後もロシアは「米国が中距離ミサイルを実戦配備しない限りはロシアも配備を自粛する」という措置を取ってきました。あたかも「米国の横暴に対してロシアは自制した」というポーズを取ったわけですが、そもそもの発端がロシアの条約違反であるわけですから、事実関係に鑑みればこれは話が逆であるわけです。

米欧離間(デカップリング)の脅し

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