ー6ー 妊娠報告、そして
身体に異変を感じ始めたのは4月の末だった。
いつもはかかないし、まだそんなに暑くもないのに
ひどい寝汗に度々起きるようになっていた。
その話をすると、彼より
「代謝が良いんじゃない?」
それぐらいだった。
5月に入ってから、腹痛や微熱が続き
明らかな異変を感じていた。生理も来ないなぁ、と。
ドラッグストアで買ってきた妊娠検査キット。
握りしめてトイレに入った。
ーーーーーーー陽性だった。
正直、戸惑った。
どうしよう。どうなるんだろう。
後日、産婦人科にて妊娠判明の診断を受けた。
私の誕生日の前日、彼が私の家に来た時に
サプライズで手紙とエコーの写真を渡した。
彼はそれを読み、驚いていたが喜んでいた。
私に向かって「ありがとう!!」とは言わず、
彼の周りの友達に早く言いたいとしか言わなかった。
私は少し違和感を感じた。
誕生日当日は、彼はジョイポリスのチケットを既に予約していて
行かざるを得なかった。
妊婦の人は乗れない乗り物ばかりだったが、
私はその表示に気づいていたが乗ってしまっていた。
軽いつわりを感じながらも何とか頑張ってしまった。
彼は全然その表示にすら気づいてないことに後から気づいた。
その日のディナーは彼が予約していたFRAIDAY`s
食事をしながらも彼は携帯をずっといじっていて、
私はぼうっと夜景を見ていた。
ずっと携帯をいじる彼に、私から話題を振った。
まずは彼の名前の由来。
そして子どもの名前の話。
彼は「しいたが良い」と言っていた。
彼はジブリの「天空の城ラピュタ」が大好きで
そこからきているのだろうと感じ、
私の頭の中では‘‘シータ‘‘としか変換されなかった。
性別もまだ分かっていないのに、浅はかに感じた私は
思わず「それは子どもがかわいそう。」
と言ってしまった。
彼は無言になった。
あぁ、
また、地雷を踏んだ。
私から名前の由来とか聞いたら良かったんだろうけど、
無言になってイライラし始める彼に対して
何も言えなくなってしまった。
その後、ホテルで私は自分の気持ちを吐き出すために
スマホアプリの日記に思いを文字にして打ち込んでいた。
その姿を、彼に見られて気づかれた。
そして「なんか言いたいことあるなら直接言えよ。」
と。
高圧的な態度の前に言える訳がなかった。
私にとっては
あまり良い誕生日の思い出にはならなかった。
精神科に通院した時に妊娠のことを伝えると、
抗うつ剤の処方は中断になった。
お腹の子の為に。
それから、6月にまたぐ時に、
寝汗や気持ち悪さから寝られずに調子が悪く、
早番に行けなくなる日が増えた。
行けた日もあるが、3日くらい休まざるを得なくなり、
‘‘これは仕事に行けない‘‘と感じた私は
産婦人科に行き、診断書を書いてもらい
6月いっぱいお休みを貰えるように‘‘妊娠悪阻‘‘の診断を
書いてもらった。
そして、点滴を受けた。
そこで、点滴をしてくれた看護師が
私の腕の血管を見て
「こんなになるまで頑張ってたんだね」
「辛いよね、また点滴受けにおいでね」
そう言われて涙が出るほど嬉しくなった。
何日か点滴を受けに行った。
夜中もずっと眠れずに、病院の開く時間に電話をして
点滴を受け、食べられそうなリンゴを買って帰り、
何かしら食べられても嘔吐してしまう毎日。
何なら水分だけをとっていても出てしまうこともあった。
とにかく辛かった。
常にベッドの側に袋を置き、そこに顔を突っ込んで動けない
こともあった。
そんな私は自分で身の回りのことも出来なくなっていった。
1人で耐えているこの状況がとても辛かった。
勿論、抗うつ剤の離脱症状もでて、シャンビリ感といって、
金属音のような音でシャンシャンという耳鳴りがし、身体の痺れや
不安・イライラを感じた。
でも、私の場合はそれよりも、妊娠悪阻の方が辛く感じた。
6月の頭、耐え切れなくなった私は彼に助けを求めた。
彼は仕事終わりに電車で来てくれた。
飲み物やカットフルーツを買ってきてくれた。
彼のタバコの匂い、前までは好きだった彼の匂い、
ハグを求められて、匂いに気持ち悪くなっていた私は
一瞬ためらった。
持ち込んだカップラーメンの匂いに更に気持ち悪くなった。
彼は食事をしながら携帯でドラマを見ていた。
私はベッドにずっと横たわっていた。
寝る間際に、ベッドに入ってきた彼に
「俺が来た意味あった?」
って。返事に困った。
翌日、彼のいびきを聞きながら眠れない夜を過ごし、
朝になって出勤していった彼をベッドで見送り、
その後少し眠った。
起きてから、彼にLINEで‘‘来てくれてありがとう‘‘
とメッセージを送った。
そして、看護師さんに「頑張ってるね」と言われて、
嬉しかったこと。そう彼にも言って欲しいことを伝えた。
でも。
「だから辛そうだから、俺も仕事の休みじゃないのに行ったじゃんよ。俺もLINEじゃなくて直接来てくれてありがとうって言われたかったわ。」
「俺が傍にいる時は全力でらくさせてあげたいなって思ってるよ。痛みも吐き気も分からないから、明るくしてるのに、LINEでも一緒にいても素気ないのは辛い。」
そう、返された。
家事、やらないじゃん。
食べ終わったゴミも袋にいれたまま放置だし。
「点滴しているなら、身体に栄養はいっているはず。」
「目を閉じてるだけで、脳は休まるから、寝られないなんて考えない方が良いよ」
そういう言葉たちに私はつわりの辛さを少しでも分かってもらえるように期待を込めて本を買って、渡した。
彼はパラパラっとめくって読んだだけで、
二度とその本を自ら開くことはなかった。
彼が休みの日、昼まで寝て夕方に来てもらった。
マックのポテトなら食べられそうだと思っていたけど、
言った後に戻してしまい、冷麺が食べたくなったことを伝えた。
ーーー却下された。
結局マックのポテトだけ食べた。
彼は食べた後、ゴミを机の上に残したまま
ベッドで眠ってしまった。2時間くらい。
結局、ゴミは私が片づけた。
買ってきてくれたのはありがたかったから、何も言わず。
彼が寝ている間、私は妊娠初期に読む雑誌を読みつつ
トイレと部屋を何度も行き来した。
疲れていて眠っている彼に、家事をやってほしいと
お願いできなかった。
彼が起きた後、キッチン周りが汚いのに苛立ち
不機嫌になりながらも片づけていた。
そんな彼に向かって、素直に‘‘ありがとう‘‘と
言えなかった。
すると、彼は
「‘‘ごめんねって‘‘これやってほしいのって優しく言えばこっちだってやるよ。‘‘ありがとう‘‘もなくてやってもらうのが当たり前なのかよ。」
ーーーーそう、言われた。
どんどん、精神的にも肉体的にも
蝕まれていくような、ジリジリとした感じがした。
そのわずか数日後。
私の態度が冷たい事に関して、
椅子に座って足を組んでいる彼に
矢継ぎ早に言われた。
「冷たくされる理由につわりがくるなら、何でもつわりのせいにすればいいってなるじゃん。みんなあるんでしょ?終わりがいつくるのか分からないって言うくらいなら冷たいのだってその間ずっと続けますって?
これから先子どもが産まれたらそっちに目がいって俺はどんどん邪魔者扱いにされてく未来しか見えない。そんなん絶対無理。だったらまだ取り返しはつくから、子どもには悪いけど、子ども堕ろして別れた方が二人にとって良い。離婚なんて絶対したくないからまだ結婚する前に。」
「もっと褒めてほしい、ありがとうって言ってほしい、わざわざ楽させてあげようとしているのに、それが当たり前だという態度を感じる。こっちだって仕事で疲れている。他にやりたいことだってある。最近胃が痛いのも絶対このことのせいだ。明日にでも産婦人科に行って中絶のことを言ってほしい。お金は振り込む。」
私は呆然と立ち尽くしたまま、聞いていた。
吐き気や頭のクラクラに耐え切れず、座り込み、
私の意見や子どものことはすぐに決められることではないことを伝えた。
彼は、
「言い方にトゲがある。喧嘩をふっかけられるくらいなら無理だ。」
そう言い残し、そのまま一方的に出ていった。
彼の荷物をまとめて、鍵を置いて行って。
ただただ、呆然としていた。
引き止める気力も、私には無かった。
彼がバイクに乗り、発進する音を聞いて
たまらず私は職場の先輩に泣きながら電話をしていた。
経緯の説明を、泣きじゃくりながら。
1時間くらい経った頃だろうか、彼より不在着信と
メッセージが入っているのに気づき、先輩との電話を切った。
彼が戻ってきた。
それでも、一向に子どもの話にならず、
過去の私のことや
「もともと性格が合わなかった。」
「変わってくれるって言ってたけど、結局性格は変わらない。」
そういう話ばかり。
私も思っていることや伝えたいことを話したが、
「チクチク言葉にチクチク言葉でしか返せないのか。
鬼嫁とは結婚したくない。」
そう言われた。もう何も言えなくなった。
彼の欲しがる正解の言葉を探すのにも疲れた。
ーーーまだ付き合う前のLINEの会話。
私の性格については私から彼に伝えていたこと。
‘‘周りからよく冷たいって言われる。‘‘
‘‘ツンツンデレだよ‘‘
‘‘でもね、わざとじゃなくて素なの‘‘
そういう話はしていた。
彼は「素なんだね。そう思えばなら良いや。」
なんて。そんなことを言ってくれていたのになぁ。
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