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テレビ番組のブランディング・昭和篇〜3分で読めるブランドのチカラ (80)

◯ 長く続いたTVCMシリーズはブランディング上手
◯ 長寿TV番組も同様
◯ 昭和の名ブランディング番組「水戸黄門」
◯ 「水戸黄門」に埋め込まれたブランド・ソーマ
◯ 制作会社のC.A.L.は電通の系列会社、その含意


以前の投稿でシリーズが長く続いたTVCMは、共通してしっかりとブランディングされていた、と書きました。

例としてあげた昭和のTVCM代表例は、ネスカフェ・ゴールドブレンド 、エメロンシャンプー、ブラウン・シェイバーで、それらは其々に固有のブランドソーマ※がありました。(其の20、26、27)

ネスカフェ・ゴールドブレンド はダバダー♪のスキャットジングル。

エメロン・シャンプーは、インタビュアーが街を歩きゆく髪の綺麗な素人女性の後ろ姿を追って、最後に振り向かせるという「見返り美人」方式のエンディングシーン。

そしてブラウン・シェーバーはインタビュアーが通勤を急ぐサラリーマンの足を止めてシェーバーで剃ってもらい、白いプレートの上にシェーバーヘッドを「トントン」と軽く打ちつけて、剃り残しを見せるシーン。

それぞれサウンドとビジュアルのブランドソーマが機能した名TVCMです。


ブランディングは商行為ですから、売る相手、クライアントがあってこそのブランディングです。

主戦場である広告はその最たるものです。売る相手は視聴者という消費者です。

消費者が、商品・サービスを提供するメーカーにとってのクライアントです。

で、先述した「長寿のTVCMにブランディングあり、ブランドソーマあり」セオリーは、長寿テレビ番組にも言えると思うんです。

テレビ局にとっての「直接的なクライアント」(お金を払ってくれると言う意味です)は広告枠を買ってくれるメーカー(スポンサー)ですが、広告主であるメーカーはCMが流されるテレビ番組の視聴率でCM枠買付の成否を判断します。

視聴率が全てと言われる所以です。

そして視聴率は視聴者が観てくれるか否かですから、テレビ局にとって視聴者は間接的なクライアントです。

番組は提供スポンサーという1次クライアント、視聴者という2次クライアント、双方に向けてブランディングされているんですね。

前置きが長くなりました。

以前は昭和の名ブランディングTVCMシリーズをやりましたが、今度は昭和の名ブランディング・テレビ番組シリーズを取り上げたいと思います。

第一回は水戸黄門です。

水戸黄門。昭和世代には言わずと知れたTBSの長寿番組です。

水戸黄門はTBSテレビが1969年から1983年までの足掛け14年間放送した、名優東野英治郎が主役で水戸光圀を演じたロングランのテレビドラマです。

第1部から第13部まで製作されました。

黄門様をサポートする二人のお供、助さんと格さんの演者は初代の杉良太郎と横内正から始まり、里見浩太朗、あおい輝彦、伊吹吾郎と変遷していきますが、水戸のご老公は東野英治郎が通して演じていました。

その後同番組は2011年末までの足掛け40年を超える長きに渡り放送されて、水戸黄門は初代東野英治郎、2代目西村晃、3代目佐野浅夫、4代目石坂浩二、5代目里見浩太朗とバトンタッチされていきました。

全1227回の放送の平均視聴率は22.2%、最高視聴率は43.7%というお化け番組です。

まさにTBSのキラーコンテンツでした。

水戸黄門が放映された月曜日の午後8時からの松下電器産業一社提供枠、TBS「ナショナル劇場」。

時代劇を放映するこのゴールデンタイム枠で水戸黄門と双璧をなすキラーコンテンツが加藤剛が演ずる大岡越前で、水戸黄門と交互で放映されていました。(実際には「江戸を斬る」という時代劇を挟んでのローテーションでしたが)

これらのお化け番組を制作したのはまさにこの番組枠のために作られたといっても過言ではないC.A.L.という会社です。

この番組枠を買い切っていた電通が、系列会社として設立した時代劇制作会社のC.A.L.を起用して作っていたわけです。ちなみに同社の歴代社長は電通のOBです。

第一期の足掛け14年間の放送期間、小学生から大学生までの青春期間を過ごした私が覚えているのは、実はこの東野英治郎バージョンだけなんです。

しかも、覚えているのは番組のクライマックスだけ。

助さん、格さんの二人に懲らしめられるも、往生際の悪い悪代官があがいているところに、颯爽と現れる水戸光圀、そうです、水戸の黄門さまが引導を渡す。このシーンだけが記憶に残っている。

横に控える助さん、格さんのうちの格さんが葵の御紋入りの印籠を前に突き出して言う決め台詞。

「ここにおわす方をどなたと心得る。先の副将軍水戸光圀公にあらされるぞ。頭が高い。控えおろう!」…そして、ついに観念する悪代官。


まぁ、観念する悪者は悪代官だけじゃ無くて色々な輩がいたはずですが、私が覚えているのは象徴的な悪代官だけなんですね。

この勧善懲悪を端的に表現する「葵の御紋の印籠」が視聴者の脳にインプリントされたこの番組のブランドソーマだと確信します。

「ブランドソーマとか言ってるけど、要は決め台詞のことじゃないの」と思いました?

それ、正解です。

ひとつの決め台詞が誘っていく「勧善懲悪」の世界、それに視聴者が無意識下に好感も持つ。

これって立派にブランディングしてます。

「水戸黄門」という番組がブランドだとして、その昇華価値、つまりエモーショナル・ベネフィットはなんでしょうか?

アメリカの心理学者マレーは、本能から来る消費者の動機を研究して、39種類もの欲求リストを作成しましたが、水戸黄門の持つエモーショナル・ベネフィット、つまりブランド価値は、彼が整理した人間の心理発生的欲求の「愛情に関する欲求」のうちのひとつ、養護欲求に当たる、と私は思います。

養護欲求は、困っている人を助けたい、保護したいという人間の持つ基礎的欲求です。

まさに水戸黄門。

皆さん、如何思われますか?

広告で言うブランディングの視点で見ると、色々と面白い見方が出来ますよね。


広告の世界でのブランディング手法が見事に活かされて成功したと言っても過言ではない長寿番組「水戸黄門」が、電通系列の会社が制作していたのは実に含意的です。


最後に。

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※ブランドソーマ  
グローバル調査会社のミルウォード・ブラウン南アフリカの会長、エリック・デュ・プレシスの作った考えと造語。ひとの意識下に隠れている「直感」は多くの経験を踏まえたうえの合理的な脳の反応であり、ひとの行動を特定の方向に誘引する、とする著名な神経学者のアントニオ・ダマシオの説を敷衍して、ブランドに紐づけられる「直感」がある、それをブランド・ソーマと呼びたい、とプレシスがとなえた。ソーマ、Somaは英語で肉体という意味でmentalの対義語。直感は心理的、精神的なものではなく、脳に記憶された合理的な反射、つまり物理的、肉体的なものであるとする説。



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