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テレビ番組のブランディング・昭和篇 ③ 〜 3分で読めるブランドノチカラ (82)

○ フジテレビの「北の国から」の粗筋おさらい
○ 音声とビジュアルの二つで仕込まれたブランドソーマは何か?
○ 純と蛍の兄妹の放つ犬的効果
○ 父親 黒板五郎の持つ心理的効果

テレビ番組のブランディング解剖の3回目は「北の国から」です。

北の国からは、フジテレビ系列で1981年10月から1982年の3月までの2クール、半年間放送された、倉本聰 原作・脚本のドラマです。

ご存知の方には不要でしょうが、知らない方のために手短に物語をおさらいしときますね。

家業の農業が嫌で故郷北海道富良野の過疎地を飛び出して、上京した黒板五郎(田中邦衛)。ダメ男で職業を転々とし、二児(吉岡秀明、中嶋朋子)を持つにいたるも、妻(いしだあゆみ)に愛想を尽かされて不倫されてしまいます。
不倫現場を見てしまった五郎は東京での生活に見切りをつけ、二人の幼い子供を連れて故郷に戻り、自給自足の生活を始めます。富良野の過酷な冬を、地元の仲間たちの手助けを得て、父と兄妹の三人で青息吐息何とかしのいでいく…というストーリーです。

本放送が終わった翌年1983年から2001年にかけて「北の国から」はスペシャル番組8本が放送されています。

幼い兄妹の純と蛍の成長、父親五郎が立ち直る様子が、スペシャルドラマで時系列的に描かれていきます。

さて、この番組は音声とビジュアルの二つのブランドソーマ※をおさえていると思います。

その二つとも番組の冒頭のタイトルバックシーンで出現します。

ひとつは言わずと知れたあのテーマソング。

あ、あ~、あああああ~あ
ん、ん~、んんんんん~ん

と、さだまさしが歌う。

「あ」と「ん」以外に歌詞のないソング。

そして北海道の雄大な大自然のシーン。

この二つのブランドソーマが導く先の脳内無意識下の心理的欲求、つまりブランド価値であるemotional benefitは何なのか。考えてみました。

アメリカの心理学者マレー※は人間の一番強い欲求を、生理的欲求リスト(臓器発生的欲求)として分類して、4つをあげています。この4つは「欠乏から求める四つの接収欲求」と言われています。

呼気欲求 (酸素を求めたい)、飲水欲求 (水を求めたい)、食物欲求 (食べ物を求めたい)、感性欲求 (身体的な感覚を求め、楽しみたい)の四つです。

これは人間の根源的な欲求ですが、「北の国から」で脳が刺激されるのは、このうちの呼気欲求と感性欲求の希釈されたものではないかと推論します。

人口の密集する、視聴者の絶対数が圧倒的に多い都心部は、当然ですが空気は汚れていますし、自然と接して身体感覚を鋭敏にすることはかないません。

北の国からで描かれる、北海道の自然の中で暮らす純と蛍の兄妹の目と身体を通して、視聴者は綺麗な空気を呼吸し、森の中やキタキツネが来るのを息を潜めて待つ感覚、楽しみを追体験しています。

これ、まさに呼気欲求と感性欲求の二つの強い根源的欲求を希釈したかたちで満たしてくれていますよね。

そして、この番組がヒットした裏には、もうひとつ大きなソーマがあると思います。

それは純と蛍の兄妹です。

一言でいうと、

北の国からの純と蛍は犬である。

あんた、頭おかしいんじゃないの?…なんて言わないでください。これから説明します。


再度、お馴染みのマレーの法則に照らし合わせてみます。

都会っ子の純と蛍が苦労して過酷な自然の中での生活に馴染んでいく、これをみて視聴者はマレーの言う「養育欲求」を刺激されています。


同様に犬は人間の養育欲求を満たしてくれる存在。

犬と見つめ合うと、人間の脳内ではオキシトシンという脳内物質が分泌されることが知られています。

オキシトシンは幸福感が醸成されるホルモンで、愛情ホルモン、幸せホルモンとも呼ばれます。

東京を離れて北海道の田舎で暮らす、小さい純と蛍の艱難辛苦を見るのは、視聴者を子犬を見守る飼い主のような気持ちにさせてくれ、脳内ではオキシトシンが大量に分泌されているんだと思います。

ところで「北の国から」は、生まれ故郷の北海道に戻って、全てを自分の手で切り拓こうと苦労を重ねる父親の黒板五郎の物語でもありますが、これが刺激している欲求は何でしょうか?

これは、マレーが「支配・権力に関する心理欲求」と名付けて分類した7つの欲求のひとつ、「自立欲求」を刺激していると思います。

自立欲求は、他人の影響や支配に抵抗したい、独立したい、という欲求です。

黒板五郎は東京生活で、北海道の田舎者とバカにする上司たちに疎まれ散々な目にあいます。故郷に戻ったのは、妻の不倫もありますが、鬱屈した自分の自立解放が大きな動機だと確信します。

自らの手で水を引き、薪で暖房をまかない、発電までしてしまう…そんな自給自足生活に五郎が徹底して拘ったのは、失敗した東京生活へのリベンジの思いがこもった、強い「自立欲求」があったからだと思います。

純と蛍の放つオキシトシン大分泌の「犬効果」、そして五郎の誘う「自立」への憧憬…
「北の国から」最強です。


最後に。

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※ブランドソーマ  
グローバル調査会社のミルウォードブラウン南アフリカの会長エリック・デ・プレシスの作った考え方の造語。

ひとの意識下に隠れている「直感」は、多くの経験を踏まえた上での合理的な脳の反応であり、ひとの行動を特定の方向に誘導する、とする著名な神経学者アントニオ・ダマシオの説を敷衍して、ブランドに紐づけられる「直感」がある、それをブランドソーマと呼びたい、とプレシスがとなえたもの。

ソーマ、somaは英語で肉体を意味し、mentalの対義語。直感は根拠のない心理的、精神的なものではなく、脳に記憶された合理的な反射、つまり物理的、肉体的なものであるとする説。 

※マレー 
アメリカの心理学者マレーは、ひとの本能から生まれる消費者の動機を研究して、39種類もの欲求リストを作成しました。



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