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UXってどう勉強すればいい?HCDスペシャリスト受験のすすめ

近年、表層的なUIデザインだけでなく、その前段となる体験設計ができるUXデザイナーとしてのスキルの需要がとても高まっていることを感じています。
プロジェクトにアサインされる時もUX設計から求められることが多く、
とはいえ一朝一夕で高められるスキルでもなく、体系的に身につけていく方法を模索している人も多いのではないでしょうか?
UX設計を担当しているデザイナーには、HCDのスペシャリスト、専門家の資格をとっている方も多く、スキルの一つの目安になっていたので、今回カイエンの資格取得者の青木さんに色々とお話を聞いてみました。


1.資格取得のきっかけ

私が最初に本資格を取得したのは2010年頃になります。
その当時所属していた会社の同部署にHCDの理事(資格取得者)を務める方からのすすめで、ワークショップに参加したことが資格取得のきっかけでした。

当時はWebサイトを持っていること自体が最も重要視される時代であり、また私自身がWebディレクターを務めていたこともあり、Webサイト自体を立ち上げる(世にお披露目する)ことに大きなやりがいを見出していました。
そうやって数多くのWebサイトが生まれてきたのち、新しい観点がWebの世界に出てきました。

「そのWebサイトは本当に人にとって使いやすいの?」
そう、今で言うユーザビリティです。

ユーザビリティが徐々に叫ばれていく日常の中で、社内の有資格者から「HCD-netにてWebディレクター向けの研修を行っているので一度参加してはどうか?」と声をかけてもらい、自分自身の幅を拡げる目的で参加を決意しました。

そこでの研修は「自治体Webサイトにおける住民の引越しはどうあるべきか?」というテーマでの座学&ワークショップを行いました。
参加者自身がそれぞれの視点で自治体サイトにおける課題を見つけ、またどうあることが利用者の引越しタスクにとって最善であるかを発表します。
※参加者は制作会社のディレクターが多く、それ以外では自治体の広報担当の方が多かったように記憶しています。

一概に引越しと言ってもそこに関連する住民行動には転入届、転出届、転居届、学校関連手続き、ごみの出し方、公共料金の申込など必要となる情報が数多く存在し、またそれらの情報をどのように、どうやって届けるのがよいかなど、自分が実際その場に居合わせた際にどうあるべきかを1から考え、一つ一つの行動に相関性や連続性を持たせること、また他の参加者がどういった視点で物事を考えているのかを知ることができる実りある経験になったと感じています。

普段の業務において膨大な情報やコンテンツをどのように配置していくのが最善であるか?といった観点から、実際の利用者を思い浮かべ、どのように情報を提供することが最善であるか?について向き合っていくことが今後大事になると学び、HCD人間中心設計の資格に応募することにしました。

2.そもそもHCD人間中心設計ってどんな資格?

HCD(=Human Centered Design)とはその言葉が表す通り、「対象を使う人(=ユーザー)を中心に」対象を使う人間のことをを中心に考えてデザインしましょう(物ごとを作りましょう)と言う考え方です。
近年のデジタル社会の浸透に伴い、求められる価値も機能的価値→表現的価値→体験的価値の追求へと移り進む中、HCDの思想を必要とする範囲も大きく広がっているように感じています。
HCDの資格の観点で行きますと「専門家」と「スペシャリスト」の2種が用意されています。

専門家が人間中心設計・ユーザビリティ関連従事者としての実務経験が5年以上あることに対し、スペシャリストは2年以上となっています。

プロジェクトにおいてスペシャリストがHCDに係る実務的な対応を担うことに対し、専門家はHCDの観点でマネジメントに推進し、関係者にHCDの思想を啓蒙していく立場にあると私自身は捉えています。

※さらに詳しく知りたい方はHCD公式ページを参照ください。

3.資格を持っているとどんな場面で有利?

HCDの資格があまり知られていない時代もありましたが、いつからか公共系案件の入札資格として「資格保持者をプロジェクトにアサインすること」といった指定が少しずつ増えてきていました。

また民間系のプロジェクトにおいても有資格者がいることで物事の本質を追求することが如何に大切であるかを実際に目にしてきました(ワークショップの先駆けかもしれません)。
ただ民間においてはHCDの思想がなぜ大事であるかを関係者に理解してもらうこと自体に非常に労力を割いていたのも事実です。というのもプロジェクトの大半は「いつまでに公開できていること」が主目的となっていたためです。
「いつまでに公開できている」ことももちろん大事ですが、「作られるものが本当に人の役に立っているか」をプロジェクト関係者と共有していくのも有資格者の役目であると考えます。

4.資格をとるための準備や応募方法

私自身が当時Webディレクターであったため、プロジェクトの川上から川下まで関わってきたという経験は資格取得にあたり、大きな財産であったことは間違いありません。
Webサイト構築にあたり、ヒアリング〜企画〜要件定義〜設計〜デザイン〜開発といった一連の業務に携わる中で特に上流工程において「人間中心」の視点を常に持ち合わせておくことを意識してきました(当時は今ほど体系化されてもいませんでしたが…)。
また要所要所での視点や考えを都度関係者と共有していく中で、新たな視点にアップデートしていくことも多々ありました(この中でさまざまなフレームワークがあることも知りました)。

これから資格取得を目指す方は自身の職域に限定することなく、「何のために作るのか?」「何のためのデザインか?」を常に意識していくことが重要だと考えます。広義であれ狭義であれ、物事には必ず人間中心設計の考えが必要です。そこを意識していくところからスタートしましょう。

応募方法

①応募に必要な実務経験
・人間中心設計スペシャリスト(認定HCDスペシャリスト)の場合
ユーザビリティ、人間中心設計(HCD)、UXデザイン、サービスデザインに関わる実務経験2年以上。専門能力を実証するための実践事例が3つ以上あること。
役職としては、ディレクター、プロダクトマネージャー、UXデザイナーの他に、デザイナー、エンジニアでもプロジェクトの上流から携わって来た人なら応募できる可能性があります。

②応募日程
例年
11月ごろ   受付開始
12月ごろ   受験料納付の期限
翌1月ごろ 審査書類の提出期限
翌3月ごろ   合格発表
※毎年必ずこの日程とは限りませんので、各自お調べください。
追記)今年の受付期間は11月1日(水)~11月21日(火)、16:59までと発表あり
https://www.hcdnet.org/certified/news_certified/hcd-2046.html

③審査書類
HCDスペシャリスト受験者用の審査書類Excelのテンプレートが公式サイトに用意されます。

④応募方法
募集が開始されたら、応募要項のページから申し込んでください。

※応募方法について詳しくは公式サイトを参照ください。

応募のために準備しておけること

HCDスペシャリストは座学のテストではなく、実際のプロジェクトで人間中心設計の考えを取り入れて実行してきた実績を書き出して審査してもらう形になります。
応募開始時から急いで準備して受かる資格ではなく、それまでの経験や実績が必要となります。
とは言え、何もないところから人間中心設計思考で物事を考えてみようと言われても実際何をすればいいか難しいですよね。
例えば、以下のストーリーやプロセスでプロジェクトに向き合ってみてはいかがでしょう。

HCDの観点でのプロジェクトの進行イメージ

1.対象を知る
対象の背景から向きあい、プロジェクトの目的やゴールを踏まえたうえで課題を明確に捉えること。そして顕在化された課題に対してHCDの観点で適切な調査や評価の実施計画を立案する。

2.ユーザーを知る
対象に触れる利用者がどういう人物像で、そしてどういうマインド・モチベーションをもっているかを理解する。

3.実態を知る
Webサイトであればアクセスログなどから確認できる定量データから利用傾向を確認し、また実際の利用者や関係者に対しインタビューなどを通じて客観的な定性データを得る。

4.対象の現状を読み解く
前述の流れを踏まえ、実際のペルソナ、ユースケース、カスタマージャーニーマップ(As-Is)などを整理し、課題の本質を読み解く。

5. あるべき姿を構想する
課題を解決する術や策を踏まえ、理想的なユーザーシナリオを策定し、カスタマージャーニーマップ(To-Be)などをもとにユーザー体験のコンセプトを構想する。

6.ユーザーニーズ〜必要とされる機能や要素を洗い出す
ユーザーニーズをもとに具体的なユーザーシナリオに落とし込み、サービスのアウトライン設計から必要な機能や情報を洗い出す。

7.情報構造を整理する
サービスのアウトラインなどをもとに具体的なサイトマップ(コンテンツ一覧)を整理し、ナビゲーション設計、ワイヤーフレームを作成する。またこの時点においてコンテンツ等の命名規則までを整理しておけると以降の開発時に役に立ちます。

8.デザイン仕様を作成する
デザインコンセプト(アプローチ)を策定し、その方針のもとデザインシステム、UIガイドラインへ落とし込む。※詳細なワイヤーフレームを作成していく中でUIガイドラインのアップデートが求められるケースも多々あります。

9.プロトタイプを作成する
状態変化を伴うUIやアプリケーションなどの利用フローに則った使い方・使われ方を判断する必要があるプロジェクトなどにおいてはプロトタイプを作成し、必要に応じてブラッシュアップを繰り返す(スプリントする)。

10.ユーザーによる評価、専門知識に基づく評価を行う
プロトタイプを実際にユーザーに触ってもらい、検出された課題を都度解消に導く。また専門家によるヒューリスティック評価などを行い、より良いユーザビリティを追求する。

全てのプロジェクトにおいてこれらを実施する期間や予算などはないかもしれません。
ただし、自身の意識一つで対象との向き合い方は大きく変わってきます。
まずは一歩ずつ自身に課題を設け、プロジェクトに取り組んでみてはいかがでしょう。

各フェーズで以下の手法を行っておくと、審査書類のプロジェクトについての説明を書き込む時に有用です。

5.資格をめざすことで得られること

少し語弊があるかもしれませんが、プロジェクトを通じて作られるものは「あなた自身の作品」ではなく、「あなたを含むすべての人が使う・頼りにするツール」であるということを意識していくことが大事ですね。そのためにはより興味を持って対象を知るということこそが出発点ではないでしょうか。
あまり難しいことを考えずとも自分の身近にある商品の開発背景であったり、「これって何で使いやすいんだろう?」「これって何で使いにくいんだろう?」に思いを馳せていくことで新たな発見が生まれると思いますよ。

この記事を書いた人:AOKI YOSUKE
人間中心設計スペリャリスト
趣味は釣りと木工系DIY、最近は畑づくりに手を伸ばしています。

AOKI YOSUKE

各種画像の用意・編集:Nishimori