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#4 手術

※ちょっと手術の生々しい表現が混ざっているので、苦手な方はお気を付けください。

僕にとっては何もかもが初体験。だから何と比較していいのかわからないけど、数少ない知識として持っていると言えばテレビで見る手術シーンくらいのものだ。失敗しない人のやつとか全身麻酔のイメージしかない。
だから、自分の足で歩いて手術室に入っていのもとても新鮮で、まだ好奇心の方が勝っていた。
緊張しますか?と聞かれたけど、それはなかった。
もし、これから起こることを事前に知っていたなら、かなり緊張しただろうと思う。人は、知らないことがいいことがあるのだ。

結局何が起こるかわからなさ過ぎて、へらへらしていたのだと思う。

だいたいの手術の説明を受けると、さっそく手術台の上へ。
僕がその時来ていたのは患者が着る手術着で、吉本新喜劇のすんのかえせんのかえの人が来ているシャツみたいに、するっと裸になれるようになっている。

僕は手際よく裸にされると、まずは麻酔の注射を打つための麻酔をうたれる。半身麻酔というやつで、頭は起きているけど痛みは感じないという状態にされるらしい。
注射は何本打っても好きになれない。

ちくっとしますよ。
はい、ちくっとしました。

そして本番の麻酔。
これがなんとも気持ち悪い。
足の先へとしびれていく。ちょうど長い間正座したような状態が腰から下全体にひろがっていく。動かそうとしても動かなくなっていく。あまり上までするとだめだから、横隔膜から下と言ってたと思うけど、どうやってそんなコントロールするんだろう?

これは、動かそうとして動かないとかっていう感覚は意識すると気持ち悪い奴だと思って、あまり意識しないように努めた。
氷を当てて、温度を感じるかのチェック。
胸のあたりは感じるけど、お腹は感じなくなる。
ちゃんと下半分が麻痺している。

ところで、僕の今回の手術は、右おふぐりさんの摘出です。
正確には、右おふぐりさんおよびそれにつながっている管の一部。
保健体育の教科書に載っていた男性器の断面図のどこかに書かれているものだろう。そこまでを取り除く手術となる。
そのため、タマタマちゃんの部分だけではなく、下腹部の方まで影響する。なので切開する部分はお腹の下の方、ちょうどパンツのラインの少し下あたりになると説明を受けた。

女性の方はよくわからないと思うけど、野球選手があそこにボールが当たってぴょんぴょんしているのを見たことないだろうか?
あれはタマタマちゃんが上がってしまったのを落としているのだけど、お腹につながっているんですよね。
この手術では、おふぐりさんにお腹の側からアプローチするそうです。

てっきりたまたまちゃんをバッサリいかれるものと思っていた。

そうこうしているうちに尿に管を通される。
あ、そうか。
そりゃそうだ。
だだもれになるもんね。

この段階では麻酔もきいていて、何をされているかはわからない。

僕はこの段階では、もう任せるしかない。
感覚もわからないし、あとはこっちは待つばかり。
ついでに脂肪すっといてくださいって冗談を言おうと思って、やっぱりやめてと、まだ気軽に構えていました。


まさにまな板の上

手術が始まる。
目隠しもされて、僕は何をされているかはわからない。
先生方の会話は聞こえる。
もちろん、痛みはない。

「少し押されるような圧迫感ありますよ」
といわれると、結構ぐいぐい来る。
なんとなく、まな板の上で切られる肉を思い出す。
これ、包丁でやってるんじゃね?
というくらいの圧迫感がある。
もちろん、痛みはない。
そしてもちろん、包丁も使っていない。

手術は順調に・・・って、僕には確かめようがないので多分順調に、進んでいく。それにしてもぐいぐい来る。思った以上にぐいぐい。
いやこれは、麻酔のせいで感覚がぼんやりしているからなんだと思う。
どこを触っているかも正確にわからないので、そのあたり全体で感じているんだと思う。

どれくらい時間がたっているのかわからない。
ぐいぐいにも慣れてきて、僕はちょっとぼーっとしていた。
まぁ、なんといってもこっちはまな板に乗ってる状態。
何もできることがないし、考えても仕方ない。
身をゆだねるしかないのだから。

あの照明、なんで僕から見てもまぶしくないんだろう?
とか、もうどうでもいいこと考えていた。

そうしてどれくらいたっただろう?

すこーしお腹が痛くなってきた。

ん?
これはなんだ?

ちょうど、お腹をほっぽり出して寝たら痛くなる、お腹が冷えたときのそんな感じ。今はおそらく(自分から見えないので確認はしていないが)お腹丸出しではあるので、お腹を冷えたイメージから神経がバグったか?
めっちゃ痛いというわけじゃないく、ちょっと痛いくらい。

まー、そんなこともあるのか。
こんだけぐりぐりやられてるんだから。

そうこうしているうちに、その痛みに変化が出だした。
なんというか、少し、具体性を増してきたのだ。
つまりその、刺す痛みに変ってきた。

それが表情に出たのか、すかさず看護師さんが確認してくれる。

「痛いですか?」

それに僕は
「痛いです。」
と答える。

「痛み止め入れます」

むむむ。
痛み止めって、今から間に合うの?


案外どうしようもない

そうです。
そうなんです。
痛くなってきたんです。
切ってるところが、痛くなってきたんです。

いわゆる、手術中に麻酔が切れる状態です。

さて、みなさん。
皆さんならこういう時どうしますか?
どうしよう?
ってなります?

安心してください。
何もできません。
結局手術中に患者に出来ることは、せいぜい状況を伝えるくらいです。

もちろん完全に麻酔が切れたわけでもなく足の方はしびれている。痛み止めも入れてもらっている。徐々に切れてきて、徐々に痛みが増していっている感じです。

もうこうなれば、早く終わることを祈るばかりです。
先生、頑張って、早くして!

「もう少しです」
と先生。

しかし、このもう少しが長いのなんの。
いや、実際には短かったのかもしれません。
時計で計ったわけじゃないですし、体感です。体感は長かった。
延々続くように思えた。

なんかチクチクするな。
チクチクする。
これはもう縫合しているに違いない。
勝手に想像して、今最後の縫合しているに違いない。

しゅごごごごごご。

ちがった。
まだなんか吸い込む音が聞こえた。
なんかもうこの謎の吸引機の音も怖くなってくる。
何吸ってるの?

そういえば、ついでに脂肪すっといてくださいって冗談を言おうと思っていたころが懐かしい。

でも、おわらない。
終わらない!

カイジのパチンコ編(※)くらい終わらない。

いつまで続く?
いつまでも。
というくらい続く。

結果的には、その時間はどれほどだったのかわからない。
10分だったのか、20分だったのか?
もっと長かったのか。
記憶の中じゃもっと長かったと思が、そうでもなかったのかもしれない。

そして、いつまでも終わらないわけはない。
どれくらいかの時間がたって、ようやっと先生から

「終わりました。あとは閉じるだけ。」

まだ閉じてへんのかーい!

と心の中で突っ込んで、ようやく終了。

戦いは終わった。

終わったんだ。


起きてはいけません

手術完了後は、ベットに載せられたまま部屋に帰ってきた。
麻酔が切れるまではおしっこの管もつながったままで、起きることも禁止。朝まで多少の寝返りはいいが、頭を起こしてはいけないと言われた。
おしっこの管の違和感とか、麻酔が切れると色々感じるようになってくる。
足も少しずつ動かせるようになる。
患部の痛みも。

でもね!
手術中の痛みに比べたらみんな屁みたいなもんですよ。
後は休むだけ。

その日はもう寝るしかありませんが、朝まで長い。

手術の疲れはあったものの、そうそう寝れるものじゃありません。
動くととにかくおしっこの管が気持ち悪い。
ちょっともぞもぞしつつ、明日には管を抜いてくれるらしいので、それが待ち遠しかった。

ちょっと大変な思いはしたけど、それでも問題の箇所は無事切除完了。
後は、これで取りきれたかどうか。
当初の見通しでは、残る可能性も十分にあるとのこと。
そこはもう、なるようにしかならない。

でも、そのことをつい考えてしまう。

抗がん剤治療となると、すくなくとも3カ月はかかるらしい。

3カ月も闘病。
ほんとうにできるのか?
仕事は、具体的にどうすればいい?

副作用はどれくらい出るのだろう?
対面での打ち合わせは可能なのだろうか?
気になるのはやはりそこです。
そもそも、アポをとれるのかな?
どれくらい予定通り治療がすすむのだろう?

それにつけても、おしっこの管、きもちわるいなー。

うーん。

あれれ?

これ、抜くときって麻酔、切れてますよね?

入れるときは麻酔してたからよくわからないうちにつけられたけど、抜くときはまさか麻酔しないよね。

えー?
これ、抜いてほしいけど、抜くのって痛いのかな?
いや、少なくとも絶対気持ち悪いでしょ。
ていうか、よく考えたら管って何よ?
どこまで入っているのよ?

そんなことをこっそり思っている僕の様子を、看護師さんが夜中に何度か見に来てくれる。
たまったおしっこを捨ててくれる。
そしてこの日は終わっていった。



※カイジのパチンコ編 ・・・「賭博黙示録カイジ」のアニメ第二期後半のこと。とにかくパチンコのシーンが長かった。全然話が進まなかった。パチンコ球が同じところをぐるぐる回るシーンがつづいた。
いやでも話はすごくおもしろいので、後でまとめ見するとそれほど気にならないんですけどね、リアルタイムで見ているときは長く感じた。

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