葛飾北斎_神奈川

浮世絵は包み紙にも、楽譜にも使われた!?―葛飾北斎と西洋音楽


バレンタインデーが近づいてきましたね、お店にはとても美味しそうなチョコレートが並んでいて、通りがかる度「食べたい…」と思ってしまう今日この頃。
やはりこの時期はバレンタインデーということで、noteのテーマも愛やチョコレート……では面白くないから、このコラムでは「包み紙」に着目してみたいと思います!!


「包み紙」としての浮世絵

江戸時代の包み紙って何だったか、ご存知でしょうか?
現代では割れやすいお皿を包む時、新聞紙やチラシのような、くしゃくしゃにしてもいいものか、あるいは緩衝材などを用いますよね。
江戸時代では、割れやすいお皿が「浮世絵で」包まれていました。

「実は日本が鎖国していた江戸時代、すでに浮世絵は海外にわたっていたという。当時、唯一外交関係にあったオランダを介して、海外に輸出されていた漆器や陶磁器などの“包み紙”に古い浮世絵が使われていたからである。後に、それが評判となって美術品としての浮世絵版画を買い求める交易者も出た。」(出典: [1]「世界に広がる浮世絵の歴史と広がり」)


江戸時代の日本での浮世絵は、手軽に手に入るもの。そして、チラシや観光名所の情報を知ることができるという実用的な側面も、見て楽しむことができる娯楽的な側面もありました。そう、高価な芸術品ではなかったのです。


(突然ですが)ここで問題です!!

ちょっと脱線しましょう。問題です、
Q: 江戸時代、浮世絵はいくらで買えたのでしょうか?

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……答えは、

   A: ワンコイン以下で買える

でした!ほんとに手軽!

[もうちょい詳しく]  (出典: [1])
・かけ蕎麦一杯      約320円
・カラーの大きな浮世絵  約400円 (縦39cm×横26.5cm)
・カラーの細長い浮世絵  約160円 (縦33cm×横15cm)
・売れ残った浮世絵    約60~120円


こんな感じで、高価な芸術品ではなく、安価に見て楽しむだけでなく、広告や包み紙にも使われた浮世絵
有名なことですが、浮世絵が芸術作品として評価されたのは、1867年のパリ万博がきっかけでした。

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出典: Wikipedia「パリ万国博覧会 (1867年)」



パリ万博以降、西洋芸術界での浮世絵ブーム

1867年のパリ万博をきっかけに西洋芸術界で日本文化への熱狂、いわゆる「ジャポニズム」が巻き起こりました[1]。
特にジャポニズムに熱狂した音楽家は、やはりドビュッシーラヴェルでしょう。
(芸術家という括りでは、ゴッホやモネ、ゴーギャンなどもいますね。)

ドビュッシーとラヴェルは
葛飾北斎《富嶽三十六景》より「神奈川沖波裏(かながわおきなみうら) 
からインスピレーションを受けた
と言われています。
(神奈川沖浪裏の解説はこちら[2])

葛飾北斎_神奈川

出典: Wikipedia「神奈川沖浪裏」


交響詩《海》
ドビュッシーが作曲した交響詩《海》。
この曲は副題のついた3つの部分(楽章)から構成されています。3つの副題はそれぞれ「海上の夜明けから真昼まで」、「波の戯れ」、「風と海との対話」です。
(原語だとこう。1. "De l'aube à midi sur la mer"-2. "Jeux de vagues"-3. "Dialogue du vent et de la mer")


この副題を頭の片隅において、演奏をお聴きください。

(youtubeより)

この楽譜の表紙に、「神奈川沖波裏」の一部が用いられています。
ドビュッシーがこれを表紙にしたいって主張したとも言われています。
その楽譜の表紙がこちら。浮世絵の左半分が描かれていますね!

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交響詩《海 La Mer》1905年初版の表紙画  (出典: IMSLPよりLa Mer

この楽譜はIMSLPよりダウンロードしました。
IMSLP(アイ・エム・エス・エル・ピー)とは、"International Music Score Library Project(国際楽譜図書館プロジェクト)"の略称で、カナダの著作権法に基づいて、著作権の切れた楽譜をインターネットで公開しているサイトです。2020年2月1日現在、50万冊の楽譜を公開しております。
[3] IMSLP


《海原の小舟》
さてお次は、ラヴェルが神奈川沖浪裏からインスピレーションを受けて作曲したと言われる、組曲《鏡》より「海原の小舟」
ラヴェルはこの楽曲を作曲する際、神奈川沖浪裏の波に翻弄される三艘の小舟に着目したそうです。
浮世絵のここの部分ですね↓(赤い丸に舟がある)

葛飾北斎_神奈川_3隻の小舟


この舟をイメージしつつ、演奏を聴いてみましょう。

出典: Youtube

いかがでしたでしょうか?
楽曲と絵のイメージは同じでしたか?異なっていましたか?
(私はこの曲から、浮世絵のように激しくなく、むしろ物悲しい印象を抱いています)

みなさまが思い思いに楽曲とイメージを楽しめていたら何よりです!
(楽曲の構成や解説が知りたい方には、ピティナのピアノ曲事典をおすすめします。こちら[4])


最後に

今まで出てきた
・パリ万博
・ゴッホ、モネ、ゴーギャン
・葛飾北斎
・ドビュッシー、ラヴェル
を中心に、芸術史上の出来事も含めた年表を見てみましょう。
この時代はどんな時代だったのでしょうか?

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パリ万博は江戸時代の末。
ドビュッシーはパリ万博の時に5歳、ラヴェルはパリ万博の後に生まれていたのですね!!
そして、ドビュッシー《海》やラヴェル《鏡》が作られた頃、日本では森鴎外、芥川龍之介、宮沢賢治、川端康成、そして山田耕筰が生きていた…。
(う~ん、とても興味深いです!)


江戸時代末~の西洋と日本の文化に思いをはせつつ、本日はここまでとさせていただきます。

バレンタインデーには、自分のご褒美としてでも、大切な人へ感謝を伝えるためでも、チョコレートやちょっとしたものを買って、ぜひ、その包み紙にも拘ってみてはいかがでしょうか?


参考

[1] 「くもん浮世絵ミュージアム」より「世界に広がる浮世絵の歴史と広がり」
https://www.kumon-ukiyoe.jp/history.html

[2] 文化財オンラインのHPより神奈川沖浪裏の解説
https://bunka.nii.ac.jp/heritages/detail/246760

[3] IMSLP; "International Music Score Library Project(国際楽譜図書館プロジェクト)"
https://imslp.org/wiki/Main_Page

[4] ピティナ・ピアノ曲事典より、ラヴェル :鏡
https://enc.piano.or.jp/musics/329

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