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残像

家に帰ると、思い出してしまう。

穏やかな声。キーボードを叩く心地良い音。仕事中の顔。猫のように甘える私の頭を優しく撫でる手つき。「おかえり」の言葉。一緒にご飯を作っては食べた日々。何度も身体を重ね合わせたこと。じゃれあって他愛のない話をすること。寝ている私を優しく起こすところ。たくさん笑いあった日々。お互いが気遣い生活を会わせた毎日。眠れない私を、子どもをあやすように”トントン”するところ。心地良い心音。一緒にお風呂に入る日々。思いやり、「ありがとう」の言葉。労るように肩と腰のマッサージをする私。同じことを考えて同時に言っては笑った日々。笑った顔。私の話を急かさずゆっくり聞いてくれるところ。お酒に弱くて頭を擦り寄せてくるところ。


いっぱいいっぱい、楽しかった。ずっとこうしていたかった。

初めて自分から人を好きになった。

家にいるとまだあの日々の残像が見える。でも、もう彼はいない。

あの日々は戻ってはこない。

私はここからいなくなりたい。思い出しては涙が溢れる。

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