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待ち合わせは21時

一週間の中で最も心躍る、金曜日。休み真っ只中の土日も悪くはないけれど、これから丸々2日間、仕事や煩わしい人間関係のことを考えなくてもいいのだという解放感に浸れる金曜日の夜に勝るものはない。飲むお酒だって片っ端から美味しく感じられる。今ならちょっとした旅行にでも、クラブのオールナイトにでも、何だって出掛けられるという万能感に包まれて。或いはそこで本当に小旅行に出掛けなくても、ただ「今なら何を企画しても、実行に移せる」ということを噛み締められるだけで、幸せなのである。安上がりといえば、それまでだけれど。

夜のアクティビティが好きである。本を読みに出掛けるスターバックスは、日中の喧騒も落ち着いて、ガラス越しの灯りさえやさしい。夜の高速道路を独り占めにするドライブ。ぼけっと煙草を吸いにいくバーで観るアメフトやサッカー。とまり木の梯子で頭のてっぺんから爪先までアルコールが行き渡った頃になれば、ラーメン屋の軒先の食券機に小銭を注ぎ込んで。丼の中を空にして店の外にでれば、ほんのり東の空が明るいのも、また乙ではある。土曜の朝、これから目覚ましもかけず深く深く眠ればいい。眠りを妨げるものは、何ひとつない。

とどのつまり、夜が好きな人間なのである。夜になれば俄然頭が冴えてきて、物事を深く考えることが出来るような気がする。手許の本の活字もいきいきと、頭の中で物語の世界を形づくるような。物書きをしていても、昼間はすらすら出てこない言葉たちが、信じられぬほど雄弁に姿をあらわすのだ。一方で、夜を思いのままに操ることのできる日は、週に一度の金曜日だけ。平日の日中に会社勤めをしているわたしにとって、睡眠に割ける時間帯は夜間しかないのだ。しかもロングスリーパーな体質となれば、眠りの確保は死活問題である。こうしてわたしは、これから先も人生で訪れる、何万回もの夜を知らずに生きていくのだ。これから先も真理に近づくことを許されないまま、うすぼんやりと生きていくのよ。

夜更かしが許される金曜日。週明けから患っていた風邪も快方に向かっているので、ようやく自分にお酒を飲むことを許した。実はここ最近、自宅の真裏の建物の入り口に、杉玉がぶら下がっているのが気になっていたのだ。いざ急な階段を上ってみれば、そこには何とも趣のある酒場があったという僥倖。隣の住人である旨を告げたならば、仕事帰りに何時でも一服しにいらっしゃいと、歓迎してくださる。さて、本日出逢ったお酒は、島根の開春「竜馬」。竜馬は杜氏さんのお名前であるらしい。本日いただいた一本は、10年ほどお店で熟されていたもののようで、香り高い一杯であったこと。これだから金曜日は、いい。

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