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【短文エッセイ】"知性"について

最初に

こんな主張をしたところで僕のお気持ち表明にしかならないことは重々承知しているつもりではあるのですが、人々が知性という言葉を用いて指すものについて、少し具体的に述べようと思います。

端的に結論を述べてしまうと、現在のところ、ぼくは知性について「発する言論に合理性を持たせようとしている態度」のことを指しているのではないかと考えています。要するに、テキトーなことを言わないように注意を払っているかどうかが、知性の有無の分かれ目となっているのではないかと考えているのです。

では、合理性を持たせようとしている態度、テキトーなことを言わないように注意を払っている態度とはどのようなものなのか、以下では具体的に5つほどポイントを示していきたいと思います。

【補足】
先に述べさせてもらうと、以下の5つのポイントは互いに独立でなく、また排他的でない、相互連関的なものです。あるポイントはあるポイントに包含されるものである、という可能性もあります。

1.自身の主張に対して反駁する意見を歓迎する

自身の主張をより強固なものとする最適な方法は、自身の主張に反論するものの意見を受け止め、その結果、自身の主張について、できる限り公平な態度で再度検討を加える、というものではないでしょうか。

上で記したようなことはJ.S.ミルが『自由論』の中で述べていたことなのですが、こんな難しいことを言わなくても、他者の意見に耳を傾けない人が魅力的じゃないことは皆さんも同意されるところだと思います。

2.少なくとも自身が精通していない分野においては、自身の無謬性を仮定しない

一般に結論を出すのが難しいとされている分野、特に社会問題や哲学的問題について強固な信念を持つと、他者に不快感を与え、他者から知性的でないとみなされやすい気がしています。それらの問題は、通常一個人が(巨人の肩に乗らず)考察するには複雑すぎる問題なので。

例えば、非常に優れた成果を残している自然科学の研究者等であっても、社会科学の分野に関して明らかに間違っていると考えられる主張を(強い言葉を使って)展開しているところをTwitterで観測すると、残念でならない気持ちになります。

また、間違っているとは言えない主張をしているとしても、その主張の仕方が強い(他者を貶したり、断言する形)場合には、他者に不快感を与え、他者から知性的でないとみなされやすいです。

3.因果関係の有無に注意を払う

因果と疑似相関の違いを見抜く能力は、自身が展開する言説の合理性の高さに大いに寄与します。

例えば、よく使われる例となりますが「偏差値が高い大学に入学した人ほど、生涯収入が高い」という事実を与えられた場合「偏差値の高い大学に行けば収入は上がる」と結論付けるのは早計です。この場合、偏差値の高い大学に入学したから収入が高くなったのだと、両者の間に因果関係が存在することを措定してしまっています。ただ「偏差値が高い大学に入学した人ほど、生涯収入が高い」という事実を与えられただけであれば「もともと稼ぐ能力のある人が、偏差値の高い大学に入学している」可能性を否定できません。補足しておくと、米国における複数の実証的研究では、偏差値の高い大学に入学すれば収入が高くなる、という因果関係の存在は否定されています。さらに細かいことまで言うと、例外もあるみたいですが(例えば、貧困に喘ぐ黒人の方を分析対象とした場合、両者の間に因果関係が認められる)。

以上で示したような思考を日常的に行う能力は、知性的であることに大きく寄与すると、ぼくは考えています。

4.断言しない

「AはBだ」と言い切るのではなく「AにはBという傾向がある」「Aである場合はBであることがよく見られる」といった主張の形式をとった方が、より合理性の高い意見を展開できるのではないでしょうか。

ぼくも「〇〇なやつは何をやってもダメ」みたいな言葉を冗談で吐くことはありますが、本気でそう信じ込んでいる訳ではありません。

5.「個人的な願望」と「ある意思決定に対する妥当性評価」を分離する

特に、個人的な願望に基づいて政策の妥当性評価を下す人間、うじゃうじゃいますね。「(自身が苦しいことに起因して)賃金を上げないと労働生産性は上がらない」と主張したり「(節電したくないので)原発を回した方が良い」と主張したり……。こういう主張をしたいなら、内閣府や総務省が公表している統計の一つでも見てほしいものです。

勿論人間は個人の利得と損失に基づいて意思決定を行いますから、自身の願望に基づいて意思決定(投票とか)することは自然です。しかし、自身の利得と損失に基づいて政策の妥当性に関して判断することは筋違いな気がしています。

まとめ

勿論、以上に記したことを真理であると、ぼくは考えていません。あくまでも自然発生した"合理的ではない推論"を述べただけです。

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