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【サバ人】「小浜よっぱらいサバ」の、その先へ 日本のサバ「完全養殖」実用化に挑む!

田烏水産株式会社
代表取締役
横山 拓也さん(56歳)
福井県小浜市



え~突然始まりました、新コーナー【サバ人】です。「さばびと」とお読みください。
サバやしがサバを通じて出会った、サバ食を愛する同士、サバを仕事とする人などなど、魅力あふれるサバニストを紹介し、時に熱く語り合ったりしたい!――と予定しています。お楽しみいただければ幸いです。

田烏水産株式会社 横山拓也さん


一人目にご紹介するのは、横山拓也さん 。
福井県小浜市田烏(たがらす)区にある田烏水産株式会社で、サバの養殖事業を営んでいらっしゃいます。

同地区は小浜市街から車で20分ほど。「巾着(きんちゃく)漁」という漁法の発祥地として古くから漁業が盛んで、中でもサバは全国有数の水揚げを誇っていました。
しかし、サバやしも度々お伝えしているとおり1980年代から、若狭湾の漁獲量が激減し漁業者は打撃を受けます。
そこで2016年、小浜市役所は地元産の鯖の復活、そしてかつての賑わいを取り戻そうと「鯖、復活」プロジェクトを発足しました。そのプロジェクトの会議体としての小浜サバ会議は、研究機関、地元漁業者、企業が集うかたちで進められました。その後、プロジェクトが小浜市の行政事業としては終了した後、2019年に田烏の漁業者が田烏水産を設立し事業を引き継ぎました。

そして、京都の松井酒造株式会社の「神蔵」というお酒の酒粕入りの餌を与えて育てた「小浜よっぱらいサバ」の商品化に成功。“サバを愛するまち”を宣言する小浜市の貴重な特産品となっています。
サバやしも小浜で何度か食する機会がありましたが、とびきり旨いブランドサバです。刺身がおススメ!

…とここで、(ん?この方どっかで見たような…?)
と思ったアナタは流行に敏感な方です!
実は横山さん、昨年末に発表された「2023年ユーキャン新語・流行語大賞」にノミネートされた「地球沸騰化」の代表者として、授賞式に登壇した人物なのです。
地球沸騰化とは「地球温暖化が進行し、平均気温が急激に上昇、地球がまるで沸騰しているかのように熱くなる」現象。地球温暖化が危機的な状況であることに警鐘を鳴らすため国連の事務総長が発言した言葉だそうです。
それがナゼ、横山さんが代表者として受賞したのかというと。
地球温暖化は気温の上昇だけでなく海水温の上昇も引き起こします。田烏水産さんの「小浜よっぱらいサバ」も当初は順調に生育していましたが、近年はいけすの海水温が上がりすぎるなどの影響で、大量死が相次いでいるというのです。
横山さんは、生産者のそうした状況をメディアやSNSなどで発信、「地球沸騰化」への危機感を訴えてきたことが注目されての人選だったのだとか。

2023年ユーキャン新語・流行語大賞 授賞式の写真
2023年ユーキャン新語・流行語大賞 授賞式にて

サバの完全養殖を実用化させるプロジェクトを発足


そんな横山さん・田烏水産さんはこの度、新たなプロジェクトを立ち上げました。
それは、産学連携による「サバの完全養殖」実用化

めっちゃざっくり説明すると、
これから5ヶ年をかけて、サバの完全養殖を実用化し、まず小浜よっぱらいサバで実証試験を行った後、全国のサバ養殖仲間にも成果を横展開していくという壮大なプロジェクトですっ!

実用化というのが大きな大きなポイントです!
文章を読むとへーっと思うかもしれませんが、現状ではサバ養殖における完全養殖は非常に経費がかかってしまうため当然サバの値段に跳ね返ってしまいます。つまり、サバ完全養殖を技術的に成功させたとしても、次はそれを「商業ベースに乗せる=実用化」という非常に高いハードルがあるのです。
この度、横山さんがやろうとしていることは、この非常に高いハードルを超えて、かつ、そのノウハウを全国各地の養殖事業者の皆さんにも共有しようという試みなのです!!

ここ3年程度、大変なサバ不漁です。
サバの完全養殖の実用化が実現すれば、我々サバ好き消費者としては嬉しい限り。本プロジェクトの成功を願って止みません。

ちなみに、魚の完全養殖とは、卵から成魚まで人間が一貫して育てる方法。
これに対し、稚魚を漁獲し、それを大きく育てて出荷する方法は「畜養」と言われ、現状におけるサバ養殖の主流はこちらです。
現在、国内で完全養殖が確立されている魚は、マグロやタイ、サーモンなど。
逆に、完全養殖が期待されているものの困難な代表はウナギですね。近年、稚魚が激減し価格が高騰しているのはご存知のとおり。

読みサバ:養殖サバ」でも紹介しましたが、近年の漁獲量減少もあり、サバの養殖も各地で取り組まれるようになり、さまざまなブランドサバが誕生しています。
しかし、ほとんどは「畜養」で、今のところ商品化にこぎつけたのは佐賀県の「唐津Qサバ」だけなんです。それほど完全養殖は難しいんですね。前述のように、技術のほか多大なお金もかかるため、商業ベースに乗せるのが困難、という現実があります。

本プロジェクトについて、関係者をはじめ、多くのサバ好きの皆さんにも知ってもらおうと、田烏水産さんでは、現在クラウドファンディングを募っています。(2024年5月31日まで)

もちろんサバやしも趣旨に賛同し些少ながら協力させてもらっています。
今回は改めてこのプロジェクトへの理解を深め、できれば皆さんにも知っていただきたいと思い、
小浜の横山さんとオンラインで語り合ってみました!

微生物の研究が生かされた
「小浜よっぱらいサバ」開発


オンラインで話す横山拓也さんとサバやしの画像
オンラインにて、横山拓也氏(右)とサバやし(左)


サバ:こんにちは! 今日はお忙しいところありがとうございます!
横山さんと初めてお会いしたのは、「鯖サミット2019 in 八戸」の会場でしたね。鯖サミットとして初めて“養殖サバ食べ比べ”と題して、会場の寿司店で養殖サバの寿司を提供した機会に、「小浜よっぱらいサバ」にもご参加いただき、横山さんは会場まで駆けつけてくださいました。その2週間後に、水研さん(国立研究開発法人 水産研究・教育機構)が養殖サバ関係者に声掛けしたフォーラムにぼくも参加させていただくなど、以降交流させていただいています。それまでも電話では何度かお話ししたことがありましたね。

横:こちらこそ、よろしくお願いします。
サバやしさんの存在はかなり前から注目していて、一度お会いしてみたかったので、あの時はうれしかったですよ。
「サバが好き」というモチベーションだけで、ここまで動けるとは!
「鯖サミット」も、サバを主役にこれだけ多くの人が集まって、楽しそうにしているなんて!
と、すごく刺激を受けていましたので。

サバ:ありがとうございます(照)。
横山さんは、京都の松井酒造さんの「神蔵」というお酒の酒粕を餌に混ぜて育てた「小浜よっぱらいサバ」を商品化した立役者のお一人ですが、実は、小浜出身ではなく、さらに家業が水産業でもなかったとお聞きしています。

横:はい。兵庫県出身で、大学院で生物工学を研究し、バイオテクノロジー関係のベンチャー企業経営にも関わっていました。
微生物とか酵母とかを研究していた関係で、小浜で2016年に立ち上がった「鯖 復活プロジェクト」で「サバに酒粕を与えて養殖したいからアドバイスしてほしい」という依頼があり、初めて田烏を訪れました。

小浜よっぱらいサバの写真
小浜よっぱらいサバ
小浜よっぱらいサバの水揚げの写真
小浜よっぱらいサバの水揚げ


サバ:そうなんですね! そして2019年、「鯖サミット2016 in 若狭おばま」開催直後に小浜へ移住されたんですね。

横:はい、それ以前の2016年から関わってはいましたが、移住して本格的に養殖の現場作業に従事するようになり、縁あって代表取締役にもなりました。
ご存知のとおり、日本近海では今も記録的なサバの不漁が続いています。このことから、養殖サバの立ち位置が変わってきたと思うんです。以前よりも養殖サバへの理解が進み、消費者のニーズは増えているし、各業者が餌などを工夫したりして付加価値をつけブランド化に取り組んできたことで、可能性は年々高まっていると感じていました。
ただ、そこへ来て2023年は猛暑や海水温上昇などの影響で弊社のいけすでも大量死が相次ぎ、今大変な危機にあると思っています。

水産業全体の危機に
オール・ジャパンで立ち向かう


サバ:今回のプロジェクトにクラウドファンディングという形をとられた理由、その趣旨をお聞きしてもいいですか?

横:そうですね…当初は「小浜よっぱらいサバ」のピンチにフォーカスして、ご協力をサバ好きの方々に募る、そんなクラファンの仕方も考えはしました。
けれども、この危機は弊社だけでなく、他の養殖事業者もみんな苦労しています。
だから、「水産業全体の危機にみんなで立ち向かおう!」と、“オールジャパン”で取り組まなければならないものだと思ったんです。
また、「完全養殖」という技術だけでなく「実用化」、つまり商業ベースで安定して出荷でき利益が出せるようにするまで腰をすえて取り組むことも必要と考え、5か年計画を予定しています。
こうした状況や水産業者の思いを、サバが好き、魚が好きという方に限らずいろんな方々に広く知っていただき、日本の水産業の未来、魚食文化の未来のために一緒に考えて、変えていくきっかけにもなればという思いから、このような形をとることにしました。

サバ:このプロジェクトは産学官連携ということで、最先端の研究を基に取り組んでいるんですね。

横:はい、福井県立大学海洋生物資源学部をはじめ、県外の研究機関からもご協力いただいています。
プロジェクトの進捗状況はweb上で公開し、日本の地方(ローカル)で頑張っている養殖業者・水産業者と情報や知識を共有して、本当に“オールジャパン”でこの危機を乗り越え、未来へ繋げていきたいと考えています。

サバの精子を絞っているところの写真
サバの精子を絞っているところ
サバの卵(未授精時)の写真
サバの卵(未授精時)
サバに新鮮な水を飲ませて(酸素を供給して)元気を取り戻してもらっている写真
精子を絞られ疲れたサバに新鮮な水を飲ませて(酸素を供給して)元気を取り戻してもらっているところ。水を与えているときは、おとなしくてかわいいそうです。


サバ:ぼくも、CAMPFIRE(クラファン)で公開されている活動報告で、採卵の様子や稚魚の画像などを拝見しています。今後もリアルタイムでサバの成長を見られるのはすごく楽しみです!
ところで、横山さんの田烏水産がある福井県小浜市は、2016年に第3回目の「鯖サミット」を開催した、ぼくにとっても思い出深く大好きな土地です(詳しくは「サバ旅@小浜」を)。そして、今年は10月26・27日に同じ福井県の美浜町で「鯖サミット2024 in 美浜」を開催します。
さらに、都内の飲食店で不定期に開催しているイベント「鯖ナイト」でも、全国からブランド養殖サバの参加を募って食べ比べしてみようっ!!という企画(養殖鯖ナイト)を準備中だったりで、横山さんと連携させていただく機会もますます増えてくるのでは、と今からワクワクしています。

横:私も、地方を拠点とする身にとっては、サバやしさんには都内の飲食店さんなどとのコーディネートなどにも尽力いただき、非常にありがたいです。また、クラファンのリターンとして「養殖鯖ナイト」の参加チケットを協賛いただいたりもしています。私自身も各地の養殖サバに携わる方々やサバ好きの皆さんと直接交流できることを楽しみにしています。
今後とも、よろしくお願いします!

サバ:クラウドファンディングは5月末日までの予定ですね。皆サバ、詳細はぜひ下記サイトでご覧ください。


魚食文化を次世代へつなぐために


サバ:最後に、横山さんがこのプロジェクトにかける思いを、改めて聞かせていただけますか。

横:20年後には日本の食卓の風景が一変しているのでは…と危惧しています。
環境や生物に負荷をかけない培養肉の研究や、アジアの食文化でもある昆虫食の普及も世界中で進められており、それらが飢餓に苦しむ人々を救うことが期待されています。
それとともに、祖先が守り続けてきた食文化を、私たちの世代で滅ぼさず、未来に継承していくこともまた、私たちに課せられた使命だと思います。
人類、そして日本人が食べ続けてきたおいしい魚を、私たちの子や孫の世代にも食べさせてあげたいと願わずにはいられません。
今回、私たちが挑む「サバの完全養殖実用化」を一つのきっかけとして、多くの皆さんと一緒に考えていければうれしいです。よろしくお願いいたします!

関連情報


「小浜よっぱらいサバ」は、現在小浜市内の飲食店・宿泊施設・小売店に流通しています。
田烏水産さんのwebサイトに食べられる・買える店のリストがあります。

田烏水産株式会社(食べれるお店ページ)
http://www.tagarasu.com/tagarasu4.html
※近年猛暑の影響などで出荷量が限られることもあるため、お店に要事前確認です。

鯖サミット会場のある美浜町から小浜市までは車で30分足らず(約26km)、JR小浜線利用だと約50分(10駅)です。ぜひ、合わせてお楽しみを!


小浜よっぱらいサバのお造りの写真
小浜よっぱらいサバのお造り


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