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『クリスマスはやっぱりチキン?それとも?』あくまで利上げに慎重な日本銀行

2024年12月19日、日本銀行は金融政策決定会合で政策金利を据え置いた。12月に入ってから多くのメディアが利上げ見送り観測を報じており、大方の予想通りの決定だった。とはいえ、植田総裁は「経済・物価の見通しが実現していくとすれば、それに応じて、引き続き政策金利を引き上げ、金融緩和の度合いを調整していく」と繰り返し述べており、オントラックなら利上げを進めるという方針からすれば、今回の判断の根拠は分かりにくい。

実際、この会合では田村委員が利上げを提案しており、ボードメンバーの中でも意見が分かれた(議案は1対8で否決)。今回の決定の背景について、植田総裁の記者会見を確認してみる(動画テキスト)。

なぜ利上げしなかったのか

まず、

  • 最近の経済物価動向に関する各種の指標は概ね見通しに沿って推移

と述べており、基本的にデータはオントラックだ。一方で、利上げを見送った背景としては、

  • 賃金と物価の好循環の強まりを確認するという視点から、来年の春季労使交渉に向けたモメンタムなど、今後の賃金の動向についても少し情報が必要

  • 米国をはじめとする海外経済の先行きは引き続き不透明であり、米国の次期政権を巡る政策の不確実性も大きい

と、賃金動向と海外経済を挙げた。

いつ判断できるのか

次回以降の利上げの是非についてはどこまでも慎重だ。

  • 次の利上げの判断に至るには、不正確な言い方ではありますけども、もうワンノッチ欲しいというところ

  • 見極めていくための情報は徐々に明らかになっていく

  • 金融政策運営については特定のデータやイベントを待たないと判断できないというものではございません

これらの発言から、利上げがそう遠くないニュアンスは感じられる。賃金動向について、「春闘」ではなく「春闘のモメンタム」という表現に拘っていたのも、おそらく、全体が確認できない時点でも利上げ出来るという可能性を残す意図だ。

また、利上げが遅れることの弊害として、

  • (基調的な物価上昇率が)先行きどこかで急上昇するというリスクは常にありますし、場合によってはそのリスクを拡大させてしまうという可能性もあります

と説明していることからも、利上げの方針自体は維持している。

ただし、今後のスケジュールを考えれば、春闘や海外の政策リスクについて、早々に大きな情報が入ってくるとは考えにくい。12月が見送りなら3月以降にならないと判断できないだろうという見方も十分成り立つ。だからこそ、1月に利上げをしてもサプライズにならないような配慮は各所に見られた。

結局、次の動きが1月なのか3月なのか、あるいは場合によってはもっと後ずれする可能性もあるのか、決め打ちをしない姿勢は徹底している。あくまで毎回の会合がライブであり、利上げのパスが具体的に想定されることを強く警戒している。

マーケットは

今回の判断については、前日のFOMCが市場予想よりタカ寄りとみなされたことから、株安、ドル高が進んでいた地合いが影響した可能性はある。植田総裁は、

  • 株価動向を含めまして、様々な資産価格の動向は注意深く見ていますし、経済物価見通しに与える影響、あるいは金融市場の安定性に与える影響等、常に注意して見ている

とし、市場動向が政策判断に直結するものではないと示唆している。重要なのはそれが物価経済見通しにどう影響するのか、しないのかだ。

とはいえ、結果的にではあるものの、8月の内田副総裁講演での、

  • わが国の場合、一定のペースで利上げをしないとビハインド・ザ・カーブに陥ってしまうような状況ではありません。したがって、金融資本市場が不安定な状況で、利上げをすることはありません。

という発言に則した決定が下された形なった。

日銀の利上げ見送り決定後、日本株の下げ幅は米国に比べて小さかった。もし仮に日銀が利上げし、株安が加速していれば、7月利上げ後の市場混乱の繰り返しになっていた可能性もないとは言えない。8月から9月にかけて、日銀が極端にハト寄りな情報発信をせざるを得なかったことを考えれば、ここでリスクを取るべきではないという判断にも一定の妥当性があるだろう。

為替市場については、会合後円安に振れた。事前の想定よりタカ寄りなFed、ハト寄りな日銀の組み合わせとなれば自然な反応だ。

既に海外はクリスマス休暇に入る時期であり、更にこの年末年始は国内も連休が長い。市場流動性が低下しやすいタイミングであり、急変があれば円安が一段のインフレリスクを高めるかもしれない。総裁記者会見では大きなトピックにならなかったが、1月利上げは円安次第という見方は出来る。

余談

金融政策運営について、タカ派、ハト派という評価軸は古くからある。2024年12月時点の日銀ボードメンバーで言えば、田村委員は利上げに積極的なタカ寄り、中村委員は利上げに慎重なハト寄りという評価が多いだろう。

一方、タカでもハトでもない、チキンを自称したのは、2000年の藤原副総裁だ。

  • 「『タカ』とか『ハト』とかの分類でみると、自分で自分の姿を見たことがないからわからないが、私は強いて言えば『チキン』かな」と言ったことがある。「チキン」というのは鶏だが、英語ではご承知のとおり、「臆病者」、「小心者」という意味がある。

クリスマスが近い12月。やはり今回の日銀にはチキンが相応しかったというべきだろうか。

しかし、どうやらクリスマスにチキンを食べるのは日本だけらしい。米国で七面鳥を食べる習慣を真似たものだそうだ。タカでもハトでもなく、そしてチキンでもなく、実はターキー(Turkey)だったということなら、物価の先行きはどうも不安である。

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