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井伏鱒二、マグリット、ガーシュイン。実はこんな繋がりが…!

『日本語の作文技術』という本に登場した「井伏鱒二」。あれ、この人何を書いた人だっけ?
…そんな疑問から、本記事では、井伏鱒二と同時代の文化人についてまとめました。


『日本語の作文技術』

日本語で文章を書く時に、「あれ、何かわかりにくい文章になってしまう…」と感じるときはありませんか?
そんな時には、この本!
『日本語の作文技術』をお勧めします!

(心からおすすめしたいのに、表面的な宣伝っぽい文章になってしまった。)


この本では

「修飾語をどう配置するとわかりやすいか?」
「読点(、)はどこに打つべきなのか?」

などが実例をもとに説明され、ルール化されています。


「ふむふむ、確かに…」などと感嘆しながら読んでいるのですが、
この本で、良い例として井伏鱒二の文が引用されていました!

井伏鱒二『山椒魚』(冒頭)
山椒魚は悲しんだ。
彼は彼の棲家である岩屋から外へ出てみようとしたのであるが、頭が出口につかへて外に出ることができなかつたのである。

この文章は、

「これをテンとマルで切りながら朗読して見ると、そのままで実にわかりやすく、自然で、したがって正確かつ論理的だ。」

と評されています。


この部分を読み、「よし、井伏鱒二の本を読んでみよう!」と思ったけれど、「あれ?井伏鱒二って何を書いたっけ?」となってしまった私…。

せっかくなので、井伏鱒二と同時代の文化人について調べてみました!


井伏鱒二

井伏鱒二

(Wikipedia: 「井伏鱒二」)

1898年 … 生まれた。和暦にして明治31年

1929年 … 『山椒魚』を著した。

1930年 … 太宰治が訪れ、弟子入りする

1937年 … 『ジョン万次郎漂流記』を著した。この作品で直木賞を受賞。

1966年 …『黒い雨』を著した。この作品で野間文芸賞を受賞。
この年、文化勲章も受賞。

1993年 … 亡くなった。和暦にして平成5年。享年95歳であった。


井伏鱒二の作風

詳細な伝記は他のサイトにお任せして、
この記事では、信頼のおける解説サイトや論文を典拠として彼の作風を紹介しよう。

以下では3つを参照し、その後彼の作風まとめました。


①NHKアーカイブスによるNHK人物録(こちら)

[井伏鱒二は、]市井に生きる普通の人々を優しい目で見つめ、おかしみのあるユニークな文体で小説や随筆をかいた


これより、
井伏鱒二の作品は、「ユニーク」で「おかしみのある」ものである。そして、「普通の人々」を題材としていることがわかりました。


②『山椒魚の忍耐―井伏鱒二の文学』という、文芸評論家で法政大学名誉教授の勝又浩さんが著した本の解説文


身近な小動物や山川草木の世界に慈愛のまなざしを向け、『山椒魚』などの異色作、『ドリトル先生』の翻訳、また時には『黒い雨』といった問題作をも世に問うてきた井伏鱒二。
特段の知識も小説技法もないし、高遠な理想もなければ深遠な思想もない。そうではなくて、もっぱら地に足ついた生活実感のただなかで創作を続けた静かな巨人、その豊かでいとおしい文学世界を逍遥する。


これより、
『山椒魚』が「異色」な作品であること、『黒い雨』が物議をかもす「問題作」であったことがわかりました。
さらに、「地に足ついた生活実感のただなか」で「静かに」創作したことも見て取れました。

(なんだか、井伏鱒二に親近感がもてると思った!)


上記の『山椒魚の忍耐―井伏鱒二の文学』に対し、日本文学の研究者で早稲田大学の准教授である塩野加織さんが、研究誌の中で紹介記事を書いていました。
その紹介記事(こちら)より、いくつかの文章を抜粋しました。

井伏文学に底流するテーマが「悲しみ」であり、それは「山椒魚」以降「黒い雨」にまで繋がる

井伏作品の代表的なモチーフである幽閉と漂流について、両者が表裏の関係にある

井伏文学の基底にあるのは、しばしば言われるような「諦観」ではなく、歯がみせんばかりの「忍耐」だという本書の主張


これより、
井伏鱒二の作品では、漂うのは「悲しみ」であり、「幽閉と漂流」というモチーフが扱われ、かつ、その中で「忍耐」をもって生きている様子が描かれていることがわかります。



さて、以上の3つの参照から考えるに、

井伏鱒二の作品は、
 日常を生きる人々が、
 何らかの出来事に対し「悲しみ」を抱きつつも
 「忍耐」をもって生きている様子を、
 ユーモアに描いている

のかなぁと理解できるのではないでしょうか?
(うん、実際に作品を読みたくなった)


井伏鱒二と同い年の文化人

さて、この井伏鱒二と同い年の文化人に、有名な方が2人ほどいます。
誰だかわかりますでしょうか?

それは……

ルネ・マグリット
ジョージ・ガーシュウィン

です。


①ルネ・マグリット

ルネ・マグリット

(Wikipedia: 「ルネ・マグリット」
ローター・ヴァレーによるルネ・マグリットのポートレート)


シュルレアリスムの代表的画家で、ベルギー出身のマグリット。
彼も、井伏鱒二と同じ年、1898年に生まれました。

(シュルレアリスムに関しては、note記事「あなたは何問解けるかな??―芸術にまつわる人物の生没年クイズ!」のQ8を参照してください)


有名な絵としては、「イメージの裏切り」がありますね。
この絵にはパイプが描かれているけれども、パイプの下には「これはパイプではない」という文字が…。

イメージの裏切り_マグリット

(Wikipedia: The Treachery of Images)


あとは「人の子」も有名でしょう。
この絵では、なんとびっくり、描かれている男性の顔の大半がリンゴで隠されております。
マグリットはこの絵に
「…(略)…私たちが見ているものは、一方で他の事を隠してしまいます…(略)…」
とコメントしているそう。

人の子_マグリット

(Wikipedia: The Son of Man)


その他には
「大家族」(artpediaさんへ)や
「白紙委任状」(artpediaさんへ)も
有名ですね。

(著作権的に引用可能かがわからなかったので、絵の閲覧はartpediaさんへ飛んでくださいませ。)


ちなみに、ブリュッセルにマグリット美術館があるそうです!
旅行に行けるようになった時には、ぜひ足を運んでみてください。



②ジョージ・ガーシュウィン

ガーシュイン

(Wikipedia:「ジョージ・ガーシュウィン」)

言わずと知れたガーシュウィン。アメリカで活躍した作曲家ですね。
彼も、井伏鱒二と同じ年、1898年に生まれました。


やはりガーシュウィンといえば、《ラプソディ・イン・ブルー》

(YouTube: レナード・バーンスタインとコロンビア交響楽団の演奏)


他にも、オペラ《ポーギーとベス》よりアリア「サマータイム」も有名です。

(YouTube: George Gershwin - Summertime)


この曲は、今ではジャズのスタンダード曲となっているとのこと。

(YouTube: ジャニス・ジョプリンが歌う「サマータイム」)



おまけ:井伏鱒二と同年代の文化人

おまけとして、井伏鱒二の生年(1898年)からプラマイ5年の範囲の人をまとめて記載しました!
井伏鱒二と同時代の雰囲気を掴めると良いなと思って載せてみました。

1894生 … 速水御舟
1895生 … パウル・ヒンデミット
1896生 … 宮沢賢治

1898生 … 井伏鱒二
1898生 … ルネ・マグリット
1898生 … ジョージ・ガーシュウィン

1899生 … 川端康成
1899生 … フランシス・プーランク  (フランス6人組の一人)
1899生 … ジョルジュ・オーリック   (フランス6人組の一人)
1899生 … アーネスト・ヘミングウェイ
1903生 … アラム・ハチャトゥリアン
1903生 … テオドール・アドルノ


最後に

以上、井伏鱒二と同世代の文化人でした。

井伏鱒二は明治から、世界大戦を経て、平成の最初まで生きた人。

そんな彼と同じ年に生まれたのが、マグリットとガーシュウィン。
二人とも井伏鱒二と異なる国で生まれ、井伏鱒二よりも早くに亡くなっているけれど、生まれた年は同じ。

何か通ずるものがあるか、それとも異なるのか。
あなたはどう感じましたでしょうか?

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