見出し画像

Memories

記憶の横で陽射しはきっとこの部屋まで届いていない

だから隣の部屋へ行って、私はいちばん奥の重たいドアを開ける
四季の体がぶつかって風が吹く
そのドアを放つ手前には、きっといつかの文化祭で使用した、星空を模した大きな四角のアーチがあって
(私のしらない歴史)
それから小さな階段を、二三段程度踏むと
出てはいけない屋上に出る道のり
私は、銀色のドアの縁で立ち止まって
ピンク色になり始めた空と、人間の息がからまった住宅街を遠く、遠くまで見詰め倒して
その、風を一身に受けて
受けて、信じていた

だれもいないこの広く薄暗い部屋から、私が先程までいたちいさな併設の部屋に移る

木目のロウテーブルには、乾いた絵具がこびり付いていて
重ねられた予備校のDMは、やけに無造作
陽がないと思っていたこの部屋に、傾いて柔らかく差し始める
西陽にしびの色
私の網膜に、おんなじ色の影が映る
鮮明な影は、なめらかで、でも折々止まったりするコマ送り
私はそれを、焼けそうなほどまで観ていて
違う、違うといいながら
そうだ、そうだと笑ったり
なんの考えもなしに画用紙を汚してみて
まだ芽吹かないこの季節に
あいつはただ、花束を撫ぜているが
花弁はにこりと微笑む
飾られた色形いろかたち
変わらずに、彩っている

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?