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CBTをもっとカジュアルに、多くの人に心のケアを届けたい!|『ぱんだ先生』こと太田滋春氏が奮闘する、新たな心理臨床の航海とは

北海道・札幌市にある認知行動療法専門カウンセリングルーム『こころsofa』を運営している太田滋春さん。自らパンダの被りものをかぶって【ぱんだ先生】と名乗り、ゆるく分かりやすく、でもエビデンスのある心のケアや予防教育を提供するYouTubeチャンネルが好評。優しい笑顔やソフトな話し方が印象的だが、一方でフットワークの軽さや抜群の行動力を発揮するという二面性がまた彼の魅力なのかもしれない。そんな太田さんに、心理士を志したきっかけ、CBTとの出会いや日々の活動、今後のビジョンについて伺った。

認知行動療法専門カウンセリングルーム【こころsofa】代表・太田滋春さん


思春期に感じた疑問、そして本屋での運命的な出会い

ー太田先生が心理士を目指すきっかけとなったエピソードを教えてください。
太田滋春さん(以下,太田):『父親みたいになりたくない』という想いが自分のベースにありますね。僕の父親は、基本仕事ばかりで、仕事が終わった後はパチンコなど自分の好きなことをし、休みの日にも自分のことばかりで遊んでもらった記憶がない、家族サービスなんて持ってのほか。そんな人でした。その背中を見てきたからなのか、物心ついた時から興味を持ち始めたのが対人援助職の仕事でした。当時はこれ!といったものはまだなく、何かしらの形で人のケアをしたい、人の役に立ちたい。そんな想いがありましたね。
中学校の時から柔道をしていて、高校は柔道のスポーツ推薦で入学しました。柔道部が熱心な学校で練習に励み、全国大会で3位になったこともあります。そろそろ進路選択が見えてきた頃、スポーツ推薦での大学進学も考えましたが、闘志をむき出しに『闘うモード』に没頭できない自分がいることに気づいたんです。もともと柔道部ではゆるキャラ的な存在でしたし(笑)このまま戦い続ける感じではないよなぁと思っていました。

ー柔道部のゆるキャラ的な存在(笑)確かに太田先生の人柄からは『戦う』というイメージがわかないです。
太田:でしょ(笑)周りにはオリンピックを目指すような同期もいましたが、自分がいる場所はここではないなぁと悟ってしまったんですよね。「じゃあ何になりたいかな」って真剣に考えた時、本屋さんに並んだ職業辞典を何気なく手にとって見ていたら、臨床心理士のページが目に止まりました。【心のスペシャリスト】って書いてあって、医師並みの地位で給料も保証されているというのを知り、「これだ!」って。もう心理系大学を受験するしかないでしょ!と思いました。しかし、これってアメリカのサイコロジストについての記事だったので、日本の現状は違うということには、実際に心理士になってから知ることになるのですが(笑)
いざ大学を受験すると決めたものの、勉強なんてほぼしていない状態だったので大変でした。当時、心理系大学がブームで倍率も高かったので、結局2年間浪人しました。もともとトレーニングをすることは嫌いではなかったので、迷走することなく勉強を頑張れたんだろうなぁと思います。柔道で鍛えた忍耐力が生かされました。

ー心理士になるまでにいろんな苦労があったのですね。苦労の末、念願の心理系大学への合格。そこから認知行動療法(以下,CBT)とどのように出会っていくのでしょうか?
太田:入学した大学がCBTの色が強いところでした。初めてCBTに触れた時、楽しそうだなぁ、わかりやすくていいなぁと思いました。他の心理療法に触れてみた時もありましたが、結局CBTに戻ってくるんですよね。自分の性格的に、シンプルに考える、今起きている行動を改善するために「とりあえずやってみよう!」といったCBTのスタイルが合っているんだろうなと。また、その頃から興味があったのは治療よりも予防の視点で。修士論文も予防の観点から『あがり症対策について』というテーマについて研究しました。柔道部時代の同級生がオリンピック出場を目指していたこともあり、ルーティン法などハイパフォーマンスを引き出すためにどうしたら良いのかなど考えていましたね。

バリバリの体育会系出身とは思えない、ゆるキャラな雰囲気の太田さん

CBTをもっと気軽なものにしたいという想いが強まり・・・自身のオフィスを開業へ

ー大学や大学院でのCBTの学びは、その後どう臨床に生かされて行ったのですか?
太田:卒業してすぐの頃は、精神科単科の病院で心理士として働いていました。入院施設がある病院だったこともあって、わりと重度の方が多くて。だから心理士の僕ができることって、そんなに多くなかったんですよね。その時に思ったのが、「この人たちが中学校や高校にいる時に出会っていたら、こんなこともあんなこともできたんじゃないか」ということ。ちょうどそのあたりから週1でスクールカウンセラー(以下,SC)の仕事を始め、学生時代から学んでいるCBTをやってみたら、子どもたちの中で変化が起きるのがびっくりするくらい早くて!それを見るのがすごく楽しいしやりがいを感じ、「悩みが深刻になる前に早めに関わること、予防教育をしていくのが大事だ!」と強く感じるようになりました。
その後、CBTをもっと世の中に広めていきたいという想いが抑えきれなくなって、思い切って病院勤務をやめ、その半年後に開業しました。たっとひとつ気がかりだったのが家庭のこと。結婚して1年も経っていない頃だったし、奥さんからなんて言われるだろう・・・恐る恐る開業のことを話してみたら、あっさりOKで。「まだ開業しないの?ってずっと思ってた。」と言われる始末。拍子抜けしてしまいました(笑)

ーまさかの快諾!奥様の懐の深さ、すばらしいですね。開業するというスタイルは心理士の中でもまだ多くはないですし、経営や広報など臨床以外にやらなければいけないことが多いと思います。実際のところはどうですか?
太田:開業というと、年配の先生が長年経験を積み、やっと開かれるというイメージですよね。僕も最初は躊躇したりしましたが、多くの人にCBTにアクセスしてもらいたい、予防的支援にもなり得る場としてのカウンセリングルームを作りたいという思いは日に日に強くなっていきました。もともと「思うなら行動しちゃえ!」っていう性分なので、思い立ってからは進んでいくのが早かったですね。
途中、経営面など諸々の問題に直面しましたが、「せっかく意義があることをしてるんだから、早く多くの人たちに体験して欲しい!」という想いでなんとか開業することができました。
今のオフィスで僕がこだわったのは立地。「自分のケアをするって素敵なことだから、堂々とオフィスにきて欲しい!」という想いもあって、駅近のテナントを借りました。もちろん看板も堂々と掲げています!開業して11年目。初年度はキツかったですが、今はなんとか回せています。開業がメインですが、SCの仕事も好きなので今は週1のSCの仕事だけは続けていますね。

好きなものに囲まれたオフィスが癒しの空間になっています


新たな挑戦の中で生まれた、【ぱんだ先生】の存在

ー開業しながらSCも。なかなか大変そうですが・・・
太田:いやー、大変ですよ(笑)でも楽しいんですよね!S Cは今年で14年くらいになり、そこそこの学校数も経験させてもらいました。僕がSCをやめられないのは、S C3〜4年目の頃に赴任した定時制高校での出会いがあったからかもしれません。その学校は不登校や要支援が必要な生徒が多かったんです。支援会議をすれば、ほとんどの生徒に支援が必要という話になり、これはもう全員支援した方がいいんじゃないか。そんな学校だったんです。ちょうどその頃、勤務先の学校で年間9コマの心の授業を実施するという取り組みをしようという構想があり、養護教諭の先生たちから授業の軸としてC B Tの理論やワークをベースに作っていきたいという話が上がっていました。それって僕の得意分野じゃないですか(笑)「僕の専門、CBTですよ!」と養護教諭の先生にお話ししたところ、ぜひ一緒に!と声をかけていただき、プログラム作りが始まりました。
生徒たちからしてみると、普段の授業とはまったく違うので、とても新鮮だったみたいです。その姿を見て、僕もますますやる気が出てきて。カウンセリング以外で子どもたちと繋がれる貴重な機会だし、せっかくやるなら『めっちゃおもしろい!』って言ってもらいたいじゃないですか。だからあるスタイルに挑戦してみようと。

−太田先生の代名詞、ぱんだ先生の誕生ですか?
太田:そう!もともと、ホームページの作成を依頼していたデザイナーから、「CBTって硬い印象がするから、何かキャラクターなどを作った方が、親しみを持ってもらえるのでは?」とアドバイスされていました。確かに、心理士の僕が語るよりも、キャラクターが語ってる方がやわらかい印象になりますよね。何がいいかなぁ?と考えていたときに、ふと浮かんだのが病院勤務の時のこと。ある患者さんが自身のブログで、僕のことをパンダに例えて登場させていたんです。それを思い出して「パンダ、いいじゃん!」ってなりました。その後、授業の資料にパンダのイラスト入れたら、子どもたちの食いつきが全然違いました。せっかくなので、もっとパンダを前面に押し出そうと、僕自身を『ぱんだ先生』と名乗ることを学校側に提案。あっさりO Kしてもらえました。ぱんだ先生を名乗り始めたら、それ以前と同じ内容の授業でも、子どもたちの印象の残りやすさは断然変わりましたね。「スクールカウンセラーの心の授業?どうせ難しいこと言うんだろう」なんて思われがち。心の授業に限らず、CBTの面接の中でもキャラクターを登場させたり、対処の仕方をキャラクターと共に想像して考えてもらうということをするようになりました。

−確かにCBTって難しいイメージがあります。反証とか根拠とか言われると、途端に逃げたくなるというか(笑)
太田:アレルギー反応が出てしまうんだと思うんですよね。なので、キャラを登場させることによって、堅い印象をゆるくし、そして消化しやすいようにしています。例えば反証について考える時に、僕はよくドラゴンボールやワンピースなどマンガのキャラを登場させることが多いです。キャラクターで考えることによって、よりアイデアが浮かんだり、自分の中にしっくり入ったりするんですよね。

太田さんが生み出したぱんだ先生は、子どもだけでなく大人にも大好評!


YouTubeの発信で、全世界の人への心のケアを

−そして太田先生といえば、パンダの着ぐるみを被って心のお話をするYouTubeチャンネルがとても印象的です。始めるにあたってきっかけがあったのでしょうか?
太田:もともと「太田さん、YouTubeやれば?」と複数の方から勧められていました。一人ならまだしも、何人もの人に言われるんだから、これはやるしかないなと思っていましたが、なかなかきっかけが掴めなくて。YouTubeをやる!と本気になったのは、新型コロナウイルスの感染拡大がきっかけなんです。もともとやっていた学校での心の授業に魅力を感じ、「これからもっとおもしろいものにするぞ!」と燃えていたタイミングでのコロナ禍。自分の勤務校をはじめ、全国の様々な学校が休校措置をせざるを得ない状況になりました。でもこれって子どもたちにとってはとても大きな出来事ですよね。先の見えないこの状況に不安を抱えている子どもたちはたくさんいるだろうと思ったら、いてもたってもいられなくて。しかし、様々な制限がある中で、どうやって子どもたちの心のケアができるだろう、そして子どもたちを支える保護者や先生もきっと不安だろうから、何か指針になるものを届けたい。そんな想いから、一人でも多くの子供たちが読みたい!と思ってもらえるものにしたいとカラーやイラストをたくさん使うなど、自分なりに工夫を凝らした資料を作成してみました。その資料を自分の勤務校で配ってもらえないかお願いしたところ、快く了解してもらい学校のHPにもアップしてもらえました。それを見た他の学校からも依頼をもらうようになり、こういうのって全国的にも必要としている人多いのではないかと。そこで思いついたのが、YouTubeを使って発信していくことでした。それなら日本全国、いや全世界の必要な人に必要な情報が届けられると思って。幸い僕にはぱんだ先生と言う心強い相棒がいるし、やるなら今でしょ!と。あと株式会社CBTメンタルサポートの岡村さんが一足先にYouTubeを始められていて、それに嫉妬したというのもきっかけのひとつかも(笑)。

YouTube配信の様子。相棒のぱんだ先生の被り物とともに。

−子どもたちへの想いからYouTubeチャンネルの設立、そして発信。すごい行動力ですね。YouTubeなどSNSを使って公に発信していくことの苦労や、周囲の反応はどうでしたか?
太田:何年か前に、地元のラジオ局で番組を持っていたことがあるので、発信すること自体はそんなに抵抗はなかったです。発信しているとアンチはつきものだと覚悟もしていましたが、今のところないですね。何なら日本臨床心理士会の研修会で、YouTubeの話を発表したことがあります。大丈夫かなぁなんてヒヤヒヤしましたが、意外と反応がよく。特に開業されている先生たちからは、ポジティブなコメントを頂いていました。田中ひなこ先生から絶賛された時は、心の中でガッツポーズをしていました(笑)。発信していくことについては、ネガティブ要素はあまりなく、むしろいいことばっかりですね。動画を見たクライエントさんに喜ばれたり、楽しんでんもらうことで、強化されるのでモチベーションも保てますし、相互に良い作用が起きているなと感じます。ネガティブ要素、強いて言うなら、編集にめっちゃ時間かかること、再生数や登録者数に囚われてしまうこと、ネタ探しとかでしょうか。でも、それも含めて楽しんでるからいいかなって(笑)。

CBTの強みを生かした、新たな野望。太田さんが描くビジョンとは

−大変さもCBTでポジティブ要素に変えてしまう、さすがCBTの専門家です。YouTubeをはじめ、今後太田先生がやっていきたいと思っていることは?
太田:学校でやっていた心の授業って、大規模の集団療法だと思うんですよね。それと同じようなことができたらいいなって思い、最近ではYouTubeのライブ配信機能を使っています。チャット欄にコメントしてもらって、それを強化・補足するのがけっこう楽しいんですよ。僕が一方的に話す動画よりもライブ配信の方が再生回数多いので、最近はそっちばっかりですね。あと、今後の野望として考えているのは、CBTを使ったダイエットプログラムの作成。実はすでに仲間たちと、CBTのノウハウやCBTの理論を生かしたダイエットをグループで行うということをトライしていて、僕自身現在40キロの減量に成功しました。この調子だと年内にトータル50キロの減量に成功できる予定です!いやー、いい広告塔になると思うんですよね僕(笑)。ダイエットプログラムといっても全然ストイックさはなく、集団の強みや自分自身の強みを生かしたもの。僕のモットーであるゆるさを忘れずに。「何をやってもダメだ」と諦めている人に、ダイエットの希望を持ってもらいたいなぁと。

―CBTを使ったダイエットプログラム、需要がありそうです!これからはカウンセリングルームに来る人だけでなく、潜在的なニーズがある人たちに向けて発信していくことも必要かもしれませんね。
太田:そうなんです。僕としては、カウンセリングルームでクライエントさんが来るのを待っている時代はもう終わりかなと思っていて。よくラーメン屋に例えるんですが、こだわりを持って自ら看板を出さずに来た客に提供する。もちろんそういうスタイルも良いと思うけど、みんながそうである必要はないと思うんです。心理士ってどちらかと言うとこういうスタイルの人が多いので、自ら発信している人ってごくわずか。心のケアの情報ってとても大事なのに。一方で、自称カウンセラーを名乗っている人たちは発信がうまいので、残念ながらそういう人たちの根拠のない情報が正しいと思われてしまう。世の中の人に、正しい情報に触れて欲しいんです。それには総力戦が必要で、情報発信を始める心理士がもっと増えたらいいなぁと思います。発信する人が増えれば増えるほど、心の健康の認知度って上がっていくと思います。別に顔出しをする必要はなく、アバターや僕みたいに被り物でも。自分がやりやすい形でやっていって欲しいですね。

これからは心理士も積極的に発信を!と語る太田さん

―これから心理士の働き方について考えている人にとって、背中を押してもらえるような、そんなメッセージをありがとうございます。最後に、太田先生にとって、【CBT】とは?
太田:僕にとってCBTは、「航海士」ですかね。他の表現をするなら、「羅針盤」や「カーナビ」がしっくりくるかな。『自分』というゴーイングぱんだ号に乗って、ありったけの夢をかき集めて探し物を探しに行く。そのために絶対的に必要なのが航海士であり、CBTです(笑)。自分の進みたいと思う目標のためには、目の前のクライエントさんが自身にとって幸せと感じる方へ進んでもらうことが必要。そのために、進むべき道を照らして導いてくれる。僕にとってなくてはならない相棒です。


【太田滋春さん プロフィール】

太田滋春さん

臨床心理士・公認心理師・認定行動療法士札幌にて、認知行動療法を専門としたカウンセリングルーム さっぽろCBT counseling space こころsofaの代表を務める。こころsofaは11年目、スクールカウンセラー歴 14年。自身のYouTubeチャンネル『心理カウンセラーぱんだ先生のこころメンテ』では、こころの専門的アイディアをゆるくカジュアルに発信中。趣味はサウナで、サウナ・スパ健康アドバイザー、サウナ・スパプロフェッショナルの資格も取得。

HP: https://cocoro-sofa.net/
YouTube: https://www.youtube.com/channel/UCACKyRB5jWfg2xhI0-SOV2Q
Twitter: https://twitter.com/cocoro_sofa

ライター:南舞(臨床心理士・公認心理師・ヨガ講師)

 






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