フルリモートワークだからこその"手触り感"。キャスターが紙のマガジンを作った理由
2024年1月初旬、キャスターで働くメンバーの自宅に「Caster Magazine SIGN」と書かれた冊子が届きました。
発送主は、株式会社キャスター。メンバー向けの社内マガジンが送られてきたのです。
あらゆることがオンラインで完結するフルリモート企業のキャスターでは、紙の配布物といえば事務的な書類がたまにある程度です。そんな会社から、いつもと様子の違う印刷物が届いたのです!
社内マガジン(以下「SIGN」)プロジェクトを率いたデザイン部の佐野 明稀さんに、ねらいや制作の裏話を聞いてみました。
フルリモートワーク企業として次のフェーズへ。会社とつながる「実感」をどうつくる?
ーー紙の社内マガジンを創刊した理由を教えてください。
発端としては、昨年の上場(東京証券取引所グロース市場)を機に会社が新たなフェーズに入り、オフラインの取り組みが増えたことです。
キャスターは、創業の2014年から一貫してフルリモート組織を構築してきたので、“リモートワークのパイオニア企業”というイメージが強いと思います。これからも新しい働き方をリードする企業であるのは変わりませんが、目的に対して理にかなっていることが重要で、何もかもオンラインだけで完結させるというこだわりは持っていません。
キャスターだからこそできる「オンラインとオフラインのちょうどいいバランス」を考えたり、「次の新しい働き方の選択肢をつくり、実践していく」という方針の中で、社内メンバーに向けた新しいコミュニケーション媒体として企画されたのが「SIGN」でした。
ーーなぜ社内向けの媒体が必要だったのでしょうか?
キャスターは採用面談から退職までフルリモートが当たり前で、オンラインで仕事を完結するスタイルに疑問や不自由さを感じる人はあまりいないでしょう。むしろ、多くのメンバーがリモートワークを望んで入社してきているので、この働き方に満足していると思います。
一方で、フルリモート環境ではどうしても会社に属している「実感」を持ちにくい人もいると思いますし、今後さらに成長する企業としてキャスターの価値観・文化をきちんと伝えて、残していく方法が必要でした。
月に1度オンラインで発行される社内報はすでにあったのですが、「SIGN」はもう少し長い目で見るようなトピックを掘り下げたり、ストーリーをじっくり伝えるのに適するよう、年に1度の発行としました。
私自身はキャスターで約7年働いていますが、「会社に属している実感」というものをあまり考えたことがなく、面白いプロジェクトだなと思ったものの、最初は手探りでした。
と考えたときに、会社が今までとは異なる角度でコミュニケーションをとってきたらギャップが面白く、身近に感じるのではと思いました。
コンテンツを制作するうえで目指したこと
ーー「SIGN」創刊号は、CI・VI(コーポレートアイデンティティ・ビジュアルアイデンティティ)の紹介、キャスターで働くメンバーのインタビュー特集などがありました。コンテンツをどのような意図で作られたのか教えてもらえますか?
「SIGN」には、コンテンツを決めたときの3本柱があります。
1. 情報伝達
2. 理解促進・思考支援
3. エンタメ要素
たとえば、2023年4月にリニューアルされたCI・VIを掘り下げる特集は「情報伝達」「思考支援」の要素が強かったり、メンバーのインタビューは「理解促進」「エンタメ要素」が大きかったりという意図はありますが、
すべてをこの3本柱にはめ込んで考えるのではなく、全体として「キャスターのことをもっとよく知り、理解できて、楽しめる」マガジンを目指して作っていきました。
編集チームから受け取ったインタビュー原稿を読んだら、驚くほど面白かったのがとても印象に残っています。
全国46都道府県にいるメンバーの中から「最北端」「最南端」に居住している人にライフスタイルを聞いたり、創業当時より在籍しているメンバーからほとんど誰も知らないようなエピソードが飛び出すなど、自然に惹き込まれるストーリーが集まっていました。
原稿が先にあって各ページのデザインに落とし込んでいくため、序盤で「キャスターって掘ってみるほど面白い会社だな…」とストレートに実感できたことが制作の燃料になりました。
裏テーマは「生成AIとの共作」。相性の良いタスクとは?
ーー「生成AIを活用して作る」が裏テーマだったと聞きました。効率化は図れましたか?
私が担当した、クリエイティブディレクションとの相性はよかったです。制作初期に画像生成AIのMidjourneyを使っていろいろ試していたら、偶然にもすごく良いビジュアルが出てきたので、すぐに表紙に採用することが決まりました。
想像を超えた体験で驚きましたし、表紙のディレクション工数は8割くらい削減されたと思います。表紙イメージが早い段階で決まったことが、全体を引っ張ってくれました。
ーー佐野さんのプロンプトがよかったのでしょうね。プロンプト作成のコツはありますか?
コツというよりは、単純に楽しんでいます。プロンプトにシチュエーションの他、どんなタッチのビジュアルにしたいかなど、細かいワードも入れてみて結果を見るのが楽しいです。入力したワードをガン無視されたり、裏切られることも多いですが・・・(笑)
Midjourneyがそれこそ紙のマガジンを発行していて、リアルな写真のように見えるものからアート性の高いものまで、さまざまなタッチの作品がプロンプトと一緒に載っていて面白いです!
Midjourney magazine:https://mag.midjourney.com/
一方、記事の編集を担当したメンバーはChatGPT4の活用になかなか苦戦していたようでした。
ーー私も記事づくりでChatGPTを使うことがありますが、指示と違う!という時があり、思うように使いこなせていません。
わかります。最初に「ですます調で」と指示したのに、やり取りの途中で、「だである調」に変わっていたり。そんな時は、「なにしてんねん!」ってツッコんだりします(笑)。
でも、「指示と違います」と言えば「申し訳ございません」とちゃんと謝ってくるので、かわいいなぁとも思ったり。人間と違って嫌な顔ひとつしないし、気を遣わなくていいのがいいですね。
「SIGN」の記事も「ここはGPTくんが書いたそのままだろうな」と分かるような独特の言い回しをあえて残していたりして、とても味があります。
はじめての雑誌制作。”手触り感”って何だろう?
ーー制作にあたって苦労したことはありますか?
表紙はMidjourneyのおかげですぐイメージが固まりましたが、中身を詰めていくにあたり、いろいろと煮詰まりました。
制作メンバーも雑誌をつくるのは初めてだったので、紙質やレイアウト、ページ数、文字の大きさや記事のボリュームなど、すべて手探り。
創刊号をなんとか”手触り感”ある体験にしたく、いろんなフリーペーパーや紙媒体を手にとって検討したり、試行錯誤の期間は長かったです。
展示会などにも色々行ってみたなかで、「クリスチャン・ディオール、夢のクチュリエ」展が印象的でした。中に入るとエリアごとにテーマがあって豪華絢爛な世界が広がっているんですが、入口はとてもシンプル。洗練されたビジュアルで、情報量が適度に抑えられていて。
マガジンが届いて受け取ったときの第一印象や、ページをめくる体験そのものも大事にしたいなと思っていたところに、何か手がかかりを得られた感覚がありました。
冊子があんまり薄いと存在感がないよね、とページ数は当初の2倍近くなり、紙の質感なども実際にいろいろと触れて検討した結果、自分たちなりの”手触り感”にはたどり着けたのかなと思います。
とはいえ入稿するギリギリまでデザイン担当のメンバーと「答えが何通りもあるし、バランスが難しいね」とよく話しました。
「会社の公式マガジンだから」とつい考えすぎてしまい、最初に作った誌面構成はコンテンツのリズムがお経のように一定で(笑)真面目すぎるものになりましたし、
「雑誌なんだからいい意味で適当に。遊びがあっていい」と言われて目が醒めたものの、最後まで肩の力が抜けきらないところもありました。
「オフラインで情報に触れることが新鮮」「家族に見せられるって良い」
ーー社内の反応はどうでしたか?
さまざまな声をいただきました。一番多かったのは、オフラインで会社に触れたことに関するコメントですね。
私自身も手にとって嬉しかったのですが、こうした社内の反応を見るのは格別でした。
家族に見せた人も多かったようで、なかでも印象に残っているコメントは
というもの。リモートワーカーは通勤もせず、ずっとPCに向かって作業をしているので会社や仕事については理解してもらいにくいですよね。
「SIGN」はキャスターで働く人と、その周囲にいる人へ向けたブランディングツールでもあるので、メンバー本人以外の目にも止まったのは重要な意味があると思います。
少し意外だったのは、好き嫌いが分かれるかなと思ったパッケージデザインも好評だったこと。「カッコよかった」「捨てるのが勿体ない」という声を多数いただいてました。
ーー最後にプロジェクトを振り返ってみて、どうでしたか?
制作メンバーだけでなく多くの方にご協力いただいて、こうして無事に完成したことに心から感謝しています。
社内からのフィードバックを受けたり、目的に立ち返ってみるといろいろな反省点がありますし、まだ伸びしろが大きいプロジェクトです。
キャスターは今年で創業10周年という大きな節目を迎えるので、「SIGN」の次号はもちろん、キャスターに関わる皆さんが新たな価値を感じていただけるような施策を、オンライン・オフライン共に企画していきたいです。
ーー佐野さん、ありがとうございました!