天からの贈り物

※この話はフィクションです。書いてある内容について真に受けない方がいいかもです。ただ「こんな人生を送ってる奴もこの世のどこかにいるんだなー」ぐらいに思ってくれたら嬉しいです。いつかどこかに存在した可哀想な人の話です。

小学校に上がったばかりの僕は全く目立たない存在で、友達も少なかった。身体が小さく運動もできなかった。勉強は苦手ではなかったが、かといって優等生というほどでもなく、本当に空気だった。

学年が上がるにつれて、勉強や運動が段々得意になり、少しずつ社交的にもなっていくのだが、それでもクラスの人間全員をイケてる方から順番に並べたら、半分よりはまだ後ろだったんじゃないだろうか。

そんで、「冴えないけど仲良くなると意外と面白い奴」的ポジションに収まりつつあった高学年のある時期に、僕がSさんという女子のことを好きだという噂が立った。

Sさんは大人びた美人で、勉強が得意で友達も多い。かつ僕と少し仲が良かった。というか、パッとしない奴(僕)を邪険にしないのはSさんみたいな一部の優しい子ぐらいだったというだけの話だ。

「○○くんが××ちゃんのこと好きらしい」ってのは小学校に流れる噂の大定番だが、〇〇と××に僕とSさんの名前が入るってことには、何かしらのバカにするニュアンスが含まれていた。実際、この話の面白ポイントは「釣り合わないのに頑張って好かれようとしてやんのコイツ」みたいなことだった。

相手が女子だからかあまり露骨ではないが、Sさんの方もそのネタでたまに弄られてた。不本意だっただろう。ただそれでも「あんなキモい奴と一緒にしないで」とは言わずに苦笑いでお茶を濁し続けたのは本当に立派だったと思う。

噂の真相はというと、別に僕がSさんのことを特別好きなわけではなかった。いや、正しくは特別だった。彼女が僕を突き離したらいよいよ僕の立場が本格的に悪くなるのに、そうはしなかったのだから。だから彼女に迷惑をかけるのは非常にまずかった。

まあ、だからといって他に本命の好きな子が居たわけでもない。そもそもそんな扱いを受けたら人を好きになろうとかいう意欲すら無くなる。僕の中で好意というのはいつの間にか、恥ずかしい、隠した方がいい、持たない方がいい感情ということになってしまっていた。

今から考えるとこれは子供心には結構ヘビーな事態だ。好意を茶化されて恥じるという経験は多くの人にあるだろうが、このケースは流石に度が過ぎていた。後遺症はガッツリ尾を引くことになる。

中学に上がると、勉強の出来る他の友達は皆別のところに進学したので、僕が一番優秀ということになった。もう身体も大きく運動も結構得意で、周囲に見劣りするような要素は"ほぼ"無かった。親友らしきものもできた。校内では目立つ方の存在だった。何もかも満ち足りていたハズの僕にとって時折チクッとする話題といえば…やっぱり容姿のことだったんじゃないかな。

小学校高学年ぐらいから「容姿の良し悪し」がふんわりと価値を持ち始める。それで僕が妙に弄られ易いのは何故だろうとずっと疑問に思っていたのが、中学に上がった頃にやっと納得がいった。ああ、これのせいか、と。

他の、もっと弱い立場の生徒がブサイクだと弄られるたびに心が痛んだ。ただ、やめてやれ、と言う勇気までは出なかった。とは言っても、そこで止めに入ったら僕が次のターゲットになるのは明白だった。「お、やっぱりブサイクはブサイクの味方するんだな(笑)」って。

顔のことはずっとコンプレックスだった。

高校は進学校だったので露骨なイジメみたいなことは流石になかった。寧ろみんな優しくて、付き合いが良くて、控え目に言って人生で最高の場所だった。友達も沢山いた、のだけれど、「クラスで付き合うなら誰か」みたいな話をしてて、優しい女子が僕の話題を振られるや苦笑いして

「性格とかは良いし面白いけど…やっぱり…アレが…ね」

みたいなことを言った時には僕も「やっぱりね」となった。

大学に進学しても、状況は変わらなかった。

寧ろ、東京の方は思ったことをストレートに伝えるタイプが多いらしく、より露骨に「そのこと」を言われるようになった。

まあ、あれだ。きっと集団生活の中で多面的な長所と短所が掛け合わされて立場が決まっていく中高と違って、人間関係の希薄な大学ではパッと見の重大性が相対的に大きいのだろう。

長所は見えにくい。短所はよく見える。いわゆる「こせいてき」なタイプだった僕のような奴ならその傾向がマシマシだ。それで見た目も残念となれば、もう何というか、アレだな、救いようがないんじゃないか？

これが僕のこれまでの人生。概ね満足はしているが、やっぱり心残りは恋だな。

もし僕の心が「正常なまま」だったら、いくら冴えない僕でも中学・高校で恋愛の一つや二つあったかもしれない。でももうない。無かったから無い。手遅れですわ。遅い遅い。

この先もこういうことはあるんだろうか。あるとすればどこで何回あるのか。知ってる方には是非教えていただきたい。

腕力には自信があるから、誰かに心が傷付けられる度に身体が「全部スッキリする最強の方法」を提案してくる。でも…東大生ですからね。それはちょっと解決策として賢くない。それは関係ないか。ともあれ、鍛え抜かれた僕のメンタルの強さは一級品ですよ。多少の悪口はへっちゃらです。どこで爆発するかは知りませんがね。

同じ理由で苦しむ人が減ることを切に願います。