バブルの頃#150:雇われ社長

川西専務と東副社長のご紹介が済んでいますので、次に社長の森村さんです。森村さんは、子会社をパブリックカンパニーにすることをオーナーが発表して以来、店頭公開を目指して、経営基盤の確立とか営業力強化などの施策を先頭にたって推進されてきました。

この会社は社長が3年程で交代するためでしょうか、社員は社長に呼びかけるとき「森村社長」と、肩書きの前に苗字をつけます。日常、社内では「さん」づけで呼び合っているのですが、社長本人に直接呼びかけるときは、固有名詞にします。これには違和感がありました。事業部長とか部長とかは複数いらっしゃるので、社内、公式の席では、頭に苗字をつけないと特定できません。しかし社長はユニークです。ひとりしかいません。ですから、まわりで森村社長と声があがるたびに、社長は森村さんのほかにいないのに何か気になってしまいます。

前職で15年間ほど、外資とは無縁の民族企業それも同族のオーナー企業の本社に長く勤務したものですから、どうしても長年受けた社員教育が残っています。オーナー社長に向かって、「苗字プラス社長」で呼ぶのはご法度でした。日常社内で、オーナーの苗字が社員の口から出ることは全くありません。協力会社でさえオーナーとか親指を代用して社長を特定します。これは絶対的な権力構造のある社会では普通のことで、時代劇でお上とか上様と徳川将軍家の当主を呼ぶのと同じです。

代表権をもつ社長というのは圧倒的な権力を持つ人物と社員が納得していると思ったのですが、このSI会社で違いました。「森村社長の意見はそうだろうが、自分はそうは思わない」と、職場長は自分のテリトリーでは部下に公言します。もちろん、公式の席でも各職場長は自分の意見をしっかりと述べます。「当事業部の結論にそって会社は意思決定をしてもらいたい」とまず主張し、代表権をもつ経営者の決裁を仰ぎます。もちろん、提案が否認されたり差し戻しになったりするのは日常茶飯事ですが、認否保留はありません。

現場からあがってきた案件についての意思決定は問題ないのですが、経営者の独自の判断による上意下達は、スムーズに運ばないことがあります。例えば、森村さんの意向を受けた部下が、意思決定の会議体で森村案件を提案する際、森村さんがその会議に欠席した場合、社長の意向が無力化され継続審議になったりすることがあります。自分はそうは思わないという幹部社員が多いことがネックになるのかも知れません。

ワンマンとは別の意味で、しっかりとした経営ビジョンを持ちリーダーシップを発揮する経営者の存在を、投資家は評価するということが、IR(投資家向け広報)のひとつであることを後日知りました。

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