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第104号(2020年10月26日)中露軍事同盟の可能性、新START延長、ロシア軍削減論ほか


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【レビュー】中国との軍事同盟は「想像しうる」、新START延長支持…ヴァルダイ会議でのプーチン大統領発言を読む

 ロシア政府は毎年秋に「ヴァルダイ・ディスカッション・クラブ(通称ヴァルダイ会議)」と呼ばれる大掛かりな有識者会合を開催しています。日本からはロシア研究の第一人者の一人、下斗米伸夫・神奈川大学特別招聘教授や畔蒜泰助・笹川平和財団シニア・リサーチ・フェローなどが常連参加者として知られています。
 第17回となる今年のヴァルダイ会議は「パンデミックの教訓と新たな課題 いかにして世界的危機を平和のチャンスにするか」という共通論題で10月20-22日の日程で開催されました。

 この中で注目されたのが、最終日の22日にオンラインで登壇したプーチン大統領による演説です。非常に長いのですが、興味深い論点が多いので、特に重要な点を抜き出してレビューしてみましょう。
 翻訳はいつも通りAI翻訳サービスDeepLを使用し、適宜手直しを加えました。

<コロナ危機と国家の役割>
 コロナウイルスの脅威との戦いは、有能な国家だけが危機下でも効果的に行動できることを示しています。グローバルな世界における国家の役割は減少しており、将来的には何らかの別の形の社会組織に取って代わられるだろうと主張し、主張している人々の議論に反するものです。ええ、そうなることもあるでしょう。遠い未来には、いっぺんにすべてのものが変わるでしょう。万物は流転します。しかし、今日では国家の役割と意義は重要です。
 我々は常に、強い国家であることがロシアの発展の基本条件と考えてきました。そして、国家組織の衰退と90年代の完全な荒廃を復旧し、強化する取り組みが正しかったのだと改めて確認しました。
 もちろん、強い国家とは何かという問題はあります。何を以って強さとするのか?それはもちろん、完全な統制とか法執行機関の厳格さではありません。民間の主導権を剥奪したり、市民活動を侵害したりすることでもありません。軍隊とか国防能力の強さでもありません。しかし、ロシアの地理、地政学的な課題の全体的な複雑さを考えると、これらの要素がどれほど重要であるかは皆さん理解されていると思います。そしてもちろん、国連安全保障理事会の常任理事国として、世界の安定を確保するという歴史的な責任があります。
 それでも私は、国家の強さは、何よりも国民の信頼にあると確信しています。ご存知の通り、人は力の源です。そして、この図式は、投票所に来て投票するだけではありません。選出された権力者に幅広い権限を委譲する準備ができていることです。あるいは国家や国家機関の中で、その職員や決定を委ねられた(しかしその義務を果たすことを厳密に求められる)代表者を注視することです。
 そして、そのような政府は、好きなようにアレンジすることができます。「お好きなように」というわけです。しかし、政治体制の名前はどうでもいい。各国はそれぞれ独自の政治文化、伝統、発展に対する独自の見解を持っています。盲目的に誰かの真似をしようとするのは絶対に無意味で有害です。国家と社会が調和していることがメインです。
 そして、国家や社会の創造的な仕事の最強の基盤となるのは、もちろん信頼です。このすべてが一緒になって初めて、行動の自由と安全保障の最適なバランスを確立することができます。
<市民社会と主権>
 今後のロシアの発展には、市民社会が重要な役割を果たすと信じています。だからこそ、市民の声を決定的なものにし、さまざまな社会的勢力の建設的な提案や要望が実行されるように努めています。
 しかし、そのような依頼はどのようにして形成されるのか?という当然の疑問が浮かびます。実際、国家は誰の声を聞くべきなのか?それが本当に民衆の声なのか、裏で囁かれている声なのか。誰かの声が民衆とは無関係で、時にはヒステリックになっているのか、どうやって見分けることができるのでしょうか。
 私たちは時として、本当の社会の声が狭い社会集団の利害、あるいは率直に言って外部の力によって置き換えられているという事実に直面しなければなりません。
 本当の民主主義や市民社会を輸入することは不可能です。何度も話したことがあります。
 物事をよくしようとしているように見えても、外国の「善意の人」の活動の産物がそれらになることはありません。理論的には可能なのかもしれませんが、率直に言って、そんな状況に出会ったことはありませんし、あまり信じていません。
 私たちは、民主主義のこのような「輸入された」モデルがどのように機能するかを見ています。それはただの抜け殻であり、虚構、内面的な内容を欠いた、主権の類似品でさえない虚構である。このようなスキームが実施されているところの人たちは、本当に何も聞かれていません。そして、それに対応する指導者は家臣以外の何者でもない。家臣にとっては、ご存じのように、ご主人様がすべてを決めるのです。だからもう一度言いますが、公共の利益を決める権利を持っているのは自国の国民だけです。


 この辺はいつもの「プーチン節」という感じですね。
 強力な国家なくして安定した社会なし。リーダーには強い権限を移譲すべし。市民社会は外国に操られやすい…といった具合で、プーチン大統領はこうした「KGB脳」的な世界観を率直に語ることが割と多いように思います。ロシアは確かにわかりにくい国ではあるのですが、こうしてロシアのリーダーたちが言うことを一度きちんと聴いてみると、その世界観を理解することはそんなに難しくないでしょう。

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 一方、ヴァルダイ会議ではプーチン大統領が様々なサプライズを投げてくることもあります。今年最大のサプライズは、「中露関係は今後いかに発展すべきか?」というジャオ・フアシェン復旦大学教授からの質問とこれに続くやりとりでした。
 以下、問題の箇所をみていきます。

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