見出し画像

恋に落ちた人を見たことがあるかい?・十月二十一日のこと。

今日は朝から目覚まし時計が鳴って、元気な学習教材のアニメキャラクターの可愛い声と、賑やかな音楽を瞬間的にはたいて止めてた。日曜日の朝。そんな反射神経虚しく、娘は起きて何度も話しかけてくれる。あまりにねむくて、相槌が夢の中と混在しほどけてゆく。そんなことを繰り返していたら諦めたのか自分でさっさと着替えて、遊ぶために下に降りて行った。平日はてこでも一人で着替えないというのにゲンキンな…と思いつつ、ありがたく惰眠を貪る。日曜日の二度寝が一番好きだ。

ゆるゆると起きて朝ごはんを食べて、地域のフェスに行くことにする。あえてフェスと書いたのは、それが祭り、というよりカクカクとしたカタカナの似合う新しいイベントだから。いきたくないという息子を宥めて、車に押し込んで出発。駅前の商業施設に駐車して、少し離れた会場を目指すことに。

途中大きなステージがあって、バンドがリハーサルをしていた。それぞれの音量を見ながら、軽く合わせている。イントロがなつかしいようなあたらしいような、全く音楽に詳しくないわたしは、たいてい素通りしてしまうのだけれど「お?」と思った瞬間子供達がさささーっと最前列に行って、しっとりとやさしいボーカルの声に釘付けになっていた。普段家では聞くことのない音量、楽器、声、全部に空気が震える。ああ、音楽ってこういうことなのか、とおもうくらい自然に吸い寄せられていて、その目はもうそこから離せず、勝手にリズムをとっていた。リハーサルは終わり、本番の時間を彼女たちは告げた。

その後すこし子ども広場のようなところで遊んで、また会場に戻った。全ては聞けなかったけれど、目は、耳は、真剣だった。彼らにとっては、初めてのライブ体験だった。街が音楽に包まれる。みんな聴いていい、閉じられていない音楽は自由で心地いい。
【猫戦 ねこせん】 という名前を持つバンドに、小さな彼らは恋に落ちたのだった。恋落ちる時、コトン、と音が聞こえるような気がする。

それは人にでも、ものにでも、今日は音楽だったけれど、その瞬間は、見ているこちらも心臓がきゅっとなるくらい、なんだか尊い。

友人が絵を買った時のことを思い出していた。その時も、コトン、と音がするようで、微かに震える手を傍らで見ていた。

自分が何かに恋をした時、コトン、と音はするんだろうか。その音は、自分には聞こえるんだろうか、じっと考えたけれど思い出せなかった。

恋するものに出会ったとき、その出会った瞬間よりずっと前にすで落ちていた気がしてしまう。出会うまえから決まっていたような感覚が強い気がする。再会というか。
やっと会えた、みたいな。やっぱり好きですか、好きですよ。みたいな。

・・・
たくさんワークショップで工作をして、帰路に着いた。息子は行く時にごねたことなんて、まるで忘れているようで最後まで残ろうとした。ゲンキン、本日二度目。

帰りの車で、今日聞いた猫戦の曲をかけてほしいと乞われたので、探してかけた。キャビア~Black Pearl~ や もちもち 二人とも、いや私も、満たされていた。

帰ってからは相変わらずばたばたしたのだけれど、それでも小さな「恋」に落ちることは尊い。と思った。今日はもうゆっくり眠ろうと思う。


よろしければサポートお願いいたします!いただいたサポートはフィルムと子どもたちとの旅に使わせていただきます。