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【シン・卯月絢華のシネマ馬鹿】Vol.22 正欲

見に行った場所 OSシネマズミント神戸
フォーマット 2D
個人的評価 ☆4.2(Filmarksでの個人的評価)


イントロダクション

『ゴジラ-1.0』に次ぐ日本アカデミー3本ノック第2弾。(第3弾は『首』の予定)

朝井リョウのベストセラー小説を実写化。稲垣吾郎と新垣結衣のWキャストで紡がれる「多様性の光と闇」を題材にしたヒューマンドラマとなっている。ミニシアター系ながらOSシネマズミント神戸での上映が決まっている辺り気合の入り方が半端なく違う。(正直シネリーブル行きを覚悟していたので)
賞レースを席巻した超問題作『あゝ荒野』のスタッフが関わっているだけあって封切り前から「今年度の日本アカデミーは確実」と言われているが……果たして?(これでもレーティングはG指定なので映倫のガバガバっぷりには笑うしか無いが)
主題歌は勢いが止まらないVaundy。彼の魂がこもった楽曲にも注目したいところ。

あらすじ

神奈川県警で検事を務める寺井啓喜という男性は、夫婦生活に悩んでいた。彼を悩ませるのは妻だけではない。彼には不登校の息子がおり、突然「YouTuberになりたい」と言い出したのだ。
当然、彼は父親として息子の夢に反対するのだが、彼の心配をよそにチャンネル登録者数はうなぎ登りに上がっていた。

広島県の地方都市。
桐生夏月という女性は苦悩していた。同世代の結婚、未経験の自分、「普通じゃない」自分……。
「普通じゃない」自分の秘密を共有していた同級生は中学生の頃に横浜へと転校してしまい、彼女は孤独な日々を過ごしていた。
そんな中、その同級生がひょんなことから地元へと戻ってくる。転校生の名前は佐々木佳道といい、自殺しようとした夏月と出会ったところから共同生活を始める。

千葉県の大学に、神戸八重子という男性嫌いの女子大生がいた。彼女は学園祭で見たダンスパフォーマンスに感銘を受けるのだが、よりによってそのパフォーマーは男性。普段、男性を見ると過呼吸を起こしてしまう彼女にとって、その男性は特別に見えたのだ。しかし、男性にもある秘密があった。

崩壊していく寺井家。共有されていく秘密。「普通じゃない普通」の中で、少しずつ彼らの「普通」が壊れようとしていた……。

個人的な感想

日本アカデミー賞不可避。

前評判で「吾郎ちゃんとガッキーの演技がすごい」と聞いていたが、本当に迫真の演技でクライマックスでは思わず吾郎ちゃんに感情移入してしまった。「ポリコレ」と言われて久しい昨今だが、「多様性の押し付け」が啓喜のような「鬼」を生み出してしまうのだろうと思ったぐらい。
一方、冒頭のガッキーのXXXシーンで気まずい思いをしてしまうかも知れない。彼女は「ある音」を聞くと性的な衝動に駆られてしまうのだが、劇中では「ある音」がキーアイテムとなる。その「ある音」が伏線になっているのだからすごい。
『何者』でもそうだったが、朝井リョウはこういう「歪んだ群像劇」の描き方が上手い。普段純文学を読まない自分が思わずブックオフで原作を買うぐらいだから傑作以上の「何か」であることは間違いない。

ネタバレ注意

※ここから先はネタバレを含みます
「秘密」を共有した佳道と「フジワラサトル」の正体である谷田部は、八重子の彼氏と共に公園で噴水の動画を撮影する。しかし、谷田部は水フェチだけではなく小児性愛者だった。児童ポルノ禁止法で逮捕された谷田部は、取り調べの際に啓喜からある動画を提示される。その動画には、啓喜の息子が性的虐待を受けている様子が撮影されていた。
佳道を「逮捕」というカタチで失ってしまった夏月は、啓喜と面会することになる。飽くまでも佳道は「水フェチ」であって、小児性愛者ではないのだが、怒りに震える啓喜に対してある伝言を頼む。当然、啓喜は夏月の伝言を拒絶しようとしたのだが、帰り際にある質問をした。

「ちなみに、何を伝えようとしたのでしょうか?」
「――普通のことです。『いなくならないから』と」

ところで、このタイミングで稲垣吾郎に「小児性愛者を取り締まる役」をやらせたビターズ・エンドは確信犯なのかそれとも「鬼」なのか。クライマックスのあるセリフに対する説得力が1.5倍増しになってしまった。(クランクイン自体は例の騒動の前なのに同日封切りが永瀬廉主演の『法廷遊戯』であることからからも狙ってやったたとしか……)

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