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「三大レクイエム」を知ろう!!ーモーツァルト、ヴェルディ、フォーレのレクイエムー


日本の8月は原爆投下の日や終戦の日などがある月ですね。そのため、追悼や平和の式典も多く行われ、思うところが多いです…。

今回は、それに少し関連して、キリスト教における"死者のためのミサ"、「三大レクイエム」を取り上げます

レクイエムとは
「レクイエム」とは、キリスト教のカトリック系での「死者のためのミサ」のことであり、そこで演奏される聖歌。「ミサ」とは「祭礼、典礼」のことで、ざっくり理解するなら「毎日の儀式、あるいは特別な儀式」のこと。
なので、「レクイエム」をもうちょっと簡単に言うならば、レクイエムとは、カトリック教会における、死者の安息を神に願うことが目的の儀式のことであり、そのために演奏されるのが聖歌のことでもある。
ショパンの葬儀でも、ジョン・F・ケネディの追悼ミサでも演奏されたらしい。
細かいことを言えば、ミサ曲の歌詞は固有文と通常文から成り、ミサの種類によって必要なものが変わったり、使っても使わなくても良いものがあったりする。ざっくり言うと、三大レクイエムの中でも、共通する歌詞と共通しない歌詞があるってこと。


「三大レクイエム」

レクイエムは死者のためのミサで演奏される曲。極端なことを言えば、死者のためのミサの数だけレクイエムがあってもおかしくはない。(もちろん同じ曲を繰り返し用いることも多いけど)
そんな多くの曲の中でも、「これはすごい、これは芸術的に傑作だ」というレクイエム(曲)が、モーツァルト、ヴェルディ、フォーレのレクイエム。この3つが、「三大レクイエム」と呼ばれています。


以下では、「三大レクイエム」の作曲家とレクイエムを紹介していきます。


モーツァルト《レクイエム》K. 626


モーツァルトについて

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(Wikipedia: ヴォルフガング・アマデウス・モーツァルト)

ヴォルフガング・アマデウス・モーツァルト(1756~1791)については、以前明日だれかに話したくなる!?モーツァルト《トルコ行進曲》のアレンジ曲を知ろう!!』の回にて解説しましたね。
重複してしまいますが、こちらでも簡単に解説を。

モーツァルトは多彩で耳なじみの良いメロディーをたっくさん作れた人。
彼は数多くのメロディーをどんどん登場させて色鮮やかな曲を作り上げた人。

代表曲としては、
  ○ピアノ変奏曲《きらきら星変奏曲》
  ○オペラ《魔笛》

などがあります。(楽曲のYoutube映像は以前のモーツァルトの回の記事をご参照ください)


モーツァルトの《レクイエム》

彼の《レクイエム》は、彼の死の直前に書かれました
「顔を見せぬ人が家を訪ねてきて、レクイエムの作曲依頼をし、前払い分の報酬を支払い消えていった、それは死神だったのではないか」という有名な逸話がありますね。


モーツァルト直筆としては未完に終わりましたが、その後、モーツァルトの弟子が補筆して完成されました。その補筆に際して、多かれ少なかれモーツァルトの指示があっただろうと言われています。

弟子たちがいろいろ補筆したため、後世の研究者や楽譜出版社たちは、モーツァルトの意図した音楽はどこまでなのかを研究し、模索しました。そのため、様々な主張により様々な楽譜校正がなされモーツァルトのレクイエムの楽譜には様々な版が残されています。

有名なものは、
・モーツァルトの自筆譜をもとに補筆されたジュスマイヤー版(1800,1812年)
・ジュスマイヤー版のオーケストレーションを変更したバイヤー版(1971年)
・レクイエム200年記念演奏会に向けて作成されたレヴィン版(1991年)


モーツァルトの《レクイエム》の特徴

版によって音楽の特徴は少しずつ変わりますし、どこまでがモーツァルトの音楽かについての定説は完成していませんが、
少なくとも、

「D-C#-D-E-F-G-F-E-D (レ-ド#-レ-ミ-ファ-ソ-ファ-ミ-レ)」という主題が楽曲全体を通して登場すること
・以下にまとめた、楽曲構成(歌詞構成)

は、モーツァルトの《レクイエム》の大きな特徴と言えます。


楽曲構成
I. Introitus: Requiem【入祭唱: 永遠の安息を】
II. Kyrie【憐れみの賛歌】
III. Sequentia
  1. Dies irae【怒りの日】
  2. Tuba mirum【人智を超えたラッパ】
  3. Rex tremendae【恐るべき王】
  4. Recordare【思い出してください】
  5. Confutatis【呪われた者】
  6. Lacrimosa【涙の日】
IV. Offertorium
  1. Domine Iesu Christe【主なるイエス様】
  2. Hostias et preces【犠牲の祈り】
V. Sanctus【聖なるかな】
VI. Benedictus【祝福の祈り】
VII. Agnus Dei【神の小羊】
VIII. Lux aeterna【永遠の光】
楽譜
楽譜を見たいなという方はIMSLP(International Music Score Library Project)よりどうぞ!
楽譜を選びたい方ここからどうぞ。
選ぶの面倒な方こちらをおすすめ。
  (出版社情報:
   Wolfgang Amadeus Mozarts Werke, Serie XXIV: Supplemente, Bd.1, 
   No.1 Leipzig: Breitkopf & Härtel, 1877. Plate W.A.M. 626.)


ぜひぜひ、音楽を聴いていただいて、モーツァルト《レクイエム》を楽しんでいただければと思います。
みなさんは、「モツレク」に何を思うでしょうか?


ヴェルディ《レクイエム》


ジュゼッペ・ヴェルディ(1813~1901)について

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(Wikipedia: ジュゼッペ・ヴェルディ)

イタリアの作曲家。
1962年~1981年まで、イタリアの紙幣の肖像になっていた。
「オペラ王」の異名をもつほど、オペラを多く作曲した。

ここで少し、ヴェルディがイタリアオペラ界へどんな功績をもたらしたのかを少しお話しよう。
ヴェルディはオペラ《オベルト》(1839)でオペラ作曲者としてデビューした。その当時のイタリアオペラ界は、ちょうどロッシーニ(1792~1868)、ベッリーニ(1801~1835)、ドニゼッティ(1797~1848)がオペラ作曲家としての活動を終えたところであり、その後釜として一身に期待を受けた。
そんなヴェルディが書いたオペラは当時の観客が要望していた「ベルカント・オペラ」(ベルカント唱法という軽やかで優美でありつつも高度な装飾技術をアピールする歌い方と、ベルカント唱法で魅せるためのオペラ形式)をベースにしつつも、独唱、重唱、合唱、オーケストラ、そして物語をうまく統合させた、時代を先取りするドラマ性を強めた形式のオペラであった。ヴェルディのオペラはイタリアオペラの完成点であるとも言われる。

代表的なオペラには、
《椿姫》(Youtubeはこちら)
《ナブッコ》(Yotubeはこちら)
《アイーダ》(Youtubeはこちら)
などがあります。


ヴェルディの《レクイエム》について

話がそれていましたが、ここからヴェルディの《レクイエム》の話に戻りましょう。
こちらの作品も通称、「ヴェルレク」と称されます。

ヴェルディは、《レクイエム》を1874年に完成させました。これは、19世紀イタリアで有名でありヴェルディが敬愛していた作家のアレッサンドロ・マンゾーニ(1785~1873)の追悼のために作曲されました


さすがドラマチックなオペラを作曲するヴェルディが書いただけあって、《レクイエム》も大規模でドラマチックなものです。カトリックの精神に満ちているとも言われています。

初演はイタリア・ミラノにあるサン・マルコ教会で行われました。その初演後の数日間で、宗教曲としては異例にも思えますが、ミラノ・スカラ座で3回の再演が行われました
個人的には、この再演のスピードと再演がスカラ座であったことから、当時の聴衆たちの熱狂ぶり感嘆ぶりが伝わると考えております。


楽曲構成
第1曲:
I. Requiem e Kyrie【レクイエムとキリエ】
II.  Dies iræ 【怒りの日】
  1. Dies iræ 【怒りの日】
  2. Tuba mirum【人智を超えたラッパ】
  3. Mors stupebit【死も自然も驚くだろう】
  4. Liber scriptus【すべてを記した書物が】
  5. Quid sum miser【憐れな私は何と弁明すれば】
  6. Rex tremendae【恐るべき王】
  7. Recordare【思い出してください】
  8. Ingemisco【私は嘆息します 】
  9. Confutatis【呪われた者】
  10. Lacrymosa【涙の日】
III. Offertorio【奉納唱】
IV. Sanctus【聖なるかな】
V. Agnus Dei【神の小羊】
VI. Lux aeterna【永遠の光】
VII. Libera me【私を解き放ってください】


楽譜
こちらもIMSLP(International Music Score Library Project)よりどうぞ!
楽譜を選びたい方ここからどうぞ。
選ぶの面倒な方こちらをおすすめ。
  出版社情報:  Leipzig: C.F. Peters, n.d.[1934]. Plate 10955.


モツレクに続いて、ヴェルレクもお聴きいただければ幸いです。(どっちも聴くと長いので、数日に分けても良いと思います)
私はヴェルレクが好きです。ヴェルレクは荘厳であり、深い感動を与える楽曲とだと思います。特に、第2曲の「怒りの日」を聴くと、感情が高ぶり、心が揺さぶられます



フォーレ《レクイエム》Op.48


ガブリエル・フォーレ(1845~1924)について

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(Wikipedia: ガブリエル・フォーレ

フランスの作曲家。
1896年(51歳の時)にフランス国立音楽学校の作曲科教授になった
彼の音楽は、上品で洗練されており、フランスの伝統的な貴族の音楽を具現化させたようだとも言われる。
交響曲は出版しておらず、室内楽曲や歌曲を多く書いた

代表曲は、
劇付随音楽《ペレアスとメリザンド》(Youtubeはこちら)
歌曲《夢のあとで(Après un rêve)》(Youtubeはこちら)
《ヴァイオリン・ソナタ 第1番》(Youtubeはこちら)
などがあります。


フォーレの《レクイエム》について

室内楽曲や歌曲を多く書いたフォーレは、おおきな形式の楽曲を作曲していない。そんなフォーレの作品において、《レクイエム》は数少ない大きな形式の作品のひとつです。

モーツァルトやヴェルディとは異なり、フォーレは《レクイエム》を、特定の誰かを追悼するために作曲したわけではないと、自ら書き残したようです。

(モツレク、ヴェルレクとは異なり、フォーレの《レクイエム》だけ略称を聞かない気がしますが、なぜでしょう…)

モツレクとは違い、フォーレ自身が改編した稿があります。現在演奏されるのは、第3稿が多いようです
・第1稿…1888年完成。
・第2稿…1893年完成と言われる。スコアの自筆譜は失われており、パート譜を参考に楽譜が校訂されている。
・第3稿…1900年完成。同年パリ万国博覧会でも演奏される。現在演奏されるのはこの稿が多い。

楽曲としては、激しく変化する部分が少なく、息の長い旋律が多いです。また、当時のレクイエムには必須であった「怒りの日」を構成に入れていないというのも大きな特徴です。
これらのことから、初演当時は「死の恐ろしさが表現されていない」との批判もあったようです。


楽曲構成(2稿以降)
1. Introitus et Kyrie【入祭唱とキリエ】
2. Offertorium【奉納唱】
3. Sanctus【聖なるかな】
4. Pie Jesu【慈愛深いイエスよ】
5. Agnus Dei【神の小羊】
6. Libera me【私を解き放ってください】
7. In paradisum【楽園へ】


楽譜
こちらもIMSLP(International Music Score Library Project)よりどうぞ!
楽譜を選びたい方ここからどうぞ。
選ぶの面倒な方こちらをおすすめ。
  出版社情報:  Copyright © 2000, 2005, 2007 Philip Legge. All rights reserved.
  著作権: Creative Commons Attribution No Derivatives 3.0
  注記:  Reconstruction of Fauré’s 1888 and 1893 versions, edited from the original (1900) full score published by J. Hamelle, with additions by Philip Legge.  クリエイティブコモンズ 表示・改変禁止 2.5 オーストラリア


フォーレの《レクイエム》、それは、フランス系の音楽、そしてフォーレの洗練された音楽を楽しめる作品だと思います。
聴いているときの個人的心情としては、ヴェルレクとは対照的に、気持ちを落ち着かせてくれるのかなぁと私は感じております。


おわりに

今回は、死者のためのミサで演奏されるレクイエムの中で最も優れた三曲として知られる、モーツァルト、ヴェルディ、フォーレのレクイエムを取り上げました。

いかがでしたでしょうか?
8月はレクイエムを楽しみつつ、様々なことに思いを巡らせてみるのも良いのではないでしょうか。


おまけ

トップ画像は、1515–20年にフランドル派の画家が描いた《The Last Supper》という作品です。
Metの著作権フリーライブラリーからお借りしました。(こちら)

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