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【読書】過去というラベルを貼らない【六月】

毎月の読書記録!
今月は7冊読んだらしい。
年間目標は100冊だからこのペースだと……うん。
まあ冊数よりも何を考えたかとか、そういうことの方が大切な気がする。

積み本も増える一方だし、一生かかっても読む本がなくなることはないのだと改めて感じる。
人生で使える時間は有限だということは直視したくない現実のうちの一つだ。

それにしてもここ二、三日本当に暑い。
私はわりと冷房つけなくても平気なタイプかなと何故か思っていたけど無理だこれ。
水飲みながら感想書くぞ!

劇場アニメ「犬王」公開直前対談 消えた存在をどう描くか 「犬王」が蘇らせる表現の初期衝動

文藝夏季号の湯浅政明さんと古川日出男さんの対談!

この間ついに犬王を見に行き、鑑賞後に読みました。

犬王、よかったです。
映画を見終わった直後には、言葉で整理できない大きな満足感がありました。ハッピーなストーリーではないし、むしろ残酷なのに、なぜだか胸の奥底が安らいでいる。不思議な感覚でした。

時間を置いて考えてみると、この映画は友魚(ともな)と犬王(いぬおう)を描いているけれど、間接的に私のことも描いてくれているのではないかと感じました。
歴史に名が残らなかった存在を描くことで、とるにたらない自分のことをも描かれて掬われたような気がする。だから満足感があったのではないか。

犬王は能楽師で友魚は琵琶法師で、二人は表現者です。
彼らは自分たちのスタイルで物語を語り、人々を魅了し絶大な人気を得ます。
人気だからといって、二人は他者を物語として語ることの暴力性も忘れていません。
語られる対象への向き合い方が丁寧で真摯で、そこも説明できない満足感に繋がった気がします。

湯浅 …だから小説が書かれていたように、アニメも失われた、もしかしたら思いどおりに生きられなかった人たちのことを掘り起こしつつ、昔のことを知るだけでなくて、いまいる人たちのなかにももっと知らなければいけない人たちがいっぱいいるということを描ければ、現代に映画としてつくることに繋がる。…
――――
古川 結局、僕らが知っている歴史って全部有名人の話なんですよ。有名人ってだいたい勝った人で。…歴史はそういう、ある意味勝った人とか有名な人しか残さないんだけど、一〇〇〇万人のうちのだいたい九九九万人くらいは「そうじゃないほう」で。自分もそっち側の人間として「その『消えていくもの』を『残す』にはどうしたらいいんだろう」と考えると、小説を書けばいいんだな、と。…

文藝2022年夏季号355頁~377頁より一部引用

今現在、自分が知らない人たちがいるという事実。

当たり前じゃん! とは思うんだけど、その事実の意味を理解できていなかったし、今もまだ分かっていないと思う。

この世には誰かのことを知れる小さな糸口がたくさんあって、たまに光を反射してちらっと光るんだけど、私はそれに気づけないし歩き去っているんだなという感覚だけがある。

湯浅 …自分たちが過去を想像するときに、やっぱり矮小化してしまっているところがあるんだと思います。…

同356頁より一部引用

自分にもそういうところがあるかもとギクリとした。

対談では東京の人が想像する地方についても言及されていて、地方というだけで文化がどんどん細くなるイメージを持つ人もいる……との指摘もあった。

映画・犬王には、ド派手ですごい演出の犬王の舞と新しすぎるスタイルで琵琶を演奏する友魚が躍動する迫力のライブシーンがある。

こんなの室町時代(今から約600年前)にあるはずない!
ということはない。

湯浅さんには「いま想像できるものは当時も誰かが想像しただろうという自分が以前から思っていた感覚」があるそうだ。

現在は過去から地続きに積み重ねられていて、まるで矢印のように見えない未来に進行していくものだと勝手にイメージしていたけれど違うかもしれない。

今は過去より進歩している、という漠然とした認識があった。
通信技術や移動手段、便利を進歩というならば、階段を登ってゆくように進歩している部分も当然あるだろう。
けれども、過去と現在のあらゆることを一方通行の矢印の関係で比較するのは危険だと感じるし、本質を見失いそうだ。
たとえば、目の前に犬王が現れたら一発ですごさを感じられるのかもしれないけれど、「過去」というラベリングをするだけで、昔にしては進んでたなという間違った向き合い方になってしまいそうだ。

過去というラベリング、偏見があるし気をつけなきゃ……と感じた対談でした。

古典が今に通ずる、なんてことは当たり前のことなのかもしれない。

アガサ・クリスティー著 中村妙子訳「春にして君を離れ」

ジョーン・スカダモアという主婦が主人公のサスペンス・ミステリー。
子どもの幸せを優先して考えて生活し、幸せで完璧な人生を生きている……と、ジョーンは思っているのだが……。

ずっと読みたかった本をついに読んだ!

グサグサ刺さる文章がたくさんあったけれど、一部でも紹介しちゃうとネタバレになるし面白さが減っちゃう気がするのでやめます。

読み終わった後はやっぱり悲しかった。
そしてジョーンの感情の揺れ動きがあまりに真に迫っていてゾッとした……。

私自身の問題意識として、自分の中にある偏見やラベリングをなくしたい、そういうもののない人間になりたい、という思いがある。
でも、自分の中にある偏見は決してなくならないし、いつまでも反省し続けなければならないと常々思っている。

ジョーンは自分の思っていることを他人に押し付けて考えてしまうたちと言えるだろう。
彼女は極端かもしれないけれど、これは自分かもしれないと思うところばかりだった。

真実を直視するのは苦しいんだ……。(山積みのタスクを見ながら。)
私のタスクは置いておいて、人間関係で他者を表面的にしか見れないとどういう末路が待っているのか。ジョーンがその身で語っている。

印象的なのは、ジョーンの気持ちが行ったり来たり揺れ動くところ。
天秤がゆらゆらと拮抗してどちらを選ぶか決めようとするところ。
ミステリーらしいハラハラ感があってページをめくる手が止まらなかった。

本編は主人公が場所的に移動することはほとんどなく、ジョーンの気持ちの動きだけで進んでゆく。
主人公の一人語りかつ景色の変化もなしでこんなに面白い小説なの凄すぎる。

ジョーンの夫、ロドニーの態度の罪、他人を本当に理解することを放棄した末の苦しみもあるけれど真実を直視する苦しみだってあるよねということ、ジョーンのした選択……。
広げて語りたいことが多すぎる小説だった。

「春にして君を離れ」は1944年に出版されたそうです。
そこまで昔の作品ではないな……。

無理やり今月のまとめ。
過去の作品だからといって「過去」というラベルを貼らず、目の前に、むしろ自分の前を行く存在として感じていきたいな。
……ていうか、事実として前を行く存在だな。先輩だ。
古典を読みなさい! と言う人の気持ちがわずかに分かったような。。。

いつもより長くなってしまったし、読書の感想というより犬王の感想が多すぎる。

そういえば秋ごろに同人イベントに申し込みました。
即売会にサークルとして出るのは3年ぶりとかかな……。
二次創作ではあるけれど、だからこその緊張感もあり、それまでに読んでおきたい本もたくさんある。

なんにせよ楽しくやれればいいか!!

ここまで読んでくれた方、ありがとうございました。



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