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思い出の教科書

 皆さんが大好きな一冊、心に残る一冊とは何ですか。私の心に残っている一冊は、高校の時に使っていた政治経済の教科書だ。
  教科書が心の一冊っておかしいのかもしれない。高校の頃の私の政治経済を担当してくれた恩師は、私に一生の武器を授けてくれた。書き込みまくった教科書だ。どれほど書き込みがあるかというと、ランダムに教科書を開くと、必ず書き込みがある。もちろん後ろの索引のページにも、だ。
 もちろん、かきこみというのはマーカーで線を引っ張っているだけではない。一文字一文字細かくメモがとられ、教科書一冊にすべての情報が集約されている。

 当時の私の得意教科は、このことからもわかるようにもちろん政治経済だった。自慢をさせていただくと、あの政治経済の最高峰の難易度を誇っていた(と思う。体感だ。)早稲田の問題も解きこなし、センターではほぼ満点に近い成績をたたき出すほどだった。残念なことに英語と数学の成績が死んでいたことにより国立や早稲田なんかは諦めなくてはいけない感じだったけれど。模試では県内トップや全国でもかなり高い順位をたたき出していたので、政治経済だけなら本当に東大っすね!!みたいな偏差値を出していた。

 と、自慢はこれくらいにしても、私がこれほどまでに政治経済を愛したのは、その恩師が、私に教科書を授けてくれたからだ。恩師はメモ程度の板書しかとらず。とにかくポイントを話し続けるタイプだった。バンバン生徒に質問を投げかけ、答えをミスをすると冗談めかして「ん~」とか「私、帰ります」というような人だった。

 私は彼の授業が大好きだった。初めて彼の授業を受けたときは正直かなりやっかいで嫌いだった。クラスの雰囲気も彼を嫌っていた。しかし、だんだんと彼の性格をクラスは受け入れていった。
 

 私は初めて彼の授業で正解したとき、彼に「よくできました。ニコちゃんマーク」と言われた。それがかなりうれしかったのを覚えている。
 当時優れたことのなかった私は、毎回毎回必死に勉強した。彼の質問に完璧に答えて、また褒めてほしかった。

 彼は板書をとにかくしないタイプなのは先に述べた通りなのだが、とにかくメモをするべきところ、模試でよく出るポイントを教えてくれた。また、定期試験や模試が終わるたび一問一問丁寧に解説し、教科書のどこに載っているのかを教えてくれた。そうして、ノートをとらずに教科書に書き込みまくっているうちに、私の政治経済の教科書は真っ赤っかになった。文字の隙間に埋め込むようにメモを入れ込み、とにかく書き込みまくっていた。

 受験はセンターも私立も政治経済で受けた。受験の日に謎の参考書を広げて焦っている隣の人を見ても、私は焦らなかった。私には「お守り」があったから。どんなに優れた参考書より、どんなにわかりやすいノートより、私が高校で積み上げたすべてが凝縮された一冊の宝物の教科書。

 私は引っ越しをして、どんな本を手放そうが、どんな高かった家具を手放そうが、このすべてが詰め込まれた一冊だけは手放すことができない。

 この一冊のボロボロで真っ赤っかの教科書を開くたび、私はあの熱中した日々を思い出し、「まだまだ頑張れる」そう思うのだ。

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