最高のスコッチ
「いいスコッチがわからない奴は地獄に落ちる、らしい。」
グラスを傾けながら呟くと隣の男はカラカラと笑った。
「タランティーノかい。」
作品を間隙もなく当てられたことに、僅かな喜びと腹立たしさを覚えつい、ああ、そうだと短く返した。
こんなところでぐらい自らの博識に酔いたかったが、それは叶わなかった。
「俺も彼の作品は好きさ。」
彼は嫌いだけどね、そう続けた男も私と同じようにその手に持ったグラスを呷った。
彼は続ける。
「人間は自らの知識の中でしか対話することはできない。」
彼はどこか勝ち誇ったような顔をして私を一瞥した。
無性にムシャクシャして火の消えたピースを灰皿に押し付け、再びグラスを呷った。
冷たく透き通った水晶が小気味のよい音を立てて鳴る。
「僕はもういくよ。」
男に一言残して荷物をまとめた。
男はただそれを見つめている。
何も言わずに。
少し背中が寂しくもあった。
「最後に聞きたいんだが。」
男は一言問いかけてきた。
「スコッチは美味かったかい。」
背中でカランと鳴る。
「僕は」
一息ついて続ける。
「天国に行けそうだ。」
僕はバーの扉を開けた。
また聞こえた冷たい氷の音を背中で受けた。
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