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異世界タクシー・勇者と仲間達を乗せて・第三話(キングゴブリンと魔法のナイフ)

森を抜けると、眩しい太陽の光が目に突き刺さる。
目を細めて、広大な草原を走行して10分後、遠目にゴツゴツとした岩の城が現れる、肉眼見てもわかるぐらいの巨大な岩が鎮座していた。神が生命を与えたら、すぐにでも動き出して街をいとも簡単に壊し、世界を支配しそうだとそんな妄想をしながら運転していたら、アガレストの最後尾に追いつく。ゆっくりとスピードを落として走行、アガレストの横を並走しながら窓を開ける「アガレスト、あの岩にゴブリン達がいるのか?」首をこちらに向け
「あぁ、あの岩の要塞にゴブリン達がいる。」ぶら下げた布袋から望遠鏡を取り出し、コブリン達がいる
方向に向けて望遠鏡を覗き込むと、ゴブリン達がせっせと働いていた。望遠鏡を動かすとグツグツと湯だった鍋の上に、紐で縛り付けられ吊るされた男女4
を発見する。望遠鏡から顔を離すと、歪んだ顔をするアガレストを戸川・陽介は見逃さなかった。
「どうした?何かあったのか。」「まずいなぁ、捕虜がいる。」「捕虜?何人いるんだ?」「4人だな、現時点の話だが、ここで話しても埒が明かない、先へ進むぞ。」平坦な道から、荒れた道を歩くこと20分、
数百メートル先に、ゴブリン達が住む岩の要塞が現れる。「ちょっとそれを貸してくれ。」窓から手を伸ばす、アガレストは渋々望遠鏡を渡すと、ちょうどタクシーが隠せる場所を見つけ、そこに停車し窓から望遠鏡を覗き込む、緑と黄色と赤のゴブリン達が忙しく動いている。何かを準備していた、広場の真ん中にグツグツと煮立っている鍋を見つけたが、吊るされていた男女はいなかった。横に視点をずらすと大きな洞窟から頭を屈めた状態で見たこともないモンスターが姿を現す。「なんだあのモンスターは。」望遠鏡を奪い取りクレイは覗き込む「あれはキングゴブリン、まずいなぁ。アガレストに言わないと」クレイはドアを開け、外に出てアガレストを探すがいない。周りを確認していると、戸川・陽介はクレイを呼ぶ。「おい、クレイ大変だそ。アガレスト達がゴブリンがいる場所に行ってるぞ。」指を指している方向を見ると、馬を走らせ、ゴブリンのいる住処へと攻め入る。「嘘だろ、なんで作戦を考えねえんだよ、アイツはよ。」「どうするクレイ、俺らも行くか。」クラクションが鳴り、無線から声が聞こえてくる。「待て待て、お前ら正気か?早く逃げようぜ、なぁ。」ハンドルを軽く叩く。「痛っ、おい。」「クレイ、行こう。彼らだけには任せられない。」「そうだなぁ、彼らを死なせるわけにはいかないクレイと陽介は乗り込むと、クレイは渡したナイフはあるか?と聞いてきた、陽介はズボンのポケットからナイフを取り出す。「あぁ、持ってるよ。」ナイフを確認すると、安堵し、「よし行こう。」「おい、聞いてるのか?おい、」無線から聞こえてくる声を無視して
アクセルを踏み込み蛇行運転、勢いそのまま広場へと突っ込んでいく。広場で戦っていた騎士とゴブリンが逃げていく。急停止するとクレイがドアを開け外に出ると、近くにいたゴブリンに斬りかかっていく。油断していたゴブリン達が集まってくると、獣臭が漂う、臭いに敏感な戸川・陽介は勢いよくドアを開け嘔吐、「なんだこの臭いは、こいつらってこんに臭いのかよ。」数匹のゴブリンがゾロゾロと現れ、
獣の雄叫びを上げると「コイツラを殺せ、殺せ、」の
大合唱、後ろに一歩後ずさりすると、一斉に襲いかかるゴブリン達の猛攻をかろうじて避けると、ポケットからナイフを取り出し鞘を放り投げるが、「おいクレイ。どうなってんだよこのナイフ、刃がないぞ。」ゴブリン達が腹を抱えて笑い出す、顔が真っ赤になる戸川・陽介、他のゴブリンと交戦中のクレイが駆け寄ると「そのナイフはイメージナイフと言って、心にイメージしたものをナイフに具現化する効果がある。とにかくなんでもいいからイメージしてみろ。」背中合わせになる戸川とクレイ、何をイメージしたらいいんだ?急に想像しろと言われても何も頭にイメージが浮かばない、再びゴブリンの猛攻が始まるのかと思いきや、ゴブリン達は後ろに逃げる
なぜ後ろに逃げたのか、その理由がすぐにわかった。岩の山からジャンプしたキングゴブリンが落ちてくる。2体のキングゴブリンがいるなんて絶望的だった。あまりにも戦力差がありすぎる、ここは撤退して戦略をもう一度練るべきだと、クレイはアガレストの場所へと走り出す。その一方で戸川・陽介は足が震えていた。2体の巨大なキングゴブリンが現れ足に接着剤が張り付いた様に、何度も足を動かそうとしても動かない。キングゴブリンは腕を伸ばし、
戸川・陽介を掴み持ち上げる。「糞、離せ、離せ、」
抜け出そうともがくが、強い力で締め付けられ逃げ出せない。キングゴブリンは掴んだ手を口に近づけていく。自分を食べる気だとわかると目を閉じ想像する、キングゴブリンの手が光り輝きだすと同時に、手から血が流れる出す。キングゴブリンが咆哮し手を離すと、戸川・陽介は地面に落下していく、
スロモーションのように様々なことが頭に浮かぶ。あれもこれもまだしてない、後悔や懺悔が血液の様に駆け巡っていく。地面に落下していくかと思いきや、背中が何かに当たる。なんだと背中を見ると、筋肉ムキムキのマッチョマンが戸川・陽介を、お姫様抱っこした状態で地面に降りる。筋肉マッチョを
見た瞬間驚愕した。「お、俺じゃねえかー。」20代の若い時の自分がそこにいた。一時期ボディービルダーを目指していたあの頃、まさかこんな風に出会えるなんて、「おい、もう一人の自分、もっとイメージしろ?」戸川・陽介を地面に降ろす「何をイメージすればいい。」、キングゴブリンが睨みつけてくると、右の拳を高く振り上げ、叩きつけてくる。
「筋肉をイメージしろ、筋肉を。」目を閉じて昔の自分を、いや、もっと、筋肉がある人間を、ピカピカと光り輝くと同時に、身体中の筋肉が躍動し、身体も身長もキングゴブリンと同格になる、その様子を
呆然と診ているアガレストとクレイ、ゴブリン達も動きを止め見ている。クレイが戸川・陽介に近づくと指を差して「あれなんなんだ、まさか、あれって。」「そうだよ、若い時の俺だよ。」顔を真っ赤にして言うと俯く。なんで昔の自分を想像したんだろう。恥ずかしくて、この場から逃げ出したかった。
でも眼の前で、もう一人の自分が戦っている。「陽介、なんで、あんな格好をしているんだ?なんでパンツ一丁なんだ?」説明したくない、説明したらしたで、絶対にドン引きするだろうと確信があるだけに、なんて説明しようか迷っていると、アガレストが鬼の形相で走ってくると、戸川・陽介の胸ぐらを掴み、顔を近づけて「あ、あれはなんなんだ、説明しろ。」「いやぁ、あれは、」いいずらそうにしていると「あれは、この世界の救世主、アルバータじゃないか、」「アルバータ?クレイはアルバータって知ってるか?」
クレイの顔を見ると知らないって顔をする、アガレストの顔に向き直すと「あの、アルバータってなんですか?」ゴブリンの攻撃を剣で防ぎ、顔だけこちらに向けると、「その話はこいつらを倒してからだ。」アガレストはゴブリンがいる方へ突撃していく
「アルバータって俺も初めて聞いた、お前は世界の救世主なのか?」クレイは真剣な顔で聞いてくるが、首を横に振ると、「そうかわかった、ん?まずい、陽介話は後でなぁ、」ゴブリンがいる方へ走っていくクレイ。戸川・陽介は視線を上に向けると、牢屋らしき場所が見える、すぐにその場所に向かって走り出す。ゴブリンの攻撃をかわして前に進む、階段を登って牢屋の前に立つと、子供と老人が床に座っていた。「大丈夫かぁ、少し待ってろ。」周りを確認すると手に収まるほどの石が見つかると、その石を持って、牢屋の前に立つと施錠された錠前に石を叩きつける。2回叩きつけると錠前は壊れ、牢屋の扉を開くと、こちらを見る子供と老人はこっちに近づいてくると涙目でありがとう・ありがとうと何度も
言う。老人と子供をを牢屋の外に出し、足早に階段を降りると広場は激しい戦場、その中をくぐり抜けていく。広場を抜けタクシーを隠した岩場に来ると
老人と子供をタクシーに乗せると、子供は不安なのか泣き出しそうな顔をする、その子供の頭を優しく撫でる老人。戸川・陽介は子供を老人に任せ、広場へと走って戻ると、キングゴブリンはもう一人の自分と悪戦苦闘している。クレイもアガレストもゴブリン達と戦闘、右側にいるもう一体のキングゴブリンが戸川・陽介に近づいてくると右腕を伸ばしてくる。左に避けるついでに、左足に力いっぱい蹴りをいれる。キングゴブリンは苦悶の表情を抱えながら、前のめりに倒れる。倒れたキングゴブリンの背中に乗ると、腰に身につけた革袋を漁り、短いロープを取り出すと背中に放り投げる。すると
短いロープが生き物の様に伸び始め、大蛇の様にキングゴブリンを身体中を締め付ける。ジタバタと暴れるキングゴブリンの背中から降りると、クレイが
話しかけてくる「陽介、なにをしたんだお前。」
「このロープのおかげだよ、まぁ虫なんだけど。」
ロープ?虫?クレイの頭はハテナになっていた。
「虫?やめてくれ、俺は虫が嫌いなんだ。」クレイは顔を引きつらせながら、後ろに一歩下がる。
クレイにも嫌いなものがあるのかと、親近感を覚えた自分がいる。「お前ら、何を遊んでいる。」アガレストが馬に乗って近づいてくると「ゴブリン達が森の方へ逃げ出した、行くぞクレイ。」「お前らだけで行けよ。アガレスト。」「いいから来い。」無理やり、
馬に乗せられ、森がある方向へ走っていく。1人残された戸川・陽介は悪戦苦闘している、もう一人の自分へ駆け寄ると、徐々に劣勢になっていく、「どうした、もう一人の自分。頑張れよ。」「すまない、もう時間だ」身体が光り輝いて消えていく

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