山田菊『八景』序文「事のいきさつ」

(凡例はマガジンのページをご覧ください)

「おばさん、一緒に来てください。鳥を買いたいのです」日本の学生が大家に言った。

川辺の並木の下、ふたりは小鳥屋の前で、図書館の本棚にいるかのごとく熱心に眺めていた。

ここでは色が表題だ。柵の向こうで飛び回っている。叫び、歌い、羽ばたく。積まれた鳥籠は人間の家に似て、2階から7階まである。地面には亀が群れ、動く敷石のようだ。

「ほら、日本のサヨナキドリよ!」フランス人の女店主が言う。

すると若者は懐かしさに襲われ、顔を上げた。

「さあ鳴いて、同じ国のひとよ!」

けれども、つぶらな目をした緑色の鳥は鳴こうとせず、日本人は去りかねていた。

そうして店先で、祖国の森の神秘を集めた研究室を前に、1時間ばかり、セーヌ川と道ゆくひとたちの流れをよそに、フランスのおばさんとその甥っ子は、日本の歌を待ち続けた!

ホー・ホ・ケ・キョ!

(訳:加藤一輝/近藤 梓)

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